誰がカエルを殺したの?
誰がカエルを殺したの? 捜査編
ここで立ち上がったのはハリネズミ。自称探偵。皆の足元を通って、広場の中心に現れた。
こっそり切り株の上へ登り、カエルをじっくり見つめた。
「とりあえずこの者の墓を作らねば。誰か手伝ってくれるか」
動物達の会議を背に、森の中へ駆け出した。
最初に行ったのはキツネの家。確か彼は来ていなかったはずだ。
コンコン、扉を叩いてキツネが現れる。
「こんにちは、キツネさん」
「ああ、どうも」
「どうして広場に来なかったのですか」
「興味がなかったからね。一匹死んだぐらいで大袈裟なのさ。俺らはいつ死んでもおかしくないだろ。それを不幸って顔してさ、何が可哀想なのか分からないね」
「カエルさんには会っていない?」
「当たり前だ。一ヶ月も前から見てないね。まぁ見ていたとしても、小さすぎて分からないね。会っていたとしても、興味がないから忘れちゃうね」
「分かりました。ありがとうございます」
可哀想なハリネズミは、お尻をちょっと蹴られてから追い出されました。今度会った時は針を当ててやるぞと意気込み、そこを後にします。
続いて訪れたのはヘビの所。洞窟の中にあるヘビの家。
叩くドアがないので、足で床を叩きました。タンタンタン。物音一つさせずに、ぬめっとヘビが現れた。
臆病なハリネズミは、ちょっと怖がりながら聞いてみる。
「カエルさんが死んだのです」
「おやおや、それは可哀想に」
ハリネズミは長い舌を素早く揺らされ、ちょっと寒気がしました。ヘビの舌が苦手なのです。
「何かご存知ですか」
「知らないねぇ、でもどうせ死ぬなら食っておけば良かった。何度か狙っていたんだけど、遅かった。今なら間に合うかな」
「さぁ、どうでしょう」
「お前も食べやすいサイズだが、針が邪魔だな。それを全部取ってくれば、食べてやってもいいぞ」
「それはそれは残念です」
ハリネズミは後ずさりながら、今度は自分から家を出ていきました。
森の中にいるのは基本的に優しい動物ばかりなのですが、ハリネズミが相手するのは変わり者ばかりです。
次に行くのはフクロウの家。背の高い木の上。
ハリネズミは首を精一杯伸ばし、上を眺めた。
「フクロウさん、フクロウさん」
ホーホー、フクロウ夢の中。こっくりこっくり夢の中。
ハリネズミは困って木を叩いてみた。意味なし。
ハリネズミは困って木の実を取ってみた。それをフクロウに投げてみる。
「それ!」
木の実は明後日の方向へ。
「すみません。フクロウさん」
呼びかけても返答なし。諦めようとした時、ツバメが通りかかった。
「どうしたんだい、ハリネズミくん」
「こんにちは、ツバメさん。フクロウさんに空を飛んでいる時に、何か見ていないか聞こうと思ったのです」
「ふーん。でもこのおじいちゃんは見ていないんじゃないか。それより俺が教えてやるよ。第一発見者だ。偉いんだろう?」
偉いかどうかは分かりません。
「実はウサギが三時にベリー摘みに行ったと言ってただろう。あのとき確かに二人を見た。赤いベリーをたくさんカゴに」
「なるほど。ウサギさんの話は本当だと」
「ああ。その後は知らないけどね」
「やっぱり夜のうちに何かがあって、その数時間後に発見された。恐らく亡くなったのは深夜……」
「友達の家に泊まると言ってたらしいな。そいつが分かりゃ、かなり真相に近づけそうだけど……皆はもう悲しみモードだ。無理もない。こんなショッキングな死に様は初めてだからな。ここではもっと柔らかく、幸せに、まるで結婚式かのように祝福される死が、こんな! 悲しく寂しく、誰にも看取られない……最期だなんて!」
「ツバメさん……」
「なぁハリネズミくんよ、もしかして犯人を探しているのかい?」
「僕はただ真相が知りたいだけです」
「やめときなよ。傷つくだけだ。聞く方も聞かれる方も。暴く方も暴かれる方も」
ハリネズミはちょっと困った顔をしながらそこを後にしました。どうして自分がこんなに正義感に駆られているのか、分からないまま。
ハリネズミはカエルの家に行きました。まだ帰ってきているか分かりませんでしたが、戸を叩くと奥さんはそこにいました。お葬式は案外早く終わったようです。
愛に溢れたこの世界で、パートナーの最期に一緒にいられないなんて、大変不名誉なことです。この先、色んな動物に言われるでしょう。ひどいやつだと。
