11/21ボジョレ・ヌーボー「empty bottle」

 エリは日付が変わる前から店に行って、日付が変わると同時にワインを選んできたらしい。今日はボジョレー・ヌーボー解禁の日。毎年エリはこの日を心待ちにしている。

「元々はその年の出来栄えをチェックするためのものだったらしいけどね」

「ねぇねぇ、どのチーズから開ける?」

「そんなありがたがるものでもないと思うけどなぁ」

「うるさいなぁ。レイちゃんだって毎年、杉玉の掛け替えのニュース嬉しそうに見てるじゃない」

 それを言われると弱い。私も、贔屓の酒蔵の新酒は毎年買ってしまうし。今も玄関先ではその空瓶が資源回収の日を待っているし。

「じゃあ、乾杯」

 奮発して買ったグラスが割れるのが怖いので、グラスを合わせずに乾杯をする。思えばここ数年、私たちは毎年同じことをしている気がした。

「そうだ。レイちゃん、私明日休み取ったから」

「飲む気満々ね……二日酔いとかやめてよ、大変なんだから」

「レイちゃんもインスタントのしじみの味噌汁買い足してたじゃない」

「私はオルニチンを信じてるのよ」

 明日には玄関先の空瓶が三本ほど増えることになる。それは十一月の第三木曜日の、私とエリの間の行事だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る