11/20橋の上「橋の上にて」

「ここにいたのか、響」

 川沿いの道には雪が積もっている。昼の日差しでも融けない雪は、おそらくこのまま根雪になるのだろう。雪深い地域に住み始めて一年が過ぎたが、まだ雪のある景色は響にとって新鮮だ。

「どうしたの、彰」

「いや、こんなところで突っ立ってたら風邪ひくぞ。実紀も心配する」

 響は彰の言葉に静かに頷いたが、川を見つめるのをやめなかった。橋の上から川を見下ろして、ここで死んでしまった人のことを想う。

「……本当は、こんなに引きずってちゃいけないのはわかってるんだけど」

 すべてが前に進み始めた。いつまでも死んだ人の影を追い続けるわけにはいかない。それは響もわかっているのだ。

「無理に前を向く必要はないだろ。そんなことを言ったら俺はどうなる」

「……そうだね」

「しかもお前は曲がりなりにもあれを託されてるんだ。俺だけが何にもない」

「彰……」

「そんな顔すんなよ。別に、あれが欲しかったわけじゃない」

 彰の目もまた、流れる川に向けられている。響には、彰の目は未だに、死んだ人を追いかけて今すぐ川に飛び込みたいと言っているように見えた。

「私がずっと引きずってるせいで、実紀のことをずっと待たせてる気がするんだ」

「それは待たせとけばいいだろ。あいつは待ってくれるから。それに……きっと俺たちは一生引きずり続ける」

「好きだったんだね、本当に」

「響こそ」

 彰と自分は似ているのだ、と響は思った。同じ人を好きになって、その人がいなくなってしまったことを引きずっていて、でも好きと言える人が他にもできて、それなのにその人を待たせてしまっている。

「あと一度でいいから――理人に、会いたい」

 響は欄干に置いた腕に、自分の顔を埋めた。あと一度でいい。会って言葉を交わせるのなら――想いとともに涙が溢れ出す。そんな響の背中を、彰が優しく叩いた。

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