第249話 熱心な職員さん


 そんなわけでヘンゼルたちと待ち合わせているダンジョンがある建物の裏手、人目につかない場所へと通じる【ゲート】を小夜に開いてもらった。地上でこんな事ができるほどエッセンスのコントロールが上手いのに索敵は苦手なんだよな、理由は聞いてないけど。


 「小夜はどうやって目的地を設定しているのです?」

 「地図を見れば大丈夫なの。目的の場所に向かって【ゲート】を開きながら最終調整するの」

 「なるほど。参考にしましょう」

 「でも時々人がいることに気付かないの」

 「ワタシであればそのようなミスはありません」

 「さすがお姉さまなの」

 「ふふん、なのです」


 なんかよくわからんけどエアリスと小夜は仲良いな。まぁ小夜は天使だった頃からお姉様呼びだったしな。

 一方香織との仲はというと。


 「香織よりも有能なの。その気があるなら教えてあげるのよ」

 「ほんと〜? できるかな〜?」

 「ただのヒトにできるとは思えないけど、もし出来たら褒めてやるからがんばるといいのよ」


 などと言ってはいるが、以前よりも気安い雰囲気だ。それに教えてあげるなんて絶対に言わなかったからな。とはいえ【ゲート】はなー。


 「香織ちゃんに【ゲート】は無理だろうなぁ」

 「どうしてなの?」

 「俺も出来ないからってわけじゃなくて、小夜が言った通りそもそも人間ができるような芸当(げいとう)じゃないと思うんだよ」

 「ゲートだけに、なの?」

 「そういう意味で言ったわけじゃ……」

 「違うの……?」

 「……そうそうそう、ゲートだけに芸当じゃないってな。あははは……はぁ」

 「悠人しゃんおもしろいの」

 「マスターこそ小夜を甘やかしすぎでは……?」

 「そんなことはない」


 おもしろいかというと甚だ疑問だし俺はなんだか恥ずかしい気持ちでいっぱいだけど、俺が造り出した魔王で今や俺の妹だからな。甘やかしているわけじゃなく、兄としてそれっぽい対応はするってことさ。そんな俺に対し香織はちょっと苦笑い、エアリスは表情が抜け落ちている。俺はどんな顔をしているんだろう。まぁそれはともかく。


 「で、エアリス。なんで香織ちゃんと小夜を連れてきたんだ?」

 「都合が良いかと思いまして」

 「都合ねぇ……まぁ一応護衛依頼だしな。予定の日とは違うから特級クリミナルは動かないはずだけど、他のクリミナルがいるかもしれないもんな」


 古びたビルの正面へと回り玄関から中に入る。椅子はないが休憩所の代わりにもなっているようで、数人の探検者が各々寛いでいた。迷宮統括委員会ギルド支部が併設されていて、ダンジョンの入り口にはエテメン・アンキ入場口と同じような探検者免許を検知する機械が置かれている。最近この設備が置かれたばかりで、それは事件の影響もあるんだろう。免許がなければブザーが鳴り、迷宮統括委員会職員から入場を止められるらしく、今も二人の男女が迷宮統括委員を示す腕章を付けた女性に止められている。いやー、すごく見覚えがある。


 「ユート! こっちこっち!」


 迷宮統括委員会職員さんから止められていたのはヘンゼルとグレーテルだった。大人しく待っていればいいのに、困った依頼主だ。


 「あの〜、知り合いなんですがどうかしました?」

 「お友達さんですか!? 困りますよー! 探検者免許もなく立ち入ろうとするなんて! そんな事してるとすーぐ死んじゃうんですからね! それに近頃じゃ犯罪も増えてて……」


 早速のお説教。そういえば二人はダンジョンに通っていたとはいえ免許を持ってないんだったか。じゃあそうなるよな。原則禁止ってことは止める人がいたら従えってことでもあるしな。でも今のところ解決方法は簡単だ。


 「俺たちが一緒に行くんで入れてもらえませんか?」

 「そうなんですよ! 一緒に探検者が行かないと無免許の入場は……へ?」


 職員さんは俺、香織、小夜、エアリスと順に視線を移し、こちらにバーコードスキャナーのような機器を向けた。ピッと音がすると次、そしてまた次。しかしブーと音がしたのはエアリスをスキャンした時だ。


 「三人はいいですけどそこの四人目! なんですかそのチャラチャラした格好は! ダンジョン舐めとんのか、おぉん?」

 「おっとうっかり。やはり悠里様の普段着はダンジョンに不似合いですね」

 「そっちじゃないと思うんだけどなぁ」


 俺もその辺歩いてそうな普段着にしか見えない格好だし香織と小夜なんて普通の服にしか見えない服装でスカートを履いている。って事は決め手はやっぱ免許なのか。

 そういえばエアリスは探検者免許無いもんな。でも偽装くらいならお手のものだと思うんだが。そもそも小夜の免許が偽造だからうまくすり抜けられる事はたった今実証済み。まぁそうしたとして免許持ちが四人なわけで、免許のない二人を護衛するには人数が足りない事に変わりはないんだけど。


 「はぁ〜。探検者三人で無免許三人連れて行くってどんだけ無謀なんですか! いいですかみなさん、ダンジョンはそんな甘い所じゃないんですよ!」


 うーん、仕事熱心だなぁ。でもたしかにはっきりと規定にあるわけじゃないが、無免許一人に対して三人の探索者ってのが一応通例にはなっている。だから職員としては止めないわけにはいかないだろう。実際ダンジョンに入るってのはこの職員さんのいう通り命がかかってもいるし。特級クリミナルやそれに類似、模倣した犯罪が目立っている現状なら尚更な。


 「あの、ちょっといいですか?」

 「あ゛? なんですか横から……っておっぱいでっけーな!?」


 女性の職員さんなんだが、ヒートアップしすぎて壊れてる気がする。そんな職員さんに対して香織は自分の探検者免許を見せる。


 「三浦……香織ぃ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る