「カエルさん……大丈夫ですか」
「私……」
ハリネズミは言葉を待ちました。奥さんは疲れ果てたような顔で、小さな椅子に腰掛けました。
「あの人が分からない。何を考えているか、分からなかった。どうして私に相談してくれないの、どこに行くか教えてくれないの……私と話すのが嫌だったの?」
「犯人に心当たりなんて……ないですよね」
「誰も疑いたくないわ」
「ひとつだけ……奥さん、ベリーはお好きですか」
「ええ、好きですけど。それが何か。まさか摘みに行ったのは私の為とでも? そんなわけありません。一番ベリーが好きなのはあの人なのですから」
「そうですか。ありがとうございました」
ハリネズミは家を出てから、森を眺めました。なんでもあるこの森。沢山の動物が仲良く暮らしているこの森。
「ああ、そうか」
何かに気づいたハリネズミは歩き出しました。
これで物語はおしまい。
誰がカエルを殺したの? 真相編
「さて、先生。容疑者はキツネ、ヘビ、ツバメ、カエルのどれかです。犯人は誰でしょう?」
劇は終わったようだが、クイズはまだ終わらないらしい。黒板は可愛らしい動物の絵で埋まっている。
「ここに出てくる動物は架空の存在にしてください。カエルがベリーを摘みに行くわけないとか、ハリネズミが探偵なんかしないとか、そんなのは無しで」
「犯人といっても情報が少なくないかな。キツネとヘビは事件のことについてほとんど話していないし。どうにでも結論づけられる気がするけどね」
「別に当てる必要はありません。良いんですよ、好きに答えてもらって。嫌いな動物だから選んだ、そんな理由でもいいんです」
「うーん……じゃあ一番怪しいというか、理由がありそうなカエルの奥さんかな。こんなの、勘とすら言っていいものか……」
「先生が選んだのはカエル。カエルの奥さん……それならば」
「正解はカエル。自分を見てくれないカエルを恨み、後をつけて首を絞めた。あるいは毒を飲ませた。血は出なかったか、或いは洗ったか。皆が集まる広場に持っていけば必ず目に入る。ひどい夫だったと慰めてもらえる……こんな感じ?」
「まぁいいんじゃない。僕だったらウサギに協力してもらったことにするかな。毒のベリーをわざと食べさせるんだ。その後の魚釣りは自分が夫のフリをする。見た目は同じなんだ。バレないよ」
落書きがどんどん黒板に埋まっていく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これだけ長々とやっておきながら、ちゃんとした答えはないのかい」
少年達はキョトンとした顔をしながら見つめあった。
「それではもう一つ用意しましょう。そっちの方が気に入るかも」
「動物達が平和に暮らす森、そんなもの存在しない。つまりここは絵本の世界だった! 平和を演じさせられて、飽き飽きした動物が反逆の為に、或いは暇を潰す為に、戯れに殺してみた! その動物は誰でもいい。シカでもクマでもネコでもハリネズミでも。作者に復讐!」
「または作者が遊びで殺してみた!」
「ってのは、どうでしょう」
「どうと言われても……」
納得できる答えにするには、その解答に向けて話を練らなければいけない。慣れているのかと思ったが、彼らがやったのは、ほぼ即興劇らしい。
「始めに言いましたよ。これは遊びだって」
「先生、遊んで」
「ゲームやクイズとすら言えないかもしれません」
「でもこれでいいんです。僕らは遊びたかっただけだから」
全員の目がこちらに向いた。それは試されているような、期待するような、諦めているような、警戒するような、様々な感情のこもった目だった。
「先生はこれから、僕たちと遊ばなければいけません。それがジョーカーとの約束ですから」
「もうここにはいない。消えてしまったジョーカー」
「さぁ先生」
遊びましょう。全員の声が重なった。ぞわりと鳥肌が立つ。ジョーカーとは一体誰なのか。彼らは何なのか。ここは……。
分からないことばかりだ。
分かることはただ一つ。私は何かしらの理由があってここにいる、彼らも。それだけだ。
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