第12話

「そっちのロン毛の嬢ちゃんと違ってそっちの嬢ちゃんは物分かりが良くて助かるぜ。俺の名前はジン。呼び捨てで大丈夫だ。」

 やれやれといった感じにジンはこちらへ足を運ばせて来る。

「私はマサコ様の従者として幸せでした。もう思い残すことはありません。ですが、万が一にでもマサコ様に手を出すようなことがあれば、このボルホイ、この身に変えてでも…。」

 ボルホイは力が入らないのだろう、俯いたまま言葉を発する。だが、その言葉には気迫があった。

「ボルホイ、何を言っているの?私はまだあなたを死なせませんわよ。」

 マサコはボルホイの言葉を遮る。

「ああ、爺さん。安心していいぜ。俺はその道のプロ…と友達だ。」

 あんまり信用できないような言葉を口にしながらジンはボルホイの元まで来た。

「とりあえず、寝かせてやってくれないか?」

 モカとマサコはコクリと頷き、その場にボルホイを寝かせる。

「よし、まずは出血を止めなきゃな。傷口を見せてくれ。」

 そう言ってジンはボルホイの傷口に当てた布切れを取る。血でよくは見えないが手は残っているが人差し指や中指の指先が無くなっているように見え、血がだいぶ流れたのか青く変色していた。

「コンプレッション。」

 ジンは右手をボルホイの方に向け、魔法を唱えた。

 私には聞いたこともない魔法だ。いや、ファイアボール以外教わってはいないのだが。

 辺りに風が吹きこちらに集中しているのを感じる。風の魔法だろうか。

「ぐ、ぐぬおおお。」

 風が吹き抜けたかと思うとボルホイが悲鳴をあげはじめた。

「ちょ、ちょっと!」

 ボルホイが悲鳴を上げたのを同時にマサコが声をだした。

「あ、慌てんなよ、よく見てみろ。」

 私の目つきが変わったのを察したのかジンも負けじと声を荒げる。

 ボルホイの方を見ると血が流れた指先にまるで指輪でも付けているかのような、血液がぴたっと指に張り付いていた。

「これは…?」

 確かにこれなら止血も可能だ…そう思いながらもやはり見たこともない魔法に目を丸くするモカとマサコ。

「俺は空気魔法って呼んでる。」

「空気魔法?」

 私とマサコは目を丸くしたまま頭をかしげた。

「俺が持ってる剣が教えてくれた魔法の一つだ。辺りの空気を操れる。」

 剣…?教えてくれた…?何のことだろうか、ジンの顔はとても冗談を言っているようには見えない。

「なるほど…。」

「ファイアボールも空気魔法の派生に当たる魔法だからお前らでも使えるようになると思うぜ。」

 ファイアボールしか知らない私達にチンプンカンプンな話だった…ジンは私達とは違う学舎の卒業者なのだろうか。

「少なくとも私達はファイアボールの使い方しか知りませんわよ?空気魔法なんて学んだことはありませんわ。」

 マサコのその言葉にジンは歯を噛み締める。怒りに満ち溢れているような表情だった。

「遠距離攻撃に特化された学舎だとしても、防御魔法の一つや二つを学ばせるべきだろ…。」

 そのジンの表情に少し怯えながらもマサコはジンの目を見つめる。

「で、ではその防御魔法を教えてはいただけませんか?」

 マサコの言葉にジンは首を横に振る。

「お生憎様、俺は人に教えるのは不向きらしくてな…。でもその道のプロが友達にはいるぜ。」

 マサコはむーっと口を膨らませる。

 なんと多才な友達がたくさんいるんだろうと私は苦笑いした。

「止血はこれで終わった、後は適切な処置を施すだけだぜ。」

 ジンは得意げにグッドと親指を突き立てる。

 ボルホイは貧血かそれとも悲鳴の上げすぎか、ぐったりしていたが流血はしていないようだった。

「ボルホイのこと感謝いたします。すぐにでもお医者様の元へ連れて行きたいのですが、お医者様の居場所を存じ上げませんか?」

「ああ、それなら戦えない奴らが西の方に集まってる。医療を専門とした俺の友人もそこにいるはずだから、俺の名前を言うといい。」

 深々とお辞儀するマサコにつられて私もお辞儀すると、ジンは快く指を指しながら教えてくれた。

「では一緒に…。」

「いや、それはできねえ。この辺にまだお前らみたいな奴らがいないか見て回らないとな。」

「そうですか…。」

 しゅんと悲しげな表情をマサコは浮かべた。

「でも1人で大丈夫なんですか?」

 私がこう言った直後だった。

 遠くの方から微かに声が聞こえる。

「シッ。静かに。」

 ジンは自分の口元に人差し指を当てながら視線をこちらへと向ける。

 その遠くからの声はだんだんと大きくなってきているのが分かり、こちらに近づいてきているのが分かった。

 私達は息を殺すように身を潜める。

 額に汗が滲んでくるのが分かった。

「…ニキ…。アニキ…。」

 涙が混じったような声が聞こえる。それは何度も何度も聞こえ、次第に大きくなっていく。

 方角は私たちが爆薬を爆発させた辺りからだった。

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