霜月小話 #novelber

深山瀬怜

11/1窓辺「窓辺に立ってはいけない」

 この部屋の窓辺に立ってはいけないよ――。

 先週死んだ祖父は繰り返しそう言った。

 この部屋の窓は隣の家の塀に面していて、ブロック塀の灰色しか見えない。窓の意味がほとんどない以外は普通の窓だ。それでも、この窓は呪われているらしい。

 窓辺に立ってしまうとどうなるのか――それを身をもって僕に教えてくれたのが五年前に死んだ父だ。何の理由があったのかはわからないが、5年前のある日、父はこの窓辺に立って外を見た。そしてその数時間後に謎の死を遂げたのだ。父の遺体には無数の手の痕があった。それと父の死とこの部屋の窓辺に立ってはいけないことがどこまでつながっているかはわからないけれど、祖父は父が窓辺に立ったことを嘆いていた。だから多分、窓辺に立ったことで父は死んだのだ。

 父が死に、祖父も死んで、この家に残ったのは僕だけだ。人を殺す窓辺が、最後に残った一人を待ち構えているような気がする。


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