第14話

「ハハッ!やはり人は美味い!」

 ワニ男は突撃してくる人を次々と爪で引き裂き、合間を見ては転がっている人を丸飲みにしていく。

「こっち側に回り込んで正解だった。胃が膨れていくこの心地よさがたまらない!部下と共に行動していては大量の食い物を独り占めできないからな。」

 私は身を隠しながらワニ男に近づき、次の人を拾いあげる瞬間、ワニ男の後頭部目掛けて走り出す。

 人の弱点はだいたいが真ん中に集中している。これはおばあちゃんが気の流れやら体術やらを教えてくれていた時に聞いたことだ。ワニ男の弱点も人と共通してある程度真ん中に集中しているのではないかと仮説を立て、実行に移す。

 息を吐きながら大きく地面を蹴り上げ、跳ぶ。宙を舞うように縦に一回転しながら踵をワニ男の後頭部にぶつけた。

「な、なんだ!?」

 踵からは何か硬いものに当たったような鈍い痛みが走る。だが、相手はのけぞりもしなかった。

 ぶつけた威力の反動でまた一回転しながら地面に着地しながら爆薬の起爆用の線を引き抜き、ワニ男の足元に転がした。ワニ男に気づかれないように物陰に姿を隠す。

「む…?」

 ワニ男は呑気に後頭部に当たる部分に蚊が止まったかのように触り、後方を確認する。

 ギリギリだったが、ワニ男に姿を見られずに済んだ…と思う。ワニ男の呑気さに感謝したいぐらいだ。地面に転がした爆薬がワニ男へのダメージになればいいのだが…。

「はぁはぁ…はー。そろそろかな。」

 モカは息を整えながら再度様子を窺う。

 ワニ男は後頭部への刺激の原因が何か周囲を見渡すが特に何もない。村人が投げた石か何かが当たっただけだろうと村人の方を振り向くと同時に激しい爆発音がワニ男の足元から響いた。

「なっ…。」

 あれだけ頭が大きければ重心が頭に寄っているのだろう、爆発の威力で前方にワニ男は倒れこむ。

 ワニ男に攻撃しようとしていた村人も下敷きになるまいとワニ男から距離をとった。ワニ男は音を立てながら顔から前に倒れこんだ。

「よしっ。」

 土埃と爆薬の煙が混じり様子は窺えないが、これはワニ男にダメージが入ったはず、と小さくガッツポーズした。

 だが、風がひゅーと吹き抜けワニ男の姿が目に映り私の束の間の喜びが絶望に変わる。

 ワニ男の爆薬が当たったはずの右足は少し黒ずんだだけで、特に戦闘不能に追い込むまでの致命傷は与えられていなかったのだ。

「そんな…。」

 トカゲ男の足ぐらいなら簡単に吹き飛ばせたのに…。

「なんだ…?痛えじゃねえか…。」

 ワニ男はゆっくりと起き上がり辺りを見渡すが、何が起こったのか未だに理解できなかったのだろう、しばらくの沈黙の後、肩を外したかのように腕をぷらーんと下げ、でかい爪のようなものを地面で引きずった。

 次の策を…。私ができる最大限で…。

 私が今できることは何か、頭をひねる。だが、考える猶予を与えないと言わんばかりにヒュンと私の頭の隣を何かが突き抜けた。

「え?」

 私が後方を確認すると、爪のような大きな白く円い何かが木に突き刺さっており、その木は今にも折れて倒れそうになっていた。

 どこから…?と前方を見るとワニ男が腕を振るたび、爪のようなものがヒュン、ヒュンと飛んでいた。

「どこだ!ここか?ここか!?」

 腕に生えた爪は飛んで行ったと思うと次々と腕に生えており、その都度腕を振りザクッザクッと音をたてるのだ。

「あいつ、あんな図体で…もしかして近距離より遠距離の攻撃を専門としているの…?」

 木や地面に深々と突き刺さるほどの威力だ。人が当たればひとたまりもないだろう。

「誰がいるんだ!」

 そう言いながらワニ男が爪を飛ばした先には村人だろう女性がいた。

 女性は怯えたように身体を震わせながら小さく縮こまっていた。眼前に爪が見えた瞬間に歯をくいしばり、目をつぶった。

 モカの目にはスローモーションのように映る。

 ズスッと地面に爪が突き刺さる音。

 その後にはストンと音をたて女性の首が地面に転がる。女性の身体は力なく首から鮮血を上げながら地面に倒れた。

「え、あ…。」

 全身の血が頭に登るのを感じる。怒りとはこのような感情か。今にもあのワニ男を粉々にしてやりたい。だが、その手段は私には…。恐怖と怒りで全身が震える。自分の無力さから気づけば私は目頭が熱くなっていた。

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