【第7回】お隣さんの、本当の気持ち。

 朝、と言うのにはもうおそく。

 午前中と言うべき時間にちがいない。

 かしのつかれが残っているのか、まぶたは重く中々に開かない。


「……すぅ」


 浅く息をする音が近い。その正体を確認すべく、目を開けていく。


「って、山野さん!?」


 起きけなのに大きな声が出た。

 そう、ベッドの上に山野さんが居て、俺の目の前でいきを立て寝ているのだ。


「ん? あれ? ここって、私の部屋じゃ……ない?」


 目をこすりながら起き上がる。

 すぐに自分がやらかしたことに気が付いて顔がみるみると赤くなっていく。


「あは、あははは……」


 かわいた笑い声。

 ずかしさがピークに達したのだろう。


「死にたい。寝ぼけてなにやってんだろ、私」

「俺は何もして無いですからね?」

「え、あ、うん。そうだね。《《間宮君は何もして無い》》のは分かってるから。というか、ごめんね。勝手にベッドに入って。うん、本当にごめんね? ほら、明かりがついて無くて寝ぼけてただけだから。ね?」


「いや、まあ」


 いい気分でしたとか言って気まずくなったら困る。

 お茶をにごすように言いよどませてこの場を乗り切ろうとした時だ。

 山野さんの姿があれなことに気が付いてしまう。

 そう、俺が貸したジャージは大き目でこしまわりは山野さんにはデカい。

 寝ている際に動き回ったのだろうか、山野さんが穿いていたはずのジャージはげていた。

 代わりに見えているのは、ピンクでちょっとしたレースが付いているパンツ。

 そして、れいに伸びる生足だ。

 つい、くぎけになってしまった俺の視線。

 すると、その視線がどこに向いているのかを山野さんは確認すべく目を動かす。


「あ、え、え、っと。ぬ、脱げてる!?」


 顔はさらに真っ赤に。

 急いで穿いていたはずのジャージを探して、身に着けていく。


「うん。恥ずかしくて、死にそう……」


 リンゴのように赤い顔で恥ずかしがる。

 その姿はもうたまらない。


「えっと、その、大丈夫ですか? あと、見てすみません」


 取り敢えず、大丈夫か聞いて、一応見たことも謝っておく。


「う、うん。大丈夫……。あと、間宮君は悪くないから、うん、悪いのは私だから気にしないでね? ね?」


 しどろもどろで落ち着かない山野さんは俺の顔をちらちらと見ては目を背けて、かみの毛をいじったり、手をくねらせたりとものすごく恥ずかしそうであった。

 やばいなあ、山野さんの事がもっと好きになって来たんだが?

 パンツを見てしまい、俺と山野さんは気まずくはなったものの、それも和らいできた。


「んじゃ、私はそろそろ管理会社に行ってスペアの鍵を受け取って来るね」


 ジャージから制服へえた山野さんはスペアの鍵を取りに行くとの事だ。


「行ってらっしゃい」

「本当に色々とごめいわくをおけしました」


 れいただしく頭を下げた山野さん。

 親しき中にもれいありで、非常に好感が持てる態度である。


「そんなことは無いですって。なべとか映画とかいろいろ出来て楽しかったですよ」


 ……それに、生パンツと生足を拝めたし。

 口がけても言えないが、実物のパンツと生足なんて姉以外のを見たのは初めて。

 加えて好きになった相手のと来たらもうたまらないとしか言いようがない。


「じゃあ、行ってくるね」


 せっかくなので、げんかんまで見送りに行く。

 一晩過ごして、思いはより一層強まった。

 山野さんと一緒にこれからも過ごしたいからこそ言うべきだ。


「昨日の鍋を作るときだったり、おを食べた時だったり、二人で色々とするのって時間の節約になりますよね」

「ご飯の時はなんだかんだで間宮君も手伝ってくれたからね。私一人でやるよりも、だいぶ早くに完成したよ。うん、一人でするよりも、二人の方が色々と節約になると私も思う」


