御堂
痛みが激しいとは言え、仏像などを収容しているために扉には鍵がかかっている。大きな南京錠は錆びが付着しているものの、まだまだ壊れるようには見えない。
少女はギシッ、ギシッ、っと音を立てる古びた御堂の階段を登り、その南京錠に触れた。温度の無いざらりとした錆とそれよりは幾らか滑らかな冷え切った金属との境ははっきりしており、指先を往復させればその差が一層強く感じられる。その南京錠は少女の指が動く度にガチャガチャという金属音を立てて、錠としての機能を果たしていると主張していた。どうやら壊されたりはしていないらしい。
ピッキングの可能性も考えられるが、長年外に掛けられたままになっている南京錠の表面には無数の傷が付いているためピッキングによって付けられたであろう傷の有無は判別し辛い。それなりに新しい傷もあるが、村の子供たちや野生動物の悪戯では無いとは断言できない。そもそも窃盗の常習犯であれば南京錠に傷を残すという証拠を残さないのかもしれない。少女の脳内で幾つもの可能性が浮かび上がっては泡と消え、また新しい可能性が浮かび上がってはそれもまた泡と消えた。
扉の前でごちゃごちゃ考えても仕方がないと考えた少女は、通気用に設けられた窓の隙間から御堂の中を覗いた。少し高い所にあるそれに目線を合わせる為には少し背伸びをしなければならなず、そうすると足下の床板がギシッっと嫌な音を立てた。これは体重が分散せずに爪先という局地に集中してしまった為だ。決して彼女の体重が重いわけではない。少なくとも思春期真っ只中の少女はそう信じたかった。
若干の不安を心の隅に追いやって暗がりの御堂の中に目を凝らす。蜘蛛の巣が張られ、その糸には埃が絡まっている。蜘蛛の巣がある言うだけでも見え辛いが、それに埃が着いているとなればいれば尚更視界が遮られる。幸い中ぎ完全に見えないという事も無いが、見る角度は気をつけなければならない。
窓の右下隅に丁度良さそうな隙間を見つけそこから中を覗き見た。床には少し埃が溜まっているものの、村の住民達が持ち回りで掃除しているので然程痛んでいる様子は無い。床板に沿って、奥の方へ滑るように視線を動かせば少女の中の記憶と全く同じ位置に仏像が鎮座していた。どうやらこの時点では盗難の被害には遭っていないようだ。偽物、という線は無いだろう。仏像は大人と同じくらいのサイズだ。流石に入れ替えるのは目立って仕方ないはずだ。
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