怪訝
仏像の無事を確認した少女は、ふとある事に思い至る。仏像を盗むとして、どうやって搬出するつもりなだろうか。先にも述べた通り仏像は大人と同じサイズである。見た目から判断して材料は木。仏像には内部に空洞を作りその中に経典などを封入する事もあるが、それでも一人で持ち運ぶには難儀する重量であろう。下手に軽ければ地震や台風の影響によりすぐに倒れてしまうので、屹立させたまま保存する為にある程度の重さが必要なはずだ。筋骨隆々とした所謂マッチョ体型の男性であれば一人でも動かせるかもしれないが、少女の見た絵描きはその真逆の人種であるように、つまり非常に貧弱そうに見えた。
細長い針金を合わせて作った人形のように細長い体躯に、これまた針金のよう細く長い手足が付いている。それが絵描きの印象であった。大きく平べったいカバンを持ち歩いているが、カバンを持った方に大きく傾く様はカバンが重いと言うよりも彼の力が無いように思われる。
少女はあの男が仏像を一人で運べるとは到底思えなかった。仏像を盗むという過程を変えないのならば、共犯がいると考えなければならないだろう。
しかし、それには問題がある。目立つのだ。余所者が何人も連れ立って行動していれば、村の住民達の目には奇異に映る。況してや仏像の窃盗などの重労働を行うのは、若く屈強な男性である可能性が高い。この寂れた過疎の村でそんな者達がいれば目立って目立って仕方がない。
ならば、まだ仲間は村に来ていない可能性が高い。少女はそう結論付けて、踵を痛みの見える床に着地させた。ギィと不吉な音がするのはその重さよりも、板の痛み具合に問題があると見るべきだ。決して自分の体重が重いせいではない。
そう自分に言い訳をしながら御堂の階段を降りた。上りよりも下りが恐ろしく感じられるのは、踏み外したり板が外れたりした際にどうなるのかがよく分かるからだろう。あそこにぶつかって、転がってあの木の幹にぶつかる。容易に想像できた。それがどれ程の衝撃か、どれ程の怪我を伴うものなのかも。故に少女は恐れたのだ。
上りよりも更に慎重な足取りだったので、階段を下り終えるのに数分の時間を要した。もっと丈夫な階段であれば、ものの数秒だっただろうに。漸く安定した地面を踏みしめて、深く息を吐いて吸った。緊張している自覚は無かったが、怪我をしないか気を張っている状態であったらしい。些かばかり速くなっていた鼓動が、平常のペースへと戻っていった。
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