王の血族
第21話
かつて人と魔族は互いの友好関係の証として大きな架け橋を作った。平和の架け橋。
だが、もうじきその名の意味を失うだろう。
「俺が…。取り返すんだ。」
ボラノリスの最も南に立つ城、グランティーヌ城。その上階に位置する場所で俺は1人、拳を握り締める。
そんな時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ホクゲン様、今、よろしいかしら?」
俺が返事をするとギィと音を立てながらドアを開け、俺の直属の部下のシルキーが顔を覗かせる。
「ああ、俺ならいつでも問題ないよ。何かあったのかい?」
俺はシルキーにさっきまでの怒りの表情を見せまいと精一杯の笑顔を向ける。
「もうすぐ、ジン様の部隊がこちらへ到着するようです。」
「そうか、知らせをありがとうシルキー。ところで、その伝令は誰が…?」
「フフッ、
少し笑みを浮かべながら手の上にタンポポの綿毛の大きいバージョンとでも言ったところか、変わった魔獣をふわふわと浮かばせている。
「すごいな…伝令役の魔獣か…?」
「ええ、ケセランという子らしいです。尻尾に言伝を結べば、飛んで行ってほしい場所へと向かってくれるそうです。」
面白い個体の魔獣だななと感心する。あれなら人に危害を加えることもなさそうだ。
「でも、そんなふわふわした感じだと、人の方が速いんじゃないのかい?」
「そうでもねえさ。上空の風ってのはすごい速さで移動しているからな…その魔獣は向かってくる風を全て前に進む推進力に変えるような魔法を使うことができる。それに直進するだけだからな。回り道もしなくていい。」
よく知っている声が俺の後ろから聞こえた。この声はジンだ。
「おかえり。ジン。イーレイの町の様子はどうだった?」
これで何度目だろうか、もう慣れてしまったが、ジンは家の構造など無視して窓から入ってくる。ここ最上階のはずなんだけどな…。
「ああ、俺の予感通り、敵が攻めてきていたぜ。」
窓に腰かけたままのジンに俺は話を進める。
「今回ばかりはジンの予想も外れると思ってたんだけど…怪我とかはしてないのか?」
「ああ。」
俺はジンの身体を上から下まで見て怪我などはしてないことを確認する。
「それなら早く軍を出さないと。シルキー!」
「はい。」
「おいおい、待て待て俺が全て蹴散らしたよ。」
ジンのやれやれと言った仕草にそっと胸をなで下ろす。
「そうだったのか…。ありがとうジン。」
「ま、正確には俺達だがな。」
「そうだね、ジンの部隊には優秀な人達が沢山いるもんね。」
「いや、そういう意味じゃない。」
よっこらせと、部屋に足を着ける。
「第二王位継承権を持った俺と、第三王位継承権を持ったお姫様とでだ。」
「え…。」
自分の顔が少し青ざめたのが分かる。第三王位…?ジンは何を言って…。
「これでも、兄貴はその名を名乗り続け、進軍を続けるつもりか?ホクゲン様よお。」
「あ、ああ、俺の目的は変わっていないからね。ジンが進軍をやめろという理由も分かるよ。それでも俺には取り戻したいものがあるんだ。」
「…そうかよ。」
そう言葉を残し、ジンは窓から飛び降りた。ジンのように王剣の力を無暗に使うと父上に叱られたものだ…。
ジンと、新たな姫か…。民は俺に付いてきてくれるだろうか。
「きっと付いてきてくれます。問題ありません。」
シルキーが肩の荷を下ろした俺に声をかけてくる。
「声が漏れちゃってたかい?」
「いいえ、顔に書いてありました。」
「そ、そうか、頼りない王ですまない。」
「そんなこと誰も思っておりませんわよ。」
シルキーが微笑みを浮かべる。
「そうだと良いんだけどね。」
俺も愛想笑いを浮かべる。思えば俺には仲間がたくさんいた。俺がホクゲンの名を名乗るようにしたきっかけも仲間があってこそだ。
それがどうだ今は…。俺がホクゲンと名乗るようになってから少しだけ弟、ジンとの間に距離が空いてしまったように感じる。
でも、父上を失った今、俺がやらなくちゃ他に誰がやるんだ。
自分を鼓舞するように胸を叩く。
「ホクゲン様…?」
シルキーは突然の俺の行動に目を丸くした。
「いや、なんでもない。ちょっとみんなの様子を見てくるよ。」
俺はそう言って席を立った。
「はい、いってらっしゃいませ。」
俺はシルキーに見送られながら皇室を後にした。
二つの枷と魔法の剣 シキ @shiki0314
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