第11話 プレゼンと現実と
好きな人と裸の付き合いをしてみた感想はとりあえず幸せだったということ。決して裸が綺麗だったとかそういうのではない。少しだけそれもあったり・・・?くらいの程度であり、それほど重要ではない事で。
私が幸せだと感じたのは幸子さんがデートを思いのほか楽しみにしてくれていた事。それに次があるということが一番重要だったりする。最後に嬉しさのあまり抱きついてしまったことは・・・うん。結果オーライだった。胸の谷間にお邪魔してしまったのはラッキーな誤算?わーいと抱き着いたら幸子さんが抱きしめ返してくれたからそうなっただけである。私は決してやましい気持ちがあってそこに顔を埋めたのではないのだ。まぁそのあとは赤面してしどろもどろになろうとも。それでも幸子さんはうふふって笑うだけだったりして。本当に余裕のある大人はすごいです。
「上野さん今度のプレゼンの資料のことで部長からここ訂正をもらってるので確認しておいてください」
「ありがとうございます。」
「今度のプレゼン頑張ってくださいね。」
「佐伯さんの後で緊張しますね。失敗しないように頑張ります。」
幸子さんから引き継いだプレゼン。クライアントに向けての重要なものだけに緊張してしまう。私も入社当初から社内向けの小さなプレゼンをいくつか担当させてもらってはいるのだけど、こんなに重要なプレゼンは今回が初めてである。私と幸子さんが担当するようにという部長の命令だった今回のプレゼンは幸子さんの力量を部長が知っていたからだと思う。私は半分の資料の説明とサポート役ということになっていた。
今回、幸子さんがプレゼンに参加できないという事で半分が全てになって、サポートは幸子さんがするということになった。サポートと言っても会場でサポートというより、私のプレゼンの資料をまとめたり、リハーサルを見てここはこうした方がいいという指導を兼ねているような事。たぶん普通の新入社員ではできないであろう事までしてくれるのはやはり幸子さんだからだろう。そうこうして幸子さんのサポートのもと、私は今までにないほどこのプレゼンには自信があったりする。
「これで今回のプレゼンテーションを終わります。お忙しい中ありがとうございました。また、今後とも弊社をよろしくお願い致します。」
最後の締めくくりの挨拶が終わってほっとする。何とかスムーズにプレゼンを終えた。緊張はしていたものの、幸子さんがさんざん付き合ってくれたプレゼンの練習や資料説明だ間違いもなく説明できたし、それに今回の出来は今までのプレゼンの中では一番と言えるのではないだろうか。
「君いくつ?」
資料を片付けていた時にクライアントが続々と退出する中、私に声が掛けられた。相手を見るとさわやかそうで私よりいくらか年上そうな青年がこちらに笑顔を向けている。
「23ですけど」
「そっかぁ若いのに素晴らしいプレゼンだったよ」
褒められていることに対しては嬉しくはある。
「ありがとうございます」
「それで、今日暇かな?食事でもどう?」
「あの・・・」
これはデートの誘いだろうか。やはりそうとしか考えられないのだが、こんな会社でこういう直接的なアピールをされたことがなかった私は困ってしまった。相手はしかもプレゼンの相手でありクライアントであるのだ。ここで断ってしまっても先方に印象が悪くなったりはしないのだろうか?困っていると会議室のドアが開いた。開いたのは幸子さんだったようだ。このピンチをどうしたらいいのかわからずに幸子さんに助けてという目を向ける。
「優斗なにしてるの?」
「え、幸子・・・?」
幸子さんの知り合いであるこの人。下の名前で呼び合ってるくらいの親しい仲だということがすぐにわかると、幸子さんが怖い顔をしていきなり私の手を取った。
「雅美ちゃん行きましょ?」
「え、幸子?」
「今日は雅美ちゃんは私と予定あるから。手出さないで。」
優斗さんにぴしゃりと言った幸子さん。何カッコいいんですけど・・・!そして私は幸子さんに手を引かれるまま会議室を出たのだった。幸子さんと優斗さんの関係が気になったけれど言える雰囲気ではないように思う。無言のままの幸子さんにロッカールームまで引っ張ってこられた私は手をようやく放された。
「幸子さん?」
「ごめんなさい雅美ちゃん」
「どうして幸子さんが謝るんですか?」
「だってあの人に雅美ちゃん取られるかもと思ったら」
ロッカールームまで引っ張られている間もどうしてそんなに怒っているのだろうと考えてはいたのだけど、幸子さんの言葉に耳を疑った。
「あの・・。それってどういう意味ですか?」
「優斗、あの人は女癖が悪いの。それが原因で私達は婚約破棄したのよ。」
なんだそういうことか。幸子さんの妹的存在の私に悪い虫がついたらいけないとかそういう意味で・・・。なんでそんなに残念に思ってしまうのか。それは、私を独占したいと思ってくれた?とわずかな期待があったから。それに幸子さんの元婚約者があの人だったこともわかった。けど、それは今の私にとってはどうでもいいことだった。
「そうですか。」
がっかりしたのが声に出てしまったかもしれない。けど所詮は幸子さんにとって私はそういう存在でしかないのだ。幸子さんの顔を見るとなんだか納得してないみたいな顔をしているみたいだけど、それ以上は何も言ってこないのはやっぱりそういうことなんだなって余計に落ち込む。
「行かなきゃね」
そう言われて私達はロッカールームを出たのだった。
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