2.
「今日も疲れた…」
家に帰ろうとする頃には辺りはもう真っ暗だった。街灯も少ない道を自転車で進む。夏の風は相変わらずじとっとしていて、いちいち肌に張り付く服が鬱陶しかった。早くシャワーを浴びたい。
貸し切り状態の駐輪場に停めて玄関を開ける。そのまま一目散に風呂場で汗を流した。
さっぱりした後で朝と同じようにお湯を沸かした。一つでは足りないので二つ、焼きそばとカレー味のパッケージを破く。
《またカップ麺食べるの?》
ふと、どこかからそんな声が聞こえた気がした。いやいや、そんな訳ない。自分の心の声だろう、これでも少しは気にしてるんだから。
《体に悪いよ》
今度はさっきよりはっきり聞こえた。右耳の近くから。まるで右側からひょっこり顔を覗かせて手元を見てくるような、そんな聞こえ方だ。
「うわぁ!!」
恐る恐る視線を右斜め後ろに向けてみるとそこには確かにいた。白いワンピースのようなものに身を包んだ女。上半身は輪郭がはっきりしているのに対して、下半身、膝より下がぼやけてみえる。人生で初めての対面。これが幽霊か。
《そんなに驚かなくてもいいじゃない》
女は少し頬を膨らませた。血色のない青白い肌がよく見えた。バイトの忙しさに目がおかしくなってしまったのだろうか。
《あなたで三人目だわ》
彼女は指を折ってこちらに向けてきた。
「そ、そうですか…」
《パリピのチャラい男と、地味な女。二人ともすぐいなくなっちゃったけどね》
少し申し訳なさそうに彼女は笑った。顔は可愛らしい同い年くらいの女の子だが、首にロープのような物の痕がある。この部屋で起きた殺人事件が生々しい。
「俺は出ていくわけには行かないのでここに住みたいんですけど…」
そう言うと彼女は嬉しそうに目を輝かせた。幽霊でも一人は寂しいらしい。
こうして苦学生の新生活は幕を開けたのだった。
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