第9話 デートの計画と実行と

 幸子さんとデートの約束をしてからは、相変わらず幸子さんを目で追うのは変わってないのだけれど、仕事の時にもどうすればいいのかということを考えていた。

 一発逆転のデートをしたい。普通のデートでも楽しいのは確か。デートというのは二人っきりでお出かけという意味である。どこに行ったところで私は楽しい。だけど、相手がいることである。幸子さんはどこに行きたいだろう。こちらからさそったのだからプランを立てるのは私の役目だと思う。普通に無難に映画とかはデートの定番だけど、それって普通すぎて、会話できる時間が減ってしまってなんだか残念な気がする。もし本当に恋人同士のデートで映画を観るのであれば、こっそり手を握ったりということでドキドキしたりということもあるかもしれない。こっちはまだ付き合ってもいなければ、意識もされてない相手にデートを仕事と引き換えにこぎつけただけのデートと言う名のお出かけである。幸子さんを友達と私が思っているのであるのならば遊びに出掛けるのと同じなのである。幸子さんにとっては、妹分とお出かけくらいしか思ってないんじゃないだろうか。


「それってかえって普通のお出かけのつもりでいた方がよくない?」


 デートを強調したことは失敗だったかもしれない。私が意識してもらいたいと思って言った「デート」というのは伝わっていないと思っていた方がいいに決まってるのだ。デートプランとしてみては遊園地のアトラクションやショッピング。映画、美術館。色々浮かびはするけれど、どれも友達と行っても変わらないものだったりする。

 もっと意識してもらうためのデートプランと言うのは私は経験がなさ過ぎて思い浮かばない代物だ。数少ない恋人と行った所とか?元彼と行った所と言えばどこだったか。ヤッてからはろくにデートというものをしていたか疑問である。食事ホテル食事ホテルの繰り返しだった事実に今更気づく。


「どんだけヤッてんのよ私」

「雅美ちゃん?」

「うぇ!?」

「何百面相してんの?やってる?やってない?」

「やってないです・・・?あ、何でもないです幸子さん!」


 そんなことを考えていたところにやってくるのが幸子さんなのは、彼女はエスパーか何かなんだろうか。


「雅美ちゃん、今週末のデートなんだけど」

「え、もしかして都合悪くなっちゃいました?」

「いや、大丈夫なんだけどね。これもらったんだけど一緒に行かない?」

「これって・・・」


 二枚の日帰り温泉のチケットだった。11時から3時までのお部屋で食事付きの温泉チケットである。これは、なかなかなデートっぽいプランと言いますか。けど、温泉ということは一緒に温泉に入るということでして。


「いや?」

「っ・・・!ぜ、全然嫌じゃないです!行きます!」


 嫌とかなわけじゃない。とんでもない。こんな邪な感情をもった私が幸子さんと裸のお付き合いをしてもいいのか少し考えただけである。


「デート楽しみだね。」

「は、はい・・・!」


 幸子さんはデートと言ってくれていた。デートということを私があれだけ強調したからだろうけれど、まさかのデートは日帰り温泉。なんということだろう。デートに温泉ですよ?裸の二人ですよ?なにかあったらどうするんだ。私が何もしなければ何も起こるわけはないけれど、私の心臓はどうにかなるのはたぶん確実だ。そして、鼻血とかでないよね?と思うのは考え過ぎだろうか。

 学生の頃は修学旅行とかで一緒にみんなでお風呂とかはあったけれど、それって別ものだと思う。何しろ、皆裸なわけで、そんなじっくりと見るなんてこともできませんし?それに、好きな人が一緒に入るにしても二人っきりのシチュエーションなんて殆ど訪れないのだから。それを考えると今回はかなりやばい状況とみた。


 考えて考えて想像して想像してあっという間に週末になってしまった。ついに日帰り温泉に出かける日になってしまったのだ。昨日はろくに眠れないままの起床である。楽しみとかいうより、ドキドキしすぎて眠れなかったのは言うまでもない。待ち合わせは駅に8時。少し遠いところにある旅館までの時間を考慮して、時間が余ったらどこかぶらぶらしようかという幸子さんの提案である。何から何まですみませんと言いたくなるくらい自分が何もできてない事に申し訳なくなってくる。


「幸子さん!」


 駅で目立つ美人を見つけたので駆け寄る。好きな人はすぐに見つけることができるというのはやっぱりこいうことなんだろう。幸子さんはひざ丈のスカートにコートにマフラーといういで立ちで、少し大き目なバックを持っていた。最近寒くなってきたから、私も同じような恰好である。スカートを選んだのはデートなのだから少しはおしゃれをしたいなと思ったから。幸子さんに可愛いと言ってもらえるようにという下心もあるのは否定できない。


「雅美ちゃん可愛い」

「あ・・・ありがとうございます」


 入念に選んでよかった。照れてしまうけれど、私も。


「幸子さんも綺麗です」

「ふふ。ありがとう」


 そう笑う顔を見て嬉しくなる。さて行こうかと言うのはやっぱり幸子さん。先輩だけど、幸子さんは後輩とは言えないくらいしっかりリードしてくれる。その役回りは本当は私がしないといけないのだろうけれど、今日は甘えてしまってもいいだろうか。幸子さんはプライベートでは私に妹みたいに接してくれるから。幸子さんに甘えるのは先輩としてどうかとか今日は考えないようにしようかな?


「幸子さん」

「うん?」

「今日はデート楽しみましょうね」

「そうだね」


 そう笑って言ってくれるから、私は恋人未満だけど、友達以上の関係で今日は幸子さんとのデートを楽しみたいと思う。


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