What are little boys made of?
薄暗い部屋は判断を鈍らせる。ぼんやりとした明かりの中は幻想的で、非現実の世界へと引っ張っていく。
「せっかくですから、改めてきちんと自己紹介でもしましょうか。全員前に出たことですし」
エースの顔は覚えている。彼が一番発言しているからだ。
自信ありげなその表情は元からなのだろう。だから彼が皆のリーダーなのだ。
「僕はスペードのエース。ジョーカーからリーダーを指名されました。別にそれに従わなくてもいいんですけどね。皆は僕を一応リーダーということにしてくれているみたいです」
にこりと笑うと、柔らかな黒髪が揺れた。シャツのボタンを一番上だけ外している。青色が混ぜられたグレーのベストに、スペードのバッジがつけられていた。
「はい、デュースの番だよ」
エースの次は二番目か。床に座っていた小さい子にランプが渡った。
なかなか話し出そうとせず、じっと上目遣いでこちらを見ている。何かを探ろうとでもしているのだろうか。
「デュースはねぇ、ハートなの。ハートの2なんだって。えへへ、デュースは赤が好きだよ。ハートも好きなの。2は別に好きじゃないよ。覚えてね、先生。デュースのことを覚えておいて」
彼らは合わせた制服を着ているようだが、彼に合うサイズがないのか、袖は片方だけ捲られていた。反対側は取れてしまったのか、だぼだぼの状態のまま放置されている。緩い袖から小さな手が見え隠れしていた。
エースが次の人物に呼びかける。
「トレイ……クラブ」
「トレイ。もう少し何かないのかな。先生が驚いているよ」
「……知らねぇ」
「すみません先生。トレイはこういう子なんです。気に入った子には優しいですから」
「は? 黙れよエース」
「まぁまぁ落ち着いて。トレイのことなんて気にしなくてよろしいです。ふふふ、嫌ならエースから離れてくださいね」
「言われなくったってそうする。ほんと気持ち悪りぃわ、てめーら」
シンクはエースの横に移動し、庇うように前に出た。トレイは面倒そうに舌打ちをしながら、教室の隅に寄った。短めの金髪から見える目は鋭い。
「もーう口が悪いんだからぁ。私の前で喧嘩しないで。こんにちは先生、ケイトと申します。ダイヤの4。私ハートよりダイヤの方が好きなの。宝石って綺麗じゃない? 愛か美か、究極の選択だわ。それを二つとも手に取ることなんて、できるのかしらね」
見た目は完全に女性に見えるが、骨格はしっかりしているだろうか。スカートは履いていないが……口調や話すことも相まって、女性と言われても違和感はない。
「お待たせしました。真打ち登場! エースの右腕。貴族の剣。美しい5の数字。全てが完璧なシンクでございます。さぁさぁもっとご覧ください。遠慮はいりませんよ……おっと失礼。先生はもうシンクのことはご存知でしたね。先程親交を深めましたものね。これからもどうぞご贔屓に……」
大きく手を回しお辞儀をした。この子が一番分からないかもしれない。
「ははは! さすがシンクはおもしれぇなぁ。芸人にでもなるつもりか? それはいい、俺は応援するぞ! さっきもちょいと話したけど、俺はハートの6、サイスだ。こいつらの年は分かんねーけど、みんな弟みたいでな。何をやっても可愛いもんだ。先生も、仲良くしような」
確かに彼は背も高く、体も大きい。小さなデュースと比べると、親子みたいだ。
「うーし! やっと俺のばんー! やっほーどうもどうも。ラッキーセブン! ダイヤの7だぜ。よろしくなー! えっとね、俺は……キラキラが好きだぜ、だからダイヤにした! 覚えやすいだろー? 7って目立つもんな!」
腕を激しく動かして、こっちに手を振ってきた。制服をリメイクしているのか、彼のは普段着と変わらないように見える。パーカーを着たり、スニーカーを履いたりと、随分カジュアルだ。
「さてさて、そろそろ折り返し地点かな。いっぺんに自己紹介されて大変だと思うけど、覚えようとしなくても大丈夫ですよ。俺達には沢山時間があるんだからね、そのうち嫌でも覚えるさ……ふふ、俺はエイト。愛のハート。名前を忘れたら何度でも訪ねてください。俺は何度でも愛を与えてあげるから」
髪に指を巻きつけ、薄く口角を上げた。その仕草や表情はとても大人っぽい。
「あ、あの……僕は、ナインです。えっとクラブで、9の……そ、それだけです。他に言えること、なくて……すみません」
先程水を持ってきてくれた子だ。制服のボタンは上まできっちり止められていて、シワ一つない。
「ごきげんいかがですか、先生。 私はテン、10です。ダイヤは私のラッキーカードなのです。以前カードゲームをやった時に、私を勝利へ導いてくれたカード。そうですね……なんとなく黒いカードよりも、赤いカードの方が好きなのです。先生のお好みはどちらでしょうか」
柔らかく微笑みかけてくれた子の隣がいないと思ったら、下にいた。
次の子は見た目から異質だった。長い髪が床に付くのを気にせずに、片膝を立てている。床に何かあるのか、指先で数回擦ってから、髪の毛を鞭のように払った。
「あれ? うん? あー……これは、そう。ひひっ、ハハ……もうすぐ来るハズだァ。聞こえるだろ? 蹄の音がさ……猫が引っ掻く、月の音だ……あーははは、待ちきれねぇんだろ? いいぜ……見てやるよ。隅々までなぁ、探してやる。引きちぎって、破って、刺して、舐めて、踊るんだ。尽きるまでな!」
ヒャハハハと笑う声が室内に響いた。皆は慣れっこのようだが、シーンとした時間が続いて、なんとなく気まずい空気が流れる。
「あのー……ははは、そうですね。こいつはジャック。スペードですけど、あまり気にしなくていいですよ。じゃあ仕切り直して、僕はハートのクイーン。ああもう、これ恥ずかしいんですよねぇ。男でクイーンだなんてさ、しかもハートよ、ハート。一番乙女っぽいじゃない? ケイトに譲るって何度も言ってんのに、あいつ今はまだハートじゃないの、なんて言っててさ。もー乙女の心は難しいっていうかさぁ。ま、色々損な役割なワケ。同情するなら癒しをちょうだいねー。センセ」
「……」
「あーっと、すいません。次も問題児でしたねえ。この子で最後、スペードのキング様。ただぼーっとしてるだけじゃないの。優しい子なの。会話はちょっと苦労するかもしれないけど、めげずに話しかけてあげてください」
「貴方は……0と1なら、どちらがいいですか」
壁に目を向けたまま呟いた。キングは腰元まである髪を一つに結んでいる。
その質問に答えられずにいると、エースが助け船を出してくれた。
「ふふ、ごめんねキング。先生とのお喋りはまた後でね。とりあえず次は……何しようか。また探索に行ってもらおうかな」
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