11/16編み込み「ある主従の朝」
冬の太陽のような、淡い金色の髪。私はそれに優しく櫛を通しながら溜息をついた。
「溜息をついたら幸せが逃げると言うわよ」
「お嬢様の髪が私のものと比べてとても綺麗だったもので」
「あら、私は小春の髪の毛好きよ。深い色をしていて、まっすぐで」
この髪の毛は残念ながらとても頑固だ。この国の美容師が使う鋏では、鋏の方が駄目になってしまう。染髪をしようにもまともに色が入らないし、パーマネントも似合わない。
「お嬢様の髪の方がいいですよ。編み込みだってこんなに似合う」
「小春には似合わないの?」
「私がやるとしめ縄のようになってしまいますので。はい、できましたよ」
ひとつひとつの工程に気を配り、編み込みを完成させた。いつもは髪を結ばれるのを嫌い、長い髪をそのままにしているせいでどこか野性味が溢れるお嬢様も、今日のようにきっちり整えればちゃんと良家の子女らしい姿になる。
「小春」
「何でしょう?」
「少し時間があるから、ここに座りなさい」
首を傾げながら、お嬢様の言う通りに椅子に腰掛ける。
「昨日、リラがやっていた髪型なら、小春にも似合うと思うわ」
リラ、とはお嬢様のクラスメイトだ。私と同じような黒髪の持ち主だ。けれど目鼻立ちがはっきりしたリラ様と私では似合う髪型は全然違う。
「やってみる価値はあるわよ。ほら、櫛を貸して」
慣れていないとわかる、幾分か乱暴な手つきでお嬢様が髪に触れる。引っ張られて頭皮に軽く痛みが走るのすら愛おしいけれど、この状況を誰かに見られたらと思うと気が気ではない。
「安心なさい、小春。あなたは私の命令に逆らえなかっただけなのだから」
「……学校には遅れないように、気をつけてくださいね」
「五分で終わるわ」
結局、五分では終わらなかった。お嬢様はとてつもなく不器用で、リラ様の複雑な髪型を再現することなどとても出来なかった。学校へ続く並木道を歩きながら、お嬢様が地団駄を踏む。
「今日リラに教えてもらうわ。そしたらリベンジよ」
「お嬢様、その悔しがり方は上品ではないですよ」
「いいのよ。誰も見ちゃいないわ」
そう言うと、お嬢様は私の顔を両手で挟み、強く引き寄せた。驚く間もなく、私の唇にお嬢様の柔らかな唇が触れる。
「誰も見てないから大丈夫よ」
今日は髪の毛を整えて、いつもよりもお嬢様然としていたのに。結局中身は普段と変わらないお嬢様のままだ。
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