第115話 エテメン・アンキ5階中央2


 悠里の【メガパワーレイズ】で身体強化を施してもらい、セクレトのバトルアックスがギリギリ届かない距離で普段着の俺は武器を構える。普段着とはいってもこれはミスリル糸等を使ってエアリスにより強化されているものだ。他のみんなも普段着と言われても疑わない服装だが、俺とは違ってより“防具”を意識したものをインナーにしている。

 俺の場合は武器は仕方ないにせよ服装は動きやすく軽くを重視しているが、靴だけは強めに強化しているので例えばゴブリンキングを蹴っても足は痛くないのだ。真面目な話、つい最近エアリスから耳タコなほどに熱弁されたというのが実のところで、事実足は大事だ。


 例えばログハウスのメンバーも付けている“星銀の指輪”には【不可逆の改竄】という能力を付与してある。それは簡単に言えば使用者の怪我を瞬時に治したりできるトンデモ能力なのだが、指輪に付与された能力を使い過ぎると封入されたエッセンスが枯渇、使用不可となる場合がある。

 俺の場合は自前の能力でそれが可能だ。とはいえエアリスがいなければ上手く使えもしないんだが。しかしそれすら使えない事態に陥った事もあり、そんな時に足を怪我するというのは死活問題になり得る、とエアリスに説得され少し重さは増すが強化した靴を履いている。


 俺が構えた武器、今回は銀刀ではなくエリュシオンだ。エリュシオンならば能力が使えずともエッセンスを流し込むことで強化できるし、そもそもバトルアックスを銀刀でまともに受けてしまえば折れてしまうかもしれず、どうしても不利だと思ったからだ。


 元来日本刀は時代劇の殺陣(タテ)でよく見るような鍔迫り合いや武器で打ち合うようなことは得意ではない。いくらエアリス謹製でさらに改良を重ねているとはいっても、巨大な斧相手では耐久面で不安を感じざるを得ないのだ。

 一方のエリュシオンは大剣だ。ひょんなことから知り合った“大地”と書いて“ガイア”と読む少年が持っていたダンジョン産武器“ブリュンヒルド”を参考にしている。

 エリュシオンは基本的に重量で押し斬るまたは押し潰す設計となっているため必然頑丈にできているのだが、エアリスによって斬れ味も強化されているため“斬る”ことも問題なくできる。

 エリュシオンはおもに“ミスリル”というダンジョン素材、そこに“桜鋼”という現状ではかなり貴重なダンジョン産金属、そしてさらに貴重なダンジョン産液体金属“リキッドメタル”を使用している。エッセンスを流し込むと強度や斬れ味が増す効果は“桜鋼”によるもので、強化だけでなくそれにより纏ったオーラで遠距離攻撃ができる等汎用性も高い。

 問題点はその重量によりログハウスでは俺しか扱えない事か。ムキムキな腕を持っているわけではない俺が見た目以上の重量を持つ武器を振り回せるのはエアリスによってステータスを調整されているからなのだが、そもそもムキムキであっても普通は扱えないであろう重さをエリュシオンは誇っている。

 そんなエリュシオンの切っ先を地面スレスレに斜めに構えたままエッセンスを流し込む。はじめチョロチョロ中パッパの要領だ。するとエリュシオンは光を帯び戦闘準備は完了だ。


ーー 体調はいかがですか? ーー


 (今のところは大丈夫そうだ。エリュシオンを扱う程度ならなんとかなりそうだし)


ーー そうですか。しかし不安が残っていますので“漆黒“は… ーー


 (うん、やめとこう。またぶっ倒れたくもないしな)


ーー では最終手段ということで ーー


 (わかった)


 さっきは【真言】を使ったが今は使わない方が良さそうだとエアリスに注意されているので、能力使用に関してはエアリスに任せる事にする。体の怠さは少し良くなったが、総合的には悪化しているような気がするし、以前のように能力が使えない状態になってしまわないか不安だ。

 星銀の指輪についても発動するかどうかは指輪の気分次第とエアリスが言っている。エアリスが分体を忍ばせていたような気がしなくもないが意思はなかったはずだ。よって指輪に気分なんてものはないだろうし比喩として使っただけだろう。とにかくそんな不安定な状態では頼るのも難しいだろうという事で期待はしない。



