小名浜防衛
植田の戦いが始まる前に幾つかの行動を起こそうとしていた男がいた。名を
話は少し遡るが、平潟より北にある小名浜港、それより僅かに北にある中ノ作にて奇妙な蒸気船が発見されたのは六月十五日の夜半。六日より中ノ作の防衛に当たっていた重左衛門は、様子を見ていると船は北の方へと退散していく。まさか、新政府軍の船かと北の江名浜まで斥候を出すも上陸した形跡もなく、何とも言えない心地を覚えながら兵を戻していた。
そして、六月十六日に齎された
この報告聞けば、重左衛門は十二日より共に中ノ作を防衛していた仙台藩士にして軍制方の
「……もう、か」
その報告を聞き重左衛門は顎の髭を撫でやり、苦く呟く。敵が早い。それに、平潟を取られたと言う事は、白河への間道も容易く作られる。そうなれば、敵は白河の総督府と連携し、海陸共に攻撃を食わてくる可能性すらあった。そうなれば、平城を守る事は難しい。
再び壱岐と軍議を行い、重左衛門は中ノ作の兵を分けて、白河への通路を取り切り、街道より人数を繰り出し、残った砲兵部隊で山を回り平潟の裏に出て、尚且つ浸透させた分隊に火を掛ければ勝機はあると説く。次々に語られる計略に僅かに驚く壱岐に重左衛門は言い切った。
「平潟の地形は、前は海、後ろは山。僅かに桟を用いた通路と致す場所。密集場所に火と砲弾が襲い掛かれば、まずは勝てましょう」
「確かにそうだ。急ぎ参謀
壱岐はその有用性を認め、仙台藩参謀が詰める湯本の地へと向かった。もし、古田がこの言葉を聞き入れて居れば、如何なっていただろうか? 新政府軍に各個撃破されただけか、或いは、何らかの打撃を与えられただろうか。ともあれ、この計画は実地されなかった。古田は、万が一中ノ作が奪われる事を恐れて、防衛に勤めよと命じただけであった。
六月十七日、日中に響き渡る銃声や砲声が植田辺りから響く。物見が山を登って植田を見れば戦火が垣間見え、大きな争いが起きていると伝えた。急遽、重左衛門は斥候を植田へと放つ。砲声鳴り止まない時間をまんじりと過ごす重左衛門の元に斥候がある報告を持って帰ったのは八つ半、今で言えば十五時。小名浜に蒸気船一隻向かったとの報告が中ノ作防衛部隊にもたらされた。
重左衛門は中ノ作の防衛も厳重に当たる様に部下に指示を出しながら、小名浜へと再び斥候を差し向ける。二人送り出したうちの一人が急ぎ戻れば、既に戦いは始まっていると言う。
「小名浜の防衛は、数が少なく難儀しておる。壱岐殿に相談し、小名浜に援軍を送らねば……」
小名浜を守るのは大砲長である
重左衛門が小名浜港の僅かに北、高台の在る
「打てっ!」
緒形の指示で弾が飛ぶ。少数ながら小名浜の防衛隊は必死に戦った。そして、別方面からの砲弾が蒸気船へと向かって飛び着水すれば、蒸気船は分が悪いと悟ったか、暫し打ち合ってから小名浜への上陸を諦めて撤退した。緒形が弾が放たれたであろう神白へと視線を向ければ、磐城平ののぼりが風に揺れているのが見えた。
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