第11話

「モカさんは怪我はしていませんよね?」

「う、うん…。」

 その場にしゃがみ込んでしまったモカの様子を伺うようにマサコも腰を落とす。

「生き物を殺めることは誰だってしています。生き残るためには仕方のないことではないですか?」

「そういう話じゃないよ…。」

 私は首を振って地面を眺める。地面には血しぶきのようなものが飛び散ってあった。

「モカさん。」

 グイッとマサコに両手で頬を掴まれ顔を持ち上げられ、マサコの顔と顔の距離が近くなる。

「な、なに…?」

「あなたが人を殺めた分、それだけあなたが生きる義務があると私は思うんです。」

 マサコは少し涙目になりながら話し続ける。

「ですから、早くいつものモカさんに戻ってください。私達が使った爆薬の音で先程のような生き物がまた現れるかもしれません。私はモカさんがしたことは間違いではないと確信しております。」

 マサコの言葉に感銘を受けたのか、それとも安堵したのか気づけば私の頰には涙が流れていた…。

「マサコ…。」

「はい。」

「もう大丈夫。私、迷わないから。」

 私はマサコの肩に軽く手を置きゆっくりと立ち上がり、マサコに手を差し伸べる。

「モカさん!」

 マサコも私に差し出された手を掴んで立ち上がった。

「ありがと、マサコ。」

「お礼には及びませんわ。」

 マサコは少し肩の力を緩め、笑みを浮かべる。

「それではそろそろここを離れた方が良いかと。」

 2人の会話に気を使い黙っていたボルホイが口を開く。

 ボルホイの方を向くと痛々しい姿で、右手はスーツの切れ端で覆ってはいるものの、血が滴り落ちており、止血まではできていないようだった。

「そうですわね…爆発音が雷のような音に紛れているとしても爆発音を聞きつけた者がこちらへ向かって来るかもしれませんし。」

「ではマサコ様達はここへ来た道を真っ直ぐ戻ってください。」

 そう言ってボルホイは元来た道を指差す。

「何を言ってるんですか、ボルホイ。」

 マサコはボルホイの左腕を自分の肩に回した。

「マサコ様何を…。」

「私はボルホイ…あなたを失いたくはないのです。」

 マサコはボルホイの肩を支える。

「お医者様に早く診てもらわないと…。」

「早く止血だけでも済ませないとね。」

 モカもボルホイの右腕を肩に抱えた。

 右手は酷く損傷しているようで、スーツの上からでも分かるぐらいに血が滲み、地面にポツリポツリと滴り落ちている。

「ありがとうございます。マサコ様。モカ様。」

「私が助けたいんですもの、お礼なんていいですわ。それより、最寄りのお医者様はどこにいらっしゃるか、ボルホイ分かりますか?」

 マサコの質問にボルホイは首を振る。

「申し訳ありません。先程の見回りにて診療所に人の気配がいないことは確認してまいりました。」

「困りましたわね…。」

 マサコは空いている左手を頬に当てた。

「マサコってファイアボールの威力の調整ってできる?」

 マサコが治療のことを考えていると、突然モカから魔法のことについて質問が飛んできた。

「一応は可能ですが…。突然どうしたのですか?」

「ボルホイさん、出血が酷いみたいだから、まず止血しないと。」

 モカがそう言った直後だった。背後からザクっと足音のような音が聞こえた。

 ハッとモカは後ろを振り向くとそこには銀髪の男が立っていた。

「そのやり方だとその爺さんの剣士としての人生は終わるぜ…。」

「何ですかいきなり!」

 三人はゆっくりと銀髪の男の正面の方を向き、マサコが声を荒げる。

「だから、その爺さんの腕を火で炙ろうってんだろ?」

 モカはその銀髪の男の発言に固唾をゴクリと喉の奥に無理やり押し込む。

 そもそも私が背後を取られるなんておばあちゃん以来のことだ。気配を全く感じなかった。

「ボルホイは剣士以前に私の大事な従者なのです!命より大事なものなんて…。せっかくモカさんが案を…。」

「いや、マサコ、話を聞いてみよう。何かいい案を持っているのかも。」

 声を荒げるマサコを止めるようにモカは口を挟んだ。

 第六感だろうか、もし、この銀髪の男が敵意を持つようなら勝てる相手ではない…できるだけ穏便に済ませないと…。

「そうですわね…。」

 マサコもモカの言葉に何かを感じ取ったのか口を閉じた。

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