第10話
「い、嫌あああああ!!」
マサコが耳を手で塞ぎ悲鳴を上げる。この爆発音がボルホイの爆薬のものから発せられた音だとすぐ理解できたんだろう。
「落ち着いて、落ち着いてマサコ!」
私はマサコの両手を掴んで少しでも落ち着かせようと声をかける。
「私は…私はボルホイがいないと…。」
涙を零しながらマサコは私と両手の手を組み合わせるように手を合わせる。
「マサコ…。」
「モカさん…お願いがあるのです。」
「なに…?」
私はできるだけ微笑む。
「私はここにいるので、モカさんだけでもお逃げになってくれませんか?」
マサコも精一杯の笑顔で私に問いかけた。
「え…。」
「私はまだボルホイを待ちたいんです。」
「でも、爆発の音が聞こえたでしょ…?」
「それでも…私は…。私にとってボルホイは…。」
マサコの手の震える感触が繋いだ手の感触から感じた。
「私はボルホイさんにマサコのことお願いされたからね。だから、マサコがここにいるって言うのなら私もここにいるよ。」
私はマサコの手を強く握る。
「嫌です。私だけ死ぬのなら私の勝手でしょう?でも、それにモカさんを巻き込みたくない!」
マサコの顔は、もう綺麗な顔立ちのマサコとは遠く涙でぐちゃぐちゃの顔になってしまっている。
「分かった。マサコの言いたいことも全部。」
そう言ってそのままマサコを抱きしめた。
「ボルホイさんを助けに行こう。」
「モ、モカさん?!」
「うん、そうだよ!まだ爆発音がしただけでボルホイさんが死んだなんて決まってないでしょ?」
私はそう言って抱きしめたままのマサコの頭を撫でる。
「ありがとうございます…。」
マサコも私の腰に腕を回して抱きしめてきてくれた。
「なら、急ごう。音の方向から大体の場所は分かる!」
「はい!」
そう言って、二人でローブを羽織るなどの準備を手早くこなし屋敷を飛び出した。
「確か…音の方向はこっち!」
「はい!」
私が走るのに合わせてマサコはぴったりと後ろを付いてくる。
辺りは住宅が立ち並ぶも、しーんと静まり返っており人の気配など何も感じなかった。
息を切らしながら走っていると地面に血飛沫が飛んでいる場所があり、マサコに手で合図しながら足を止めた。
「この辺だよね…?」
「私もそう思います…。」
二人で辺りを見渡していると、足音が聞こえ、二人で振り向いた。
「お二人とも…何をしているのですか…。」
そこには血塗れのボルホイが辛うじて立っていた。左足は辺な方向に曲がり、利き腕の右手は自分のスーツで覆っているような状態だった。
「ボルホイ!」
マサコはボルホイを見つけボルホイの元に駆け寄ろうと足を1歩踏み出した瞬間だった。
「お逃げください!!」
聞いたこともないような大きな声がボルホイから出ていた。
その時ボルホイの背後から大きなトカゲの生き物が太い剣に血を垂らしながら歩いてくる。
「まだ捕まえれてない人がいたんだね。ここの人達を逃したら怒られるのは俺だから逃げないでよ。」
訳の分からない事を言いながら軽そうに大剣を振り上げる。
「ファイアボール!!」
マサコはトカゲ男に向かってファイアボールを放った。
「おっとっと…。」
だが、当たったはずでも少し反動があった程度で動きを止める要因にはならなかった。
「魔法が使える奴か…へぇ…面倒だな…。先にそいつから動けないように…。」
そう言ってマサコに向け目を光らせた時だった。
「ここッ!!」
マサコが目立っていたのもあっただろう、マサコのファイアボールの煙に隠れながら私はトカゲ男の背後に回り込み、後頭部に蹴りを入れた。
トカゲ男は頭から地面に倒れ込んだ。
「マサコ、ボルホイさんを!」
「はいっ!」
素早くボルホイの元にマサコが駆け寄る。
「痛いじゃん…。大人しくしてよ。」
大剣を地面に突き立てそれを支柱に起き上がる。
「その威勢がいつまで持つかな?」
「人間の分際で…言うじゃん。」
頭に血を昇らせたトカゲ男は剣を振りかざしてこちらへ向かってきた。
私は懐に隠し持っていたマサコのファイアボールで火がついた場所に爆薬を投げた。
「なっ…。」
見事に爆薬は爆発し、トカゲ男の足が吹き飛んだ。血飛沫を辺りに飛び散らせながら地面に倒れ込んだ。
「ボルホイさんにこんなことして…何か言い残すこととかありますか?」
私はまた懐から爆薬を取り出し、トカゲ男に見せつける。
「人間の分際で、俺に楯突いてきやがって…。」
トカゲ男は息を切らしながらも睨みつけてきた。
「うーん、そうですか。さようなら。」
私はそう言って左手で頭を掻きながら持っていた爆薬をトカゲの身体に投げつけた。
残っていた火の粉で爆薬が引火しトカゲの身体は辺りに飛び散った。
「私の爆薬をモカさんも持ってきたのですね…。」
「かっこよかったですわ。」
マサコに応急処置を施してもらったボルホイがマサコに肩を担がれてこちらへくる…。
「私…トカゲの見た目でも人を殺しちゃったんだよね…。」
私は飛び散ったトカゲ男の残骸を見下ろしながら肩を落とした。
「それでもそのお陰でボルホイも生きてます。」
「そう…だね…。」
そうとは言われても私には何とも言えない背徳感があった。
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