第13話
ジンは腰の剣に手をかける。
「畜生…。アニキ…。」
瓦礫で死角になっていた場所から、トカゲ男がひょろりと顔をだした。
手には斧と…トカゲの足のようなものを握り締めている。
「見てていいぞ。」
ジンがそう小声で言った後、刃渡りがそこそこの長さがある剣をスゥーと鞘から抜いた。
結構な重さがありそうな剣なのだが、ジンは軽々と構えている。
「
トカゲ男からは距離があったと思ったが、ジンは勢いよく剣を振り下ろす。その瞬間後方から勢いよく風が吹き抜けた。
え?と思ったのも束の間、ジンが剣をスゥーと腰の鞘に納める。トカゲ男が何事かとこちらを振り向いた瞬間左肩から腰にかけてトカゲ男から赤い血飛沫が噴き出した。
「ア?…ブグァッ…。」
トカゲ男は血飛沫をあげながらバタリとその場に倒れこんだ。
私はその強さにジンが味方だと分かっていても鳥肌が立った。
「俺は1人でも大丈夫だ。心配ありがとな。」
さっき私が言った、1人でも大丈夫なんですか?と言った言葉の返答なんだろうが、先程起こったことを見て、これは私やマサコが付いて行っても足手まといになるだけだろうと察するだけの充分な要素がそこにあった。
「また後でな。」
少し寂しげな顔をしながらも笑みを浮かべたジンに絶句していた私は咄嗟に返事する。
「ありがとうございます。ジンさん。私達は西の方に向かいますので、また後で。」
私はそう言いながらボルホイさんの肩を担ごうとする。
成人男性は一人で担ぐのには重い。
「マサコー?」
私がマサコにも担いでもらおうと声をかけると、マサコは後姿を見せながら去っていくジンをボーっと眺めている。
「マサコ?」
「ひゃい!」
私が少し強めに名前を呼ぶと、マサコはびっくりしたような可愛げのある返事をした。
「…大丈夫?」
「だ、大丈夫ですわ。どうしたんですの?」
まだボーっとした感じのマサコに少し違和感を覚えながらも返事をする。
「すごい人だったね…とりあえずボルホイさんをお医者さんの元に運ばないと。」
「そ、そうですわね。」
そう言ってマサコがボルホイの肩を担いだ時に、ボルホイはうううーんと息を漏らしながら片足で立った。
「寝てたようで申し訳ない。あの青年は…?」
「いや、ボルホイさんは気を失ってただけだと思います。」
おいおいとツッコミを入れながらもボルホイさんの顔色が少し良くなったようでちょっとだけ安堵した。
マサコがボルホイさんに気を失っていた間の説明をしながら私達はジンの指差した方向に歩き出した。
マサコがジンの説明を長々と続ける。どれだけ話すことがあるんだと思いつつもボルホイは嬉しそうにうんうんと頷く。
もう結構歩いてきたはずなんだけど…方向を間違えたのかなと思った時だった。
「きゃああああああ!!」
耳が痛くなるような女性の悲鳴が聞こえた。
「少しボルホイさんをお願いできる?」
「ええ、でも一緒にいた方が安全では…?」
私がしようとしていることに察しがついたのかマサコは不安げな顔を浮かべる。
「ちょっと見てくるだけだよ。」
私はマサコと対照的に笑みを浮かべた。
「分かりました…すぐ戻ってきてくださいね?」
「うん、分かった。」
私は二人の顔を見て頷き、悲鳴が聞こえた方に走り出した。
キンッキンッと金属が何度も弾かれるような音が聞こえる。
何か戦闘が行われている…?
物陰に姿を隠しながら、様子を伺った。
そこにはさっき見たトカゲ男の何倍もあるであろう大きさのトカゲ男…いや、もうワニ男だと言っていいだろうぐらいの顎と身体を持った生き物と村人と思われる男性達が鍬や鋤で戦闘を繰り広げていた。
戦闘と言っても村人が構えている鍬や鋤を無視するかのように両腕の爪で簡単に切り裂いていく。
そして切り裂いた後は必ず、転がった人を掴み上げ丸飲みにしていた。
その間、村人たちもワニ男に向かって鍬や鋤を振り下ろすが、キンッキンッと音を立てて弾かれる。
虐殺というよりこれは捕食だ…。
その無残すぎる光景に私は歯を食いしばった。
「マサコ、ボルホイさん、ごめん…。」
私はいてもたってもいられず、ワニ男に向かって走り出していた。
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