第5話
「マサコ様、お逃げくださいと私は…!」
「あなた1人でこの山賊達を追い払えるとでも思っているのですか!」
ボルホイは額にしわを作りながらも目に涙を浮かべ、マサコを庇うようにマサコの前に立ち剣を構える。
「熱いじゃねえか、おい。」
マサコのファイアボールで吹き飛ばされたゴロツキが起き上がり2人を睨みつけた。
ゴロツキは一度マサコのファイアボールを受けたのにも関わらず、火傷した身体で剣を構える。
「他の山賊達もいます。ご自身の身の安全を一番に考えてください!」
「それでも私はボルホイを置いてはいけません!」
マサコはまたゴロツキ目掛け、ファイアボールの構えを取った。
「俺1人に2人がかりとは周りが見えてないんじゃねえのか。」
今にも倒れそうなゴロツキは笑いながら辺りを見渡す。
しかし、ゴロツキの言っていた周りは自分の想像した光景とは違う光景だった。
ゴロツキの仲間達が2、3人程倒れているのだ。ボルホイに傷を付けられた2人を除いてだ。
他の仲間達は…。笑いが乾いた笑いに変わり、額に汗を滲ませる。
「周りが見えてないのはどちらでしょうか。」
マサコはファイアボールの構えを止めて、手で口元を押さえながらクスッと笑った。
「な…。」
ゴロツキはマサコが笑ったことに軽く頭に血を登らせた時、マサコを見ていた視界がぐわんと歪んだ。
何が起こったのか理解するのに多少時間はかかったが、後頭部に痛みが走ったことから後方から後頭部に激しい衝撃が加わったことを理解した。手を前に出して、受け身を取ろうとするもうまく身体が動かない。後頭部に受けた衝撃のせいだろうか。そのままゴロツキは剣を持ったまま前方に倒れこみ、頭を地面に強く打ち付けた。
当たりどころが悪かったのか、ゴロツキは泡を吹いており、そのまま起き上がることはなかった。
「お見事です。」
マサコは笑みを浮かべながら拍手する。
「ん、ありがと。突然だったからビックリしたよ。」
モカは足についた土埃を手で軽く払いながらマサコの元に戻ってくる。
「まさか…あの人数をお一人で…。」
何が起こっていたのか未だに理解できていないボルホイは目を丸くしていた。
「あはは…。なんとかなってよかったです。」
モカはボルホイが剣を抜いた時から辺りのゴロツキを倒していっていた。
私には魔法のセンスこそないが、そこそこ身体が動く。幼い頃にお婆ちゃんや周りの人間に混じってお社で修行していたからだろうか、お社でもそこそこ大人相手に戦えていた。その時の経験を乗せ、ボルホイに気を取られている相手に後方から不意打ちで倒していった。
魔法専門の学舎に来たのは魔法に憧れてというのもあったが、何となく環境の変化を求めたからだった。しかし自分に魔法のセンスがないことに気づいた時は落ち込んだ。そんなある日にマサコのことを金持ちだと知って絡んできた奴らを吹っ飛ばした時があった。その頃のマサコは学舎で1人で浮いていた感じもしたので無理もないのだが、そこに付け込もうとする奴らが許せなかっただけのだが。その件もありマサコは今回の出奔に私を誘ってきたのではないだろうか。
「それでは旅を続けましょうか。」
マサコは頬の隣で手を合わせ、笑顔を作る。私の目からはどこか上機嫌なように見える。
目を丸くしたままのボルホイの袖をマサコはちょんちょんと引っ張る。
「ボルホイ、どうかしましたか?まさか、どこか怪我でも…。」
「いえ…マサコ様のおてんばぶりは心得ておりましたが、少しばかり驚いてしまいまして…。」
「モカさんの事は私も最初は驚きました。何故武闘専門の学舎に通わないのかと不思議でたまりません。ですが、今ここでする話でもないですし、馬車の中でお話しましょう?」
「かしこまりました…。」
モカは魔法に憧れて…とはどこか気恥ずかしくて言えなかったが、ゴロツキ共を倒せたことに胸をなで下ろしていた。
「最後の1人、縛ったよー。」
私達はゴロツキ共の手に馬車に積んであった縄を縛り上げていった。
「お前、不意打ちとは卑怯だぞ!」
「先に落とし穴なんて卑怯なことしたのそっちじゃないですか。」
1人目を覚ましたゴロツキに話しかけられた。だが悪いのはどう考えてもゴロツキでしょ。命を奪わないだけ感謝してほしいぐらいと思いながら、私達は落とし穴に落ちてしまった馬車の車輪を落とし穴の外まで押し上げた。あんまり力を入れてないつもりだったんだけど、すんなり上がってくれて助かった。
馬車を引いていた1匹の馬も目立った怪我がなかったのか不幸中の幸いだろうか。
「さ、モカさん。」
「うん。」
先に荷台に乗り込んだマサコがモカに手を差し出す。私はマサコの手を取りながら、荷台に上がった。
「それでは行きましょう。」
ボルホイさんのハッと言う掛け声とともに馬車はまた進み始める。
「覚えてろよー。」
縄で縛られたゴロツキ共は何か騒いでいたが、馬車が進むにつれてその声も遠くなっていった。
ガタガタと揺れる馬車の中はゆりかごのように心地よい振動が伝わってくる。きっと馬車の性能が良いのだろう。いや、ボルホイさんの技術…いや進んでいる山道か…?
薄らと差し込む光に照らされながら、1つ大きなあくびをしてから目をこする。
「モカさん、眠いのなら少し眠っていても大丈夫ですよ?」
隣に座っていたマサコが私のあくびを見て反応する。
「ありがと、でも大丈夫。起きてるよ。」
私は軽くあははと笑いながら、両手を交差した状態で掌側を上に伸ばし、背筋を伸ばす。
「ボルホイには詳しくモカさんのことについてお話ししました。そして、先程の山賊のことも。」
「うん…。ありがとう。それでさっきの山賊のことって?」
私の問いにマサコの目つきが変わる。
「おそらく私達が出奔をすることを見越して何者かが、山賊を配置したのでしょう。」
マサコの言葉に私はゴクリと固唾を喉の奥に押し込む。
「申し訳ありません。こんなことに巻き込むつもりではなかったんです。」
マサコは少し俯き、悲しげな表情を浮かべる。目元には薄っすらと涙が滲んできてるのが分かった。
「大丈夫。こういうことを見越して私の事、出奔に誘ってくれたんでしょ?そうだ、お社に着いたらお婆ちゃんに話して、誰か付いてきて貰おうか?」
「ありがとうございます。しかし、あんまり大所帯になってもいけませんし、これ以上迷惑をかけるわけにも…。それに山賊はもういないでしょうし…。」
「そっか…。」
「1つだけお願い事をしてもいいですか?」
俯いていたマサコがこちらに顔を上げる。涙目で頬は少し赤くなっていた。
「なーに?」
私は照れくさいのか、私まで少し頬が赤くなってきているのが分かる。
「膝枕してもらってもいいですか…?」
「フフッどうぞ。」
私は軽く笑いながら両手を広げる。
マサコはそれを見て少し笑みを浮かべながら私の膝の上に頭を乗せ、私の腰に腕を回して抱きついてきた。私の耳も赤く熱くなってきているのが分かる。マサコの肩が少し震えているのが分かったから、私は黙ったまま、マサコの頭を撫でた。スーッと滑らかな髪触りで心地よい。
やっぱり山賊が怖かったのだろう。マサコなりに気を張っていたのだろうか。
お互い無言のまま時間は流れていく。
ガタンゴトンと馬車は揺れながら目的地へと進んでいく。
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