 これではただの感想だ。

 一緒に過ごしたいのなら、下心がバレるとかそれ相応のリスクを負わなくてはいけない。

 そんな俺はゴクリとなまつばを飲み込んでこう言った。


「けいせんぱいには程々にしないと周りからうわさされて損するかもと言われました。でも、こういう風にこれからも二人で協力しませんか?」


 例えば周りからいろこいで山野さんが噂され、教師じんの見る目が変わるかもしれない。

 山野さんの事を考えれば、俺は適切なきよを置くべきだ。

 そうは分かっていても、俺はどうしても山野さんに近づきたい。

 なにせ好きになってしまったのだから。


「そうだね。間宮君は良い子だし。協力しない手はないよね」


 俺が思っていた以上にナチュラルな反応。

 山野さんは俺に向かって手を伸ばしてきた。

 いわゆる、あくしゆを求められているのだろう。伸ばされた手をにぎり返す。


「せっかくおとなりさんで仲良くなれたんですから、このじようきようを大いに活用してやりましょう。二人でしか出来ないような節約術で楽しましょう」

「うん、がんろうね。改めて、お隣さんと始める節約生活の始まりだね。片方が音を上げても片方が助ける助け合いの精神でがんろ?」

「っぷ」

「っあはは」


 やけに積極的なふん。二人してこんなことにどうして本気になっているんだかと軽く笑いあう。


「それじゃあ、スペアのかぎを取りに行ってくるから」


 握手していた手をほどき、山野さんは目の前から去って行くのであった。

 山野さんが去ってから、2時間後。

 今日は休日で学校は休み。

 部活もして無いし、バイトもして無いし、遊ぶ約束もして無いし、無い無いくしな俺は家でゆったりと過ごしていた。

 そんなひまな俺はピンポーンとインターホンが鳴ったので応対をしに行く。


「はい、間宮です」

「山野です。鍵は何とかなったよ~という報告に来たよ。ほら、迷惑かけたし、一応、事のてんまつは話しとかないと」

「あ、はい。そうなんですか」


 それから、山野さんはわざわざ俺に事細かく事の顛末を説明し始めた。


「で、なんだよ。防犯の都合で大家からは鍵をこうかんせよと言われまして……」

「賃貸ですからね。この部屋の鍵は一度無くなって、だれかの手にわたっているかもしれません……なんて許されませんし」

「そうそう。だから、防犯上の都合で鍵の交換はひつで交換して貰う事になってる」


 朝、山野さんがやけに協力的で積極的に二人で節約を頑張ろうと約束してくれたのはこういう理由もあったんだな。


「つまり、お金が掛かったと」

「そういう事です。だから、私はより一層と節約を心にしなくてはいけなくなりました。なので、サボってたらようしやなくしりたたいてください。じゃないと、今度の休みに金欠で友達とのご飯で気をつかわせちゃうし」


 思いもよらない出費のせいで、少しばかりの金欠におちいったのだ。

 だからこそ、節約をさぼらないように二人で節約を頑張ろうという訳だ。


「だからこそ、朝に握手までしてたがいに頑張ろうと約束したんですね」

「まあ、昨日電話かけた時にそういう話は受けたから。私って意志が弱いから、くじけないように間宮君に見張ってもらおうってのもあるね」

「分かりました、付き合いますよ。これから、夏も本番に入り、電気代がこわそうなので。俺も頑張ろうと思ってました。ちなみに、山野さんは去年の夏場の電気代はどうでした?」


 去年からこのアパートに住む山野さんに参考までにだが、夏場の電気代を聞いた。

 すると、とんでもない額が口から飛び出て来て俺は目を真ん丸にしてしまう。


「な、なんで。そんなに高いんですか? ネットだと一人暮らしの夏場の電気代の相場はそんな高くないのに」

「それはね……。学校もない、仕事もないから。ああいうネットでの相場には長く家に居る人たちのデータはあんまり反映されてないからだよ。私も去年はおどろいた」


 そう、学校もない、仕事もしてなければ自ずと家に居る時間は増える。

 だが、それでも山野さんが口にした金額は盛りすぎでは? と思えて仕方がない。


「それでも、盛りすぎじゃ……」

「エアコンの電気代は気温によって結構変わるらしいよ。昼間は高くて、夜は安くなるんだって。一人暮らしで仕事に行ってると、昼間はあまり使わないから電気代が高くなりづらい。でも、私達は昼間にもいる。夜にもいる。という訳で、思った以上の金額になるという訳だよ。あと、このアパートに備え付けのエアコンの性能が低いってのもある」


 非常に分かりやすい説明を受けて、俺は打ちひしがれた。

 苦しいのがいやなので、れいぼうを利かせた部屋で過ごそうと思っていたのに、まんしようとさえ思えて来てしまう。


「私は鍵の交換もあり、今年は夏場の電気代を節約することにしました。まあ、具合が悪くならない程度だけど」

「俺もそうしたく思います」

「で、話はこれからなんだよ。間宮君」


 しんみような面持ちで俺の目を見てくる。

 何を話されるのかとつばをごくりと飲み込み待ち受ける。


「な、なんですか?」

「単純計算で、電気代が半分になる画期的な方法があると言ったら?」


 興味を引かれた。

 電気代が半分? 節約の情報がっていたサイトではせいぜい3円とかみみっちい金額しか節約できていないのに?

 一体、そんな節約方法は本当に存在するのか?


「教えてください」

「一人よりも二人。簡単に言うと、一部屋を二人で使えば良いんだよ」


 なるほど、同じ部屋に二人で居れば、冷房を動かすのは一台で良いし、照明も一つ付ければいい。

 シンプルで単純な節約方法だ。


「それってつまり、俺か山野さん、どちらかの部屋で二人いつしよに過ごすって事ですよね?」

「そうだよ。正直に言うと、私もこれを言うかすごくなやんだ。でもね、一晩めてくれた間宮君があまりにもしん的だったからこそ、言えると思ったんだよ。それに、一番電気代が掛かる昼間だけ、夜はちゃんと自分の部屋にもどるつもりだから安心して?」


 断る理由が無かった。

 だって、好きな女の子と一緒に過ごせるんだぞ?

 つううれしくて仕方がない。


「分かりました。そうしましょう」

「ふぅ……。一安心、一安心。結構、とんでもない申し出でどうなるかと思ってたからね」

「まあ、確かにそうですけど。鍋も一緒に囲んで、一緒におそくまで映画を見た。もはや、山野さんとは普通に友達を通りして親友レベルに達してると言えます」

「うんうん、親友なら別に一緒の部屋に居た所で平気、平気。でも、プライベートが欲しくなったらえんりよなく言ってね。あくまで、出来る限りの節約。節約をして苦しいのは私のモットーじゃ無いし」


 節約して、苦しくなるくらいならしない方がマシという考えは俺もそうである。

 実際問題、絶対に電気代は半分にはならないのは知っている。

 けれども、そこまで苦しくないのならしないよりかはした方が良い。


「はい。じゃあ、色々と決めましょうか。暑いでしょうし、部屋の中にどうぞ」


 部屋に招き入れようとするも、


「ちょっと待っててね。ほら、昨日から同じ服だしえてくるから」


 着替えるために自身の部屋へと戻って行く山野さん。

 少し変態じみている気もするが、昨日から同じ服というのに興奮するのは俺だけでは無いはずだ。

 といった感じに下心満々で、エロい考えをいだくがそれをはらう。

 せっかくつかんだ一緒に過ごすという時間を台無しにしないように、自制を頑張らないといけないしな。




山野さんSide

「……あはは。すごい事言っちゃった」


 げんかんくつぐのを忘れて、その場で小さくうずくまってもどかしさにえる。


「さすがに電気代のためとは言え、一緒に過ごそうだなんて強引過ぎでしょ……」


 電気代のために一緒に過ごそうというのも理由の一つ。

 だが、本当の理由は一緒に居たいからだなんて口がけても言えない。


「間宮君の事が好き過ぎてヤバい」


 朝、ぼけてベッドの上に乗ったと言ったのだが、あれはうそである。

 なにかくそう、自分で乗ったのだから。

 机でして寝て居たがふと目が覚めた。

 ベッドで間宮君が寝ていたのを良い事に、つんつんとほおつついたり、うでさわってみたり、ながめてみたり色々とした。

 それから、ちょっと横でい寝して夢見心地を味わっていたら、本当に夢の世界に入ってしまったというのが今朝、一緒のベッドで寝ていた理由。


「でもさ、でもさ、昨日に何も起きなかったという事はそういう事なんだよね」


 ただの友達。

 仲良くし始めて3週間くらい経つ。一緒に料理したり、料理のおすそけをしたり、食材の買い出しだったりをしている。

 派手さや劇的な何かがあったわけでは無いが、これだけ色々な事があった。


「好きになっていたら。好きになっていても、おかしくないはずなのに……」


 そう、相手の事を好きになっていてもおかしくないじようきよう

 日常でかいる相手の良いところを知って、それにかれて好きになる。

 間宮君がもし仮に私の事を好きになっていたとしたら、確実に昨晩、何かが起きていなければおかしい。

 何も起きていないこの状況を一言で表すのなら、やはり間宮君は私の事を、


「ただの女友達」


 この程度にしか思っていないにちがいないと思われる。

 だからこそ、私は電気代のためにとか理由を付けて一緒に過ごそうだなんて事を口走ったのだ。


「友達としか思われていないのなら異性として思われるようにがんらないとね」


 シャワーを浴びて今着ていた服を着替える。

 そして、私はおとなりさんへと向かうのだ。

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お隣さんと始める節約生活。 電気代のために一緒の部屋で過ごしませんか?【スマートニュース連載版】/くろい 著:くろい/イラスト:U35/ファンタジア文庫 @fantasia

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