11/4恋しい「音の渦に」
きっと私は人間ではないのだと思う。この世界には溶け込めない。いつも何かが違う気がしている。水が合わない、と言えばいいのだろうか。何か強烈な違和感があるのだ。
でも、そんな私も合唱をしているときは違和感を覚えずに済む。なぜかはわからないけれど、様々なパートが奏でる音が織りなす音の渦の中にいると、ここが私の居場所だったのだと思うのだ。
先週から、テスト期間で部活がなかった。二週間も歌っていない。早くテストが終わってほしい。あの音の渦に飛び込みたい。数学の証明を書き終わり、私は溜息を吐いた。周りからはまだシャーペンを走らせる音が響いている。数字を描くスラー、テヌート、アクセントが渾然一体となって私を包んでいる。
昔、休止だけの曲を作った人がいたらしい。それは無ではなく、周りの雑音や鳥の声、会場のざわめきなどを聞くものとしている。それもまた音楽だとみなしたということだ。
何となく私にもわかる。確かにそれも音の渦に他ならない。目を閉じれば、クラスメイトが奏でるシャーペンの大合唱が私の体を包んでいく。
ああ、この中に飛び込みたい。
私は再びシャーペンを手に取った。
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