11/13あの病院「復讐は似合わない」
「あの病院にはすごい犯罪者がいて、復讐したいって思ってる人にそのやり方を教えてるんだって」
「モリアーティ教授みたいだね」
「誰それ」
「ホームズの敵役。いずれにしてもそんなのフィクションの話だよ」
犯罪計画を授け、自分の手は汚さない。そんな人物がいるのは所詮物語の中だけ。伊月がいくら復讐を望んでいても、そのやり方を教えてくれる人はあの病院になんかいないのだ。
「だよねぇ……だいいちこんな田舎の病院にそんなすごい人いるわけない」
「残念ながら、自分で考える他ないね」
とはいえ伊月に完璧な計画など作れないだろう。伊月の復讐が遂げられるためには、五人を殺すまで自分が犯人だと知られてはいけない。けれど伊月の頭では一人目で犯人が分かってしまうだろう。探偵なんて必要ない。警察だけで事足りる。
「で、今日はなんか考えてきた?」
「この前言われたところを直そうと思ったんだけど、全然思い浮かばなくて」
先週、伊月のお粗末な犯行計画の穴をいくつか指摘した。僕ならその穴の埋め方もわかるけれど、あえてそれは教えなかった。伊月が一生復讐なんてできないように、他の人にならいくらでも教えてあげることも、伊月には言わないようにしている。
「僕も何も浮かんでないや」
「あの病院に本当にいればいいのになぁ」
伊月は勘違いをしている。伊月の言う「すごい犯罪者」はあの病院にはいない。それは攪乱のために流した噂で、本当はこの病院の中にいる。
伊月にある程度の情報網と執念があればこの病院には辿り着くかもしれない。けれど伊月が復讐のための計画を手にすることはない。
復讐が伊月の生きる目的になっている以上、それを奪うことはできない。けれど伊月には綺麗な手のままでいてほしい。だから中途半端に助言だけして、計画が成るのを引き伸ばしている。
なんて滑稽なのだろう。僕は自分の手は一切汚さずに、多くの人を間接的に殺してきた。それなのに今、自分と半分だけ血が繋がっている彼を、犯罪者にしたくないと思ってしまっている。
伊月の目はあの病院に向けられている。このまま僕の真実には気づかないでいてほしい。
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