11/2手紙「十年後の私へ」

 十年後の私へ。

 未来の自分へ手紙を書きましょう、なんてくだらない宿題が出てしまったので書いています。でもこの手紙を提出するつもりはありません。提出するのは嘘の手紙。くだらない宿題だけど、本当のことを書いて先生に何か言われるのも面倒だし。きっとあなたならわかってくれると思う。

 さて、十年後の私が私の思い描いた道を歩んだ場合、あなたはもうこの世にはいないはずです。私は二十歳にはならない。その前にこの世界からオサラバするって、六歳のときに決めたから。私は享年十九歳。だって大人になんか絶対になりたくないから。

 大人は何もわかってくれないのに、綺麗事ばかり口にする。人には優しくしないといけない。諦めてはいけない。逃げてはいけない。未来は光に満ちている。

 あんな死んだ目をして生きている人たちの言葉をどう信じればいいの? 私の未来は光に満ちてなんかいない。大人になるということは自分を濁らせていくということ。私は濁りたくない。透明なままでいるためには、死ぬしかないじゃない。


 十年後の私に、この手紙が届かないことを祈ります。受取人不在で宙にさまよっていてほしい。そのときは私がちゃんと死ねたということだから。

 六歳のとき、ノートに死ぬ方法を書き出していたら先生に見つかってしまったことを覚えてる? あのあと私はカウンセリングを受けさせられたり、事あるごとに行動を監視されたり、色々あったけれど、あのノートだけはゴミ箱から救い出したの。死に方はもうこのノートに書いてある。あとは実行するだけ。私ならきっと成し遂げてくれると思ってる。

 でも、もしこの手紙を十年後の私が受け取っていたなら、私は一生恨みます。あんな汚らわしいものになってしまった私を私は絶対に許さない。あなたの未来全てを呪いたい。でもきっとそんなことないよね。あの日先生が言ったみたいに、人生に楽しさを見出したりはしてないよね。私は私を裏切ったりしないって信じてるよ。


十年後の骨の私へ

十歳の私より。

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