第15話 知育玩具

 あれから数日経ったが彼女は戻らない。俺は一旦は仕事に戻り、銀行を辞めた。

 おやっさんは店を再開した。何日も閉めていては客が離れてしまう。苦渋の選択である。

「今日は休みなの。一緒に捜すわ」

 竹下さんと俺は、各々が動ける日に動いて情報交換していた。街の地図を広げ、捜していない場所をピックアップする。

「ここはどうかしら?」

 俺は頷く。彼が指差したのは街の唯一のテーマパーク、みどり園だった。


 みどり園は最近息を吹き返してきた老舗のテーマパークだ。園内ではごく珍しい植物を見ることが出来るが、なぜだかアトラクションの脇に無造作に植えられているので注意して見なければわからない。

 だが最近某タレントが『待ち時間に希少な花とツーショット♪』とSNSに投稿してから、にわかに客足が伸びてきていた。

 入園料は五百円と低価格で、乗り放題のパスポートを購入したとしても二千円で遊べる。その理由は街おこしの一貫として自治体が支援していることにあるらしい。

 ――柿のカラダはオレンジ色♪

 お柿ちゃんはよくここでイベントしている。彼女にとっては勝手知ったる場所だ。ならここにいるかもしれない。俺達は一縷の望みをかけてみどり園の門をくぐった。



 園内は遠足の学生が来ていて、活気に溢れている。俺は竹下さんと分担して南側を捜す。

「ごめんね、知らないな」

 風船を配るピエロが答える。

「お柿のは園のスタッフじゃないからね」

 メリーゴーラウンドの係員も首を横に振る。

 手当たり次第声をかけたが、彼女を見かけた人には会えなかった。


 諦めかけたとき、俺はふと足を止めた。

 『こどものへや』という名の建物の窓越しに、よちよち歩きの子供がボールプールや滑り台で遊んでいるのが見える。周りを囲むように座っている保護者の中に、黒髪のボブヘアの女性がいた。


 ――優子さんだ。


 竹下さんに一報を入れて建物に入る。鼓動がうるさい。

「優子さん」

 声が震える。彼女が驚いた表情で俺を見る。

「木村さん」

 近づいてしゃがみこむと、彼女は手にしていたプラスチック製の玩具の鋸を見せた。

「可愛いでしょ。大工さんセットなんです」

 幼い男の子が屋根のない家の中に入り、ドアを付けようと頑張っている。

「すごい。本物そっくりだね」

 俺は頷いた。道具は全て角が丸く作られていて、金槌やドライバーもある。

「昔うちにも同じ玩具があったんです。父の工具を触りたがる私に、母が買ってくれたの」

 彼女は懐かしむようにプラスチックのボルトを手に取る。

「これなんて、ちゃんと締まるんですよ。色々なサイズがあって、ペアは一個ずつしかないの」

 六角ボルトにナットを填めてくるくると回すと本物のように締まってゆく。

「太いね。M16くらい?ワッシャーは無いのかな」

 俺は思わず笑う。

「木村さん」

 彼女は玩具を置いて立ち上がり、頭を下げた。

「迷惑かけて、ごめんなさい」













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