台湾人に「中国人の友達がいるから」と言ってしまった話 その二
台湾の学会を終え、私は松山空港に向かった。
松山空港までの地下鉄は少々複雑である。間違っても「松山行き」の列車に乗ってはいけない。もし「松山」に来てしまったら、そこから松山空港まで引き返すのに30分ほどかかるだろう。松山空港にいくためには文湖線に乗って「松山機場」で降りなければいけないのだ。
幸い行き先を間違えることもなく、空港駅である「松山機場」に到着することができた。
チェックインもスムーズであったが、預け入れ手荷物が安全検査を通過したのを目視で確認する必要があるらしい。これは台湾の空港独特のやり方かもしれない。
とはいえ、手続きもすぐに終わってしまったので、私は時間を大きくもてあました。
すぐに出国エリアに行くのももったいない気がして、特に大きくもない出発ロビーをぶらついていたら、お土産をまだ買っていないことに気づいた。
私は定番のパイナップルケーキでも買えばみんな納得するだろうと思い、チェックインカウンターの隣にある小さなお土産屋さんで少し物色することにした。
すると、店員のおばちゃんがすかさずやってきて、中国語でべらべらと商品の説明を始めた。向こうは完全にこっちが台湾人かなにかかと思っているらしい。
これとこれが味が違うと言うので「どっちが美味い?」と聞くと、どっち美味いからどっちもも買おうと言ってくる。しかも、さらに畳み掛けるように「賣五送一(5つ買うと1つ無料でもらえる)」なのでたくさん買った方がお得だと勧めはじめた。
カモにされるのはたまったものではないので、カタコト中国語であしらう。
中華圏の文化ならメンツの問題もあるし、たくさんお土産を買うのかもしれないが、私は必要以上にモノを買うことを好まない。家族とバイト先に一つずつ買えば十分だろう。二種類のパイナップルケーキを一つずつ買うことをおばちゃんに伝え、それをレジに持って行った。
おばちゃんには会計時にも「これで足りるの?」と聞かれたが、私は「もう十分」と苦笑いを返した。
するとやはり定番というか、おばちゃんは「なんで国語(中国語)ができるの?」と聞いてきた。
前回の飛行機でのできごとをまだ整理できていなかったので、やはり反射的にいつもの「中国人の友達がいるんだ」という決まり文句を返した。
すると案の定「ああ、そう」といった会話で終わってしまった。すぐに何しに台湾にくるんだとかそういう話題に変わったが、やはり台湾人にとって「中国人の友達がいる」という返事では話は広げにくそうである。
すこし中国語をかじったことのある人ならば、中国語話者と初対面の時に「中国語がなぜできるのか」といった質問をうけることはよくあるだろう。
学習することが当然視されている英語では、このような体験はあまりないはずだ。
私も言われ慣れてしまったせいで、ついつい「中国人の友達がいるからです」と脊髄反射で答えてしまう。
しかしよく考えてみれば、中国語を話す人はかならずしも「中国人」のアイデンティティーを持つ人に限らない。
マレーシア、シンガポールなど、「中国語」を公用語としている国も少なからずある。
もちろん自分が中国語を話せる理由を嘘をついて捻じ曲げなくてもいいし、そこまで媚びる必要はないだろう。しかし、自分の頭に「中国語話者=中国人」という固定観念が染みつき、相手のアイデンティティーを一切考慮できなかったことを少し反省したのである。
少なくとも、私が「台湾人の友達がいるから」と言っても嘘にはならなかったはずだし、きっと話が弾んだような気がする。
とにもかくにも、私はそのパイナップルケーキを抱えて帰国し、家族にはわりと好評であった。
実は、例のお土産屋さんの上階のお店にあるパイナップルケーキのほうが若干安かったのだが、それは見なかったことにしよう。
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