第15話


「あー、丸のみにするのが美味いのに…。早く出てきてくれねえかなぁッ!」

 ブンッとまた腕を振り下ろす度に犠牲者が増えた。

 きっとさっきから探しているのは爆薬を使った私の事だろう。

 呼ばれて飛び出すほど私は馬鹿じゃない。自分のことをそう思っていたのに気づけば私は身を潜めていた瓦礫から身を乗り出していた。

「私!私がやったの!それで、爆発したのはこれよ!」

 私の声に反応しこちらを向いたワニ男に対し、私は右手で振りぬくように起爆用の線を抜いた爆薬をワニ男の顔面に向かって投げつけ、両手を前に構えた。

「ファイアボール!!」

 私に魔法の才能がないのは自分自身が痛い程知っている。でも何のために学舎に通ったんだ。何のために勉強したんだ。私は自分に言い聞かせるように魔法を唱える。お願い、今だけでいいから、小さくてもいいから。

 両手の手の平の前でシュッ…と音をたてる。しかし、思ったような火の球は出てこなかった。

 ワニ男は飛んできた爆薬を冷静に腕で弾く。

「お前…。その羽織っているローブ…。魔法使いか?だが、何も出てこない。爆発も武器の力か。」

 ワニ男はかっかっと笑いながら勝ち誇った顔で一歩一歩こちらに近寄ってくる。

 私は茫然と近寄ってくるワニ男を見る。怖い。足に力が入らなくなり、その場にへたり込んでしまった。これから殺されるんだと思うと震えが止まらない。村人が殺されていた様子が脳裏に浮かぶ。自分も同じように…。

「俺はお前のような勇気のある…いや、無謀な奴か。お前らのような奴らは美味くて好きだ。名は?」

 私の目の前まで来たワニ男は立ち止まり、私の顎を爪であげ、まじまじと顔を見つめてくる。

「モ、モカ…。」

 ワニ男の鼻息が顔に当たる。いっそのこと顎を支えている爪で首を落としてくれたらどれだけ楽だろうか。早く殺してほしい。私はワニ男から目をそらす。

「俺はバルキリオス。トカゲ族の長だ。俺に食われること光栄に思うといい。」

 バルキリオスが大きく口を開けた時だった。

 よく聞きなれた声が耳に入る。

「ファイアボール!」

 ボウッと火の玉がバルキリオスの身体に当たり仰け反った。私はお尻をずるずると動かしバルキリオスから距離を取った。

「モカさん!ご無事ですか?」

 ああ、そうだこの聞きなれた声はマサコの声だ。声の方に顔を向けるとマサコが立っていた。風でローブと髪をなびかせたマサコは神々しくも見えた。来てくれてとても嬉しかった。だが、マサコのファイアボールでも仰け反るだけに過ぎないバルキリオスに勝てるビジョンが見つからない。

「マサコ!ダメ!逃げて!」

 私が叫んだ時、爆発音が響く。辺りを閃光のような眩しさが包んだ。

 マサコの隣には左腕を振り下ろした後のボルホイさんがいた。この爆発はボルホイさんが投げた爆発だろう。

「閃光弾のようなものか…!」

 バルキリオスは目がやられたのだろう、左腕で目を押さえながら右腕を振り回す。

「どんどん行きますわよ!ファイアボール!ファイアボール!」

 いつの間にそこまでファイアボールが上手くなったのかと思うぐらい正確に、そして大きな火の玉がバルキリオスに次々に直撃していく。

「私も援護いたします。」

 ボルホイさんも左腕で爆薬を取り出し器用に口に線を咥えて引く抜き、バルキリオスに当てる。

「小賢しい!」

 目を押さえたままバルキリオスは右腕を振り回し続けた。するとマサコのいる方向に爪が飛んでいく。

 しかしマサコ達には当たらず後方に飛んで行った。

「よく場所が分かりましたね!ファイアボール!」

 マサコは自分の声のせいでこちらに攻撃が飛んできていると察したのか、その場から動くように走り始めた。

「はぁ、はぁ、ファイアボール!ファイアボール!」

 ジグザクに動いて居場所を悟られないようにしながらファイアボールを打ち続ける。だが、魔法を打つのと、走るのを同時にこなすのは難しいのだろう、マサコは息切れしだしていた。ファイアボールの大きさも小さくなってきており、バルキリオスに当たらないことも多くなってきていた。

 ボルホイは足を負傷しており、走ることはできないが、膝をつきながらも爆薬を投げ続ける。

 少しづつだが、バルキリオスの身体に火傷の箇所が目立つようになってきた。

 私が投げた爆薬とボルホイが投げる爆薬ではどこか違うなと違和感があったが、二人でこの大きなトカゲを倒せるのではないか。淡い期待が胸を温まらせる。

「火の玉はどこから飛んでくるか分からないな…。」

 パニックのようになっていたバルキリオスが急に静かになる。

「でも、俺に当たる光る飛び道具は同じ方向だな。」

 そう言って、バルキリオスはボルホイ目掛けて腕を振った。

 ボルホイさんに当たってしまう。そう思った瞬間に、私は走り出していた。

「ボルホイ!」

 マサコは慌てて叫ぶが、ボルホイの足ではもう間に合わないだろう。

「ここまでか…。」

 バルキリオスが腕を振り下ろすと同時に円い爪が肩を落としたボルホイ目掛けて飛んでいく。

 そこの間に私が割って入った。世界がスローモーションのように見える。ゆっくりこちらに爪が向かってくるのが見える。マサコの怯えた顔が目に映った。

 なんだろう。前にもこんなことあったな。昨日のことだっけ…?

「モカさああああ!!!」

 マサコの声が辺りに響く。

 しかし、意外な音が聞こえた。カンッと音が響いたと思うと、ストンと、円い爪がひらひらと宙を舞いながら落ちた。

「モカ…さん…?」

 マサコはモカの方を見るが目を疑う。

 モカは周りに薄く黄色い膜のようなものを纏っている。目をこらしてみるとモカの首からぶら下がったペンダントが光輝いていた。

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