第7話 私の過去とこれからのことと

 あの日、美智子の呼び出しから私と幸子さんとの距離が少し変わった気がする。何というか、少し近くなったようなそんな気がしていた。

 居酒屋の一件からあまり進展がなかった私たちの距離だったのだけど、私が不意に泣いてしまったことで気まずいなと思ったことはあったのだが。あの時は、泣いちゃったということもあって、結局幸子さんに払わせるという先輩としてあるまじきことをやらかしていて、先輩というか私が後輩で、先輩に悩み聞いてもらって先輩の言葉に感動して先輩におごってもらってというはたから見られればそういう雰囲気で店を出たんじゃないのかなって自己嫌悪したりした日だった。

 進展もへったくれもあったもんじゃないものだったのは自分でもわかっている。だって、マジでかっこ悪すぎる日だったから幸子さんの前でみっともなく泣いてしまったこととか。泣くなんて私には屈辱だったはずなのに、昔から悔しかったり悲しかったりした時には私の涙腺は実にもろい。帰ってからは後悔の念で一睡もできなかったというのに、次の日の幸子さんの反応と言えば、変わったことなど特になかったことのように普通だったように思う。

 だけど、この前の美智子の呼び出しの後の幸子さんとの試着室の密室のあの一件は、まぁなんというか私の心は変わらず好きの一方方向のままだったのだけど、幸子さんの反応が少し違うのだ。そんなに鈍感と言うわけではないと自称思っている私からすると、やっぱり少し幸子さんの気持ちの変化とかが気になって。それは終始見つめてるとういうか観察している日常生活を送ったりしているわけだから、見抜けないほうがおかしいというか。意識してもらってる?なんて思ったりなんかしちゃって、それでも、もし違ったら完全に自意識過剰な奴だよねなんて思ってる。

 最近自分の行動とか幸子さんがしてくれたこととか考えてみると本当に意識する前からなんという幸運に恵まれているのだろうと、自分の幸運さにもガッツポーズをしたくなったりする。だって普通に生活している中でこの都会で同級生のお姉ちゃんがそしてとびっきりの美人でそして同じ会社の後輩とかあるの?ってそういう幸運って私の中では初めてで、たぶんこれって、一生来ないと思う幸運が一気にやってきたんじゃないの?と思うことがある。しかし、意識しだしてから、幸運ということはわかっていても、それをどのように続けたらうまい事行くのかなんてわからない。ハッピーエンドをこよなく愛している私。

 でも、それって恋愛小説じゃないんだから、現実世界で求めるのは大変な難関であることは嫌と言うほどわかっているつもりだ。何より、相手の幸子さんという超人相手。そして、婚約者もいたことで、ストレートだったということもわかっていて、私には早速無理ゲーな恋愛ゲームであることは明らかにわかったりしている。

 どんなに少し反応が違ったとしても、もしかしたら、あの時が嫌だったとか、私の気持ちがわかってしまって、気持ち悪いとか思っていたり?なんて思ってしまうのは仕方のない事なのかもしれない。

 それに、幸子さんは優しいから、断れなくてとか。断るも何もまだ告白すらできてない自分。告白できないで嫌気がさすのは決まって一人でいる時だけど。それでいて、私ってやっぱり単純だと思うのは、好きだと意識すると少しのやさしさとか、ちょっと特別扱いされたりすると、ドキドキしてほんとはこの人イケるのかも?なんて思ってしまうことだったりする。


 私の恋愛事情はハッキリ言って乏しい。片思いが多いのはやはり恋愛対象が女性だということが原因なのだろう。中学生の時に初恋をした相手というのも親しい友人だった女の子だった。初恋なんて実ることはめったにないと言われるだけ、私は相手に告白すらできずにその恋は終わってしまった。ただ単に初恋の相手に彼氏ができたという何もせずに終わった恋だった。思春期特融の周りに付き合った彼氏ができた云々で彼氏がなんとなくできた私は、早々に処女をささげた。別に好きでもなかった相手に自分の大事なものをあげてしまったのだ。特に後悔はないのだけれど、好きでもないのにできてしまうというのはどうなのだろうと今になって思う。あの時に自分に素直になっていればもう少しこの性格も変わっていたのかななんて思う。

 今も、おそらくだけど、結婚云々が周りに言われ出したら流れてしまうのかなと思う。だけど、今好きな人はまさしく女性の人で。だけど、それって実るのは学生の時と同じで勇気を振り絞って伝えないとわからないというのは年齢を重ねても変わらないと思う。それをできるかどうかというのは自分次第だったりする。こういう想いを行動に移すかどうかは自分の行動力と世間体の問題。最近は前よりもオープンになったと言われる世界だけど、それは人権とかそういうのがそう言わせているだけで世間の風当たりはやはり厳しいものだったりする。

 カミングアウトしている人も多くいるのは知っているけれど自分の事になってみるとたぶんできないんだろうなと思う日々である。正直カミングアウトした方が生きやすくなるのかもしれない。けれど、私にはまだできそうにない事。一生自分の中で処理してしまうことになるかもしれないと本気で思っている。それは、ただ自分に勇気がないだけだと言われてしまうとそれまでなのだけど、カミングアウトするというのは一大事であることは変わりなくて、それに周りの反応がどうなのか予想ができな過ぎて怖くて仕方ないことだ。好きな人はいつも女の人それはこれからも変わらないのは事実なのだけど。


「雅美ちゃん考え事?」

「え?」


 妄想にふけっていた私の隣には幸子さんがいた。変わらず優しい笑顔を向けてくれる。仕事中に長々と自己分析をしていたことを思うと申し訳なくて縮こまってしまいそうだ。何が変わったのかはまだわからないけれど、少しだけ距離が近くなったと感じたことは、デスクに来てくれることが多くなって、仕事中でもたまに名前で呼んでくれることだったりする。そのたびに私の心臓が跳ねるのはこの人に恋をしてしまっているから。幸子さんが好きと声に出せて言えていたあの時期とはやっぱり変わってしまった。素直に好きだと言ってしまっても冗談だと思って、幸子さんはきっと「私も雅美ちゃんのこと好きだよ」って返してくれるんだろうなとは思う。けれどそれは私と違った好きなんだよねと思うと虚しくなってしまう。


「なんでもないですよ。それより幸子さん?」

「ん?」

「髪型変えましたね。綺麗です。」


「ありがとう」と少し照れて笑うあなたをこうやって見るだけでも今は満足だったりする。今は・・・満足・・・。だけど、これから幸子さんと一緒に過ごしていく日々が続くとどうなってしまうのかわからないから少し不安でもある。



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