第16話

「なんだろう…?この光…?温かい。」

 モカは光を放つペンダントを手に取り見つめる。手が透けるほどの光なのに熱くも感じない。

「何が起こった…?俺様のウロコが…弾かれた…?」

 バルキリオスも爪が弾かれた音に違和感があったのか恐る恐る目を開け、こちらをぎょろりとした目で睨みつける。地面に転がった爪を見つけバルキリオスは歯を食いしばる。

「ふざけんじゃねえ!俺のウロコを止められるような人間がこんなところにいてたまるか!」

 バルキリオスは両腕をぶんぶんと振り回し、飛ぶウロコは勢いを増していく。

 モカはしばらく、ぼーっとペンダントを眺めていたが、バルキリオスの方に向き直る。その間、モカの光のバリアは全て飛ぶウロコを音をたてて弾いていた。

「何故だ!どんな魔法を使っている!」

 焦りが見え始めたバルキリオスは更に勢いを増してウロコを飛ばす。そのウロコは更に鋭く針のようになっていたが、数を打ち続けているせいか、モカの光のバリアが弾かずともちらほら違う箇所に飛んで行っていた。

 モカは一歩ずつ、バルキリオスに近づく。これは流れ弾がマサコやボルホイさんに当たらないようにする配慮でもあったが、今の私ならあのワニ男を倒せる謎の自信があったからだ。

「やめろ!…近寄ってくるなあああ!」

 ぶんっと最後のウロコに勢いを込めてモカ目掛けて放つ。大量にウロコを生成したせいか、バルキリオスは息が上がっていた。しかし、最後の力を振り絞ったウロコも簡単にモカの光に弾かれた。

「もう終わりですか?」

 一歩ずつ近づいてくるモカに怒りというより、恐怖がバルキリオスを襲っていた。だが、その恐怖はバルキリオスを次の段階に移行する決心をつかせた。

「まだだ…俺がお前を食べるまで…この戦いは終わらない!」

 バルキリオスは自身の左腕の付け根から引きちぎった。

「これが族長である俺の意地だ…。」

 バルキリオスは引きちぎった左腕を鞭のように振った。しかも振るたびに腕だったものは太陽の光を反射するほど、キラキラと刃のようなウロコがみっしりと敷き詰められたように生えていく。

「こいつならウロコも消費せずに済むからな…!」

 バルキリオスは勢いよく飛びあがり、身体の体重を鞭にのせるようにモカ目掛けて右腕を振りぬく。

 しかし、いややはりと言った方がいいだろうか、モカの光は何も通さなかった。

「畜生おおおおおおお!!!!。

 これでもかとバルキリオスは次々に鞭を振る。その度に石でも叩いているかのようにガキンガキンと音を立てて弾かれる。

「あなたが、人を殺めたこと…私は許さないから。」

 モカはバルキリオス目掛けて大きな一歩を踏んだ。

 モカの光のバリアがバルキリオスに触れると同時にバルキリオスは後方に弾かれる。

「ぐっ、ぬ…。」

「これでっ…どうだ!」

 バランスを取ろうとしたバルキリオスにモカは顔面目掛け勢いをつけた蹴りを入れた。

 ペンダントが光っていない時にした踵落としとは比べ物にならないほどの力でバルキリオスは吹き飛び、後方の瓦礫にぶつかる。

 パラパラと瓦礫の山がバルキリオスに降り積もった。

「やりましたか?!」

 邪魔になるかもしれないと黙って見守っていたマサコも思わず声を出す。

「いや、まだかも…。ペンダントの光が消えてない…。」

 モカがマサコに返事すると瓦礫の山から、かき分けるようにバルキリオスが姿を現した。

「どうやら、俺の攻撃でお前を倒すことができないらしいが、俺もお前の攻撃は効かんようだな。」

 バルキリオスは薄っすらと笑いながら片腕を拾い上げながら立ち上がる。

「そうは見えないけど…。」

 モカも苦笑いしながらバルキリオスに近づいていく。

「俺はこの戦いで少なくとも100人は喰った…。そろそろ俺の腕が邪剣に変わってもいい時だと俺は思うんだがなッ!」

 突然勢いよく、村人目掛け跳ぶバルキリオス。村人たちが…。とモカが振り向いた時には悲鳴が上がっていた。

 バルキリオスは手当たり次第に村人を頭から丸飲みにしていた。周りの村人も数名驚いたのか尻もちをついていた。

「狙うなら私を狙いなさいよ!」

 モカはバルキリオス目掛けて走る。もう一回、いやバルキリオスが倒れるまで何度でも光のバリアに触れさせれば…。

 だが、周りの人も巻き込んでしまう…。そう思い、私は足の速さを緩めた。

「ああ、そうさせてもらうぜ。」

 村人の数名が後ずさりながらもバルキリオスから離れた直後バルキリオスはこちらを睨みつけてくる。

 今までと雰囲気が違う…。

 この肌がビリビリとする感じは…。

 ふんっとバルキリオスは左腕でできた剣をモカに振った。

 私はさっきまで通り、剣が弾かれると思った。だが、思った通りにはならなかった。

 弾かれているのは私だった。

 光のバリアがあったとしてもモカは後方に弾きとんでいた。

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