11/3焼き芋「二百円差の未来」
「あそこ、二九八円の焼き芋があるじゃない?」
「うん」
「食べたことある?」
学校がある緑坂を下ったところにプレハブ小屋があって、そこは冬だけ焼き芋屋になる。私たちは学校帰りにそこに立ち寄って、焼き芋をひとつだけ買って、二人で分け合っていた。けれど買ったのは九八円の安納芋。二九八円のシルクスイートはなんとなく手を出さずにいた。
「いや、だって二九八円だよ? 三倍くらいするじゃん」
「だから絶対おいしいと思うんだけど、なんか手が出せないんだよねぇ」
別に二九八円が払えないほど余裕がないわけではない。たまに食べに行くケーキの方がよっぽど高い。けれどなんとなくいつも安い方を買ってしまうのだ。
「安納芋もおいしいから別によくない?」
「いや、でもさぁ……二九八円の味は気になるじゃん」
「でも安納芋とたいして変わんないかもよ?」
そんな繊細な舌を持ち合わせているわけでもないし。結局、二九八円も払っておいて期待外れになってしまうのが怖いのだ。
「そうなんだよなぁ……でも、もしかしたらものすごくおいしいかもしれないんだよね」
「どうする? 今から戻って買いに行く?」
「いや今からはいいよ。買うにしても今度にしよう」
毎回こんな話をしている気がする。多分明日も私たちは二九八円の焼き芋を買うことはないだろう。でもきっとその方がいい。二九八円の焼き芋を買ういつかの未来のことを思い描き続けられるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます