台湾の国際学会に参加できない中国人

台湾総統選では蔡英文が勝利し、中国の唱える「一国二制度」に対する台湾の反対はますます強固なものとなった。


台湾人はみずからを「中国(中華民国)」とみなすどころか、むしろ民主を脅かす敵「中華人民共和国」を表す言葉として「中国」を使うようになっている。


このような人々が多数になってから久しいとはいえ、いっそう両岸は思想的に相容れなくなってきた。


もちろん、ほとんどの国民党員も台湾が中華人民共和国の一部になることは望んでいないだろう。しかし、少なくとも「我々は中国人」という自己認識を持っており、台湾のを「中国(中華民国)」の一部とみなす党員がほとんどだ。

これは国民党がかつて「中国」の正統政府を争い担った歴史によるものである。


しかし、この考え方は多くの台湾の若者の感覚からは乖離している。

「大陸反攻」が事実上放棄され、一党独裁の異質な国家を国際社会が「中国」と呼称している現実を踏まえれば、「台湾アイデンティティ」が高まるのはなんら不思議ではない。


習近平政権はこの流れを変えるべく、台湾企業や台湾の人材を優遇し、大陸へ招致している。

このようなやり方で簡単に台湾人の考え方が変わるとは思えないが、これを通して「中華人民共和国」そして「中国」「中華」というものに対する台湾人の親しみを醸成したいのであろう。

CCTVのアナウンサーがこの優遇策の紹介に絡めて言った「湾湾回家吧(台湾ちゃん、中国におかえり)」という言葉が、なによりもその政策の性質を如実に表している。

もちろん、台湾にとって人材や企業が中国に流出したりすれば、経済的にも大きな痛手である。


このような積極的な「優遇策」をとる一方で、習近平政権は中国人の台湾渡航における制限を強めたり、わざと手続きを煩雑化させたりもしている。

そのため、台湾を訪れる中国人観光客は目に見えて減っており、インバウンドの減少も起きている。


このように習近平政権は、台湾から中国への人の移動を「優遇」するとともに、台湾への移動を「制限」することで、台湾に圧力をかけているのである。


さて、このような政策の結果、政治から独立した存在であるはずのアカデミックな分野でも、その余波を食っている。


たとえば昨年11月に台湾で開かれた日本研究者の大会では、日本を対象に研究している学者が各国から集ったものの、大陸在住の中国籍の研究者は誰も参加できなかった。

どうやら学者たちは、中国当局から台湾入境を止められているらしいのである。


学者の国際交流は、国家の政治的思惑から離れたより普遍的な人類の知を共有するために重要であるが、現実は逆に学問分野が国家の論理に包摂されてしまう方向に向かっている。


台湾でも「台湾アイデンティティ」の強化とともに、「中国史」から離脱して「台湾史」を研究しようという動きが強まっている。

これも言わば政治的な事情が学問研究に影響を与えている例だ。


研究者が完全に現在の社会から離れて「中立的」になることはできないとはいえ、東アジアで様々な政治的思惑が渦巻く今、いっそう政治と人文・社会科学との距離が近づいていると言えるだろう。

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