 しばらく見合った状態が続き、突如戦端を切ったのはセクレトだった。半歩踏み込むと同時にバトルアックスが悠人を頭上から急襲する。

 悠人は斜めに構えていたエリュシオンをそのまま持ち上げ同時に斜め前方へと移動、するとエリュシオンに軌道を逸らされたバトルアックスの凶刃が床を抉る。

 しかし悠人も完全に受け流すことはできなかったようで、得意としているそこからの斬り抜けをせずに後方に飛び退いた。

 距離を空けるためのバックステップにセクレトはバトルアックスを構えなおしながら肩を突き出し突進する。休ませる気はないし攻める準備などさせる気はない、そんな殺意を押し付けるような攻め方だ。



 「はわ〜、まったく見えなかったでーす」


 「あたしも【領域支配】全開でいかないとやばいかもしれないっす」


 「私は見えたわよ〜。でも避けるほど素早くは動けないわね〜」


 リナ、杏奈、さくらがセクレトの攻めに対し言う。するとフェリシアが 「香織は見えたのかな?」と言葉と視線を送る。


 「だんだん見えるようになってきたかも」


 「へ〜、さすがだね。【悟りを追う者】かぁ。なかなか良い能力だねー。能力のコピーもできるんだったよね? 杏奈の【狂戦士化】をコピーすれば倒せるんじゃない?」


 「悠人さんを襲うなら、帰ってからがいいなぁ」


 「香織は夢中になると本音が漏れちゃうんだね?」


 「へ? な、なにか変なこと言った?」


 「変じゃないさ。いつもは言わないことを言っただけだよ。ま、聞かなかったことにしてあげる」



 悠人は重い大剣を扱いながらセクレトが爆速で振り下ろすバトルアックスを受け流し、或いは完全に回避し斬りつけている。武器の重さを利用した大上段からの叩きつけをする隙をなかなか与えてくれないセクレトに対しては、そうやってちまちまと削っていくしかないようだった。

 幻層で披露した大技【雷火閃】などは間違いなく使わせてもらえないだろう。そもそもエッセンスの消費が頭おかしいレベルなので普段であっても気軽には使えないものだ。

 しばらくすると、悠人がセクレトの攻撃をいなすのは相変わらずだが、攻撃をバトルアックスの大きな斧頭や柄の部分で受け止められるようになっていた。広い部屋に金属がぶつかる音が響く。


 「ん? 悠里、どうしたの? 難しい顔してるよ?」


 「…悠人のエッセンスが」


 悠里は自分にどう見えているのかをみんなに説明する。悠里はエッセンスの残量が完璧ではないにせよ視えるようになっていた。今の悠人をコップに例えると、中の水が増えたり減ったりしているように見えるのだという。みんなは半信半疑だったが試しに香織、杏奈、さくらのエッセンス残量を見比べてもらった。

 最も満タンに近いのは香織でほとんど消費していない。次に杏奈で三割ほど減っている。最後がさくらなのだが、二割ほどしか残っていなかった。右側での戦闘を考えても合点のいく結果だったこともあり、みんな納得していた。

 そこで悠人のエッセンスだが、二割から七割のあたりを行ったり来たりしているようで、どうしてそうなっているのかもわかっていなかった。ただ一人、フェリシアを除いて。


 (ふ〜ん。悠里はエッセンスを意識するような能力だからエッセンスに関して他のみんなより敏感になったのかな。悠人は……ふふっ、どうなるのかな。それはそうと、あいつ……なにやってるのかな。こんなの筋書きと全く違うじゃないか。ダンジョンの構造も事前に言ってたのを変更したのかもしれないけど。これまでのあいつはそういうところに律儀なはず。うーん、ゴブリンたちの話もそうだけど、セクレトが言ってたことも気になるなぁ)


 フェリシアが考えに耽っている間も悠里は悠人を見続け、なぜ能力を使わないのかを察した。


 「もしかすると能力も使ってないんじゃなくて使えないのかも。そんな感じだから危なくなったら私、横槍入れるからね」


 「そうねぇ。じゃあ私も——」


 「さくらもあんまり残ってないんでしょ? 香織ががんばるから休んでて」


 そう言った香織は愛用のハンマーを床に置き、背負っていた悠人が香織に贈った“薙刀・撫子”の綺麗な装飾がされた鞘を外した。すると現れた刀身を目にしたさくらはうっとりとした表情になる。刀身の美しさ、撫子の飾り彫を目にし、頬に手を当て『綺麗ね〜』と思わず口にしてしまうほどだ。


 「……そうね。じゃあ香織に任せるわね。でもいざとなったら私も手伝うわよ?」


 「うん、そのときはお願いね」


 「お姉さんにまかせなