11/15七五三「華の羽織」
別に女性になりたいわけではないけれど、女の子の服には憧れていた。それを自覚したのは五歳のとき。七五三で神社に行ったときに、女の子の衣裳の鮮やかさの虜になったのだ。もちろん男の衣裳も魅力的ではあるが、赤や黄色の布地に華やかな模様が描かれた女の子の衣裳の方が僕は好きだった。
七五三だけではない。女の子の服というのは男の服に比べて実に多様だ。シンプルなものからお姫様のようなレースだらけのものまで店に並んでいる。実に不公平だ。だってそうだろう。ケーキバイキングで、女の子は十種類の中から選べるのに、男の子は三種類の中からしか選べません、なんてことになったら暴動が起きてもおかしくない。なのに服だとそう言うことが普通に起きる。
選択肢は多い方がいい。男も女もなく、ただ自分が着たい服を選べればいい。けれど親に服を買ってもらう子供時代はそうもいかなかった。
「この反物で羽織袴仕立ててくれる人がいたらよかったんだけどなぁ」
「やってみようか?」
「でも五歳に戻れるわけじゃないからなぁ」
今は何の因果か、着物デザイナーの男と友達になった。頼めばあの時に着たかった華やかな色と柄の羽織袴も手に入るだろう。でも当時はこの男も五歳だった。
「これからの子供のためにやるんだよ。そうすればだんだんみんな幸せになってく」
「天使かよお前……。まあ確かにそうかもしれないけどさ」
「だから今年の新作はそれで行くから。あ、友達のアイデアだってちゃんと言うからさ」
「いやそれは別にいいんだけど」
この男のおかげで、最近は自分の好みの服が着られている。ないなら作ればいい。選択肢が無限になった。
五歳の僕が今の僕を見たら、きっと地団駄を踏むんだろう。未来に救いの手を差し延べることはできても、過去はどうしようもない。ごめんな、と僕は五歳の僕に呟いた。
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