追跡

 疾風のように、足場の悪い田舎道を駆けていく。慣れ親しんだ道ではあるものの小石や雑草も多く、それらを踏んでは足が滑った。なるべく障害となる物の少ない場所に着地すべく地面を確認する必要があるのだが、少女の視線は例の男の背中へと吸い寄せられてしまう。この道を外れれば林、と言うか山しかなく、ほぼ確実に見失わないと少女自身も思っているというのに。それでも、その瞳は先を行く人物を見つめていた。

 やがて獣道に毛が生えたくらいに細かった道が開けた。相変わらず路上に小石が転がっているが、生えている雑草の量は些か減っているように感じられる。勿論、道幅が広がった事で雑草が分散し、地面が確認できる面積が増大した為にそう見えているという事もあるのだろう。しかしながら道路の広さに対しての雑草の量は減っていると感じられ、人の手が僅かにでも入っている様子が伺えた。気のせいや思い違いという可能性を考慮しても、少女の目にはそうなのではないかと思わせるだけの違いとして写っていたのであった。

 そんな地面から視線を上げれば、御堂と墓石が視界に入ってくる。小さな御堂はボロボロと言うほどではないが、痛みが激しく築年数による劣化を如実に感じさせた。やや遠目で見ても何処と無く古びた感じを与えたそれは、近づいて見ればその劣化の具合に少々面食らってしまう。

 先ずなんと言っても目立つのは屋根だ。屋根に苔が、植物が生えている。遠目でも分かる程の量で、とても目に付く劣化の一つだ。少女はどのような理屈で屋根に植物が生えるのかは知らないが、それは手入れの行き届いていない建物であるという事は知っている。村に無数にある空き家の屋根もこの御堂と似たような事に、いや、もっと悲惨な醜態を晒しているのだから。見慣れた廃墟から考えればまだマシな御堂ではあるが、ここだけを見てもゆっくりと朽ちていく過程の一場面であると容易に理解できた。

 他にも柱、手摺、床材に使われている木材の端がボロボロと崩れている。触れれば途端に壊れてしまうのではないかと錯覚する程の劣化具合であった。修繕の話は出てはいるのだが、費用という壁が実行を拒んでいる。仏教建築と言うほどでは無いが、古い木造の建物だ。建造当時を再現しようとすれば当時よりも職人や木材の入手が困難になった事もあり、かなりの修繕費が必要となる。勿論、適正価格であったとしてもだ。産業が廃れてしまい自給自足でどうにか生活を営んでいるようなこの村では費用を捻出できず、朽ち果てるしか無い。

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