第2話 劣等生卒業?

「連立方程式では、xとyを…」

テスト前で、他クラスで問題集を解いている。今私は2年生。響きが残念すぎる劣等生も卒業した。竹下くんはあいかわらず、今度は男の子と師弟関係を続けている。ちなみに、今も。

「佐藤さん、ここをそろえると計算しやすいから」

 竹下くんは、先生たちがクラス単位で授業を進める中、私のペースで教えてくれた。普段と違って、数学を教えてくれる時は分かりやすく、根気強く教えてくれるため、彼に好感も持った。普段の彼は相変わらずだけど。それで数学の苦手意識が薄れて成績もアップ。ルーム教師の師弟関係が終わり、クラスも離れたけど、数学の教師は続けてもらっている。すごく分かりやすいから。みんなに知られると冷やかされるかもしれないから、放課後やノートの文通を続けている。誰もいない教室で一緒に問題を解いたり、分からない問題をノートに書いて手渡し、解き方をポイントをおさえて記入してもらう。そんな、よく分からない関係。

「ここ違うよ」

 計算ミスを指摘されて、消しゴムをかける。手がふれて、思わず手を離す。

-好き

 いやみで、上から目線で、多分数学が好きで、人の考え方に合わせて自分にできることをするとこ。

 今の彼が結んでいる男の子との師弟関係の教え方で、たまたま私が対象の劣等生と話す機会があったため聞いた。彼は絵をたくさん書いてくれると。イラストを用いながら分かりやすく説明してくれると。私の時は図書室で私の本に対する想いを世間話にしながら教えてくれたから、やはり人に合わせて数学を教えてくれていたことが分かった。

 彼に浮いた話を聞いたことがない。私が文芸部で童話を作っている中、窓から見えるテニス部で仲間と汗を流しているのを見る。この1年で身長も伸び、まだ成長中。私の背なんてあっという間に抜かされた。

「もうすぐ、スキー合宿だね」

「そうだね。僕は毎年スキーに行ってるから、どうでもいいけど」

 校則範囲に伸びた前髪を、彼はさらりとかきあげた。髪もさらさらだった。

「キャンプファイヤーでなにするか楽しみにしてて」

「きみのすることなんて期待できないけどね」

 あいかわらず憎たらしいことをいう竹下くん。実は私はスキー合宿委員。劣等生を卒業したから委員をやる権利ができて、この委員で実行委員長になっていた。を2年生をまとめている。私は、計画を立てている。


「じゃあ、キャンプファイヤーでやりたいこと、思いついた人は発言しろよ」

 学年主任の話を聞いて、私たち実行委員は話し始めた。

「クイズ大会は?」

「青春を叫べ」

「みんなでダンス」

 好き放題言っているなかで、私はあげはと目線を合わせ、あげはに言ってもらった。

「オクラホマミキサーは?気になっている子と手をつなぐチャンスよ」

「いいかもね。好きって言えなくても、気持ちを手に乗せたら?」

 あげはに発言してもらって、私が同調する。実行委員長だから自分から言うより、言ってもらったほうがいい。みんなもいい雰囲気だからいいかも。そんななか、

「絶対イヤ!」

 隣のクラスの女の子が嫌がり始めた。

「男の子となんて手をつなぎたくない」

 噂話に聞いた。彼女は男と話すことや触れることを必要最低限にしている、男嫌いだと。実行委員でここまで嫌がられると-、

「じゃあ皆川は男側に回れ。言ってなかったけど、オクラホマは毎年恒例行事なんだよ。毎年誰かしらやりたいって言うからな」

 学年主任がてきぱきすすめて、オクラホマミキサーが決まった。


 スキー合宿。雪がふってすごくいい雰囲気。みんながインフルエンザで倒れていく中、オクラホマミキサーが始まった。

 音楽がなって、みんなで踊る。私はダンスが苦手で、なかなかうまく踊れない。竹下くんとの番になった。

「佐藤さん、手の向きが逆だよ」

「なるほど」

機械的に踊ってく彼。今言わないと。行事でみんな盛り上がってるし、

「いつも数学教えてくれるよね。竹下くんに数学教わって、好きになった」

「そっか」

 煮えない言葉で、次の人に回っていった。あまりにあっさりしていたので、振られたのかどうかさえ分からなかった。

「私ダメだったのかな?」

 消灯前にあげはと香ちゃんに聞く。

「彼、小学生の時から男の子と遊んでいる方が楽しそうだったからね」

「数学教わって、好きになった。だと彼のおかげで数学を好きになった、ともとれるよね」

 頭に石がふってきた。やってしまった。中学生にもなって告白もできないとは。私らしいけど。

 そんなスキー合宿の後も、私たちは教師関係を続けていた。

「佐藤さん、数学好き?」

「竹下くんの教えたがいいから、好きになったかな。まだうまくはできないけど」

 事実、私は数学が好きになっていた。まだ上位にはいかないけど、平均点くらいはとれる。テスト前に竹下くんが教えてくれるから。

 家の事情で、私は大学で私立に行けない。だから苦手科目をつぶせる桜台中学に入った。とても効果的で、私の学力はめきめき上がった。国語などはルーム教師になれるほど。

 あげははバスケ部のの新レギュラーとして都大会へ行った。夏に向けて今から頑張っている。

 香ちゃんはコントラバスでパワーがついた。発表会などのたびに楽器の上げ下ろしをしているうちに、どんどん力がついたもよう。母性や癒やし以外に、力持ちという魅力も身につき、下級生から人気が爆発。時々手紙をもらっている。

3年生になったら、受験に部活に忙しい。私たちは人生に一度の中学生生活を、これからも楽しんでいく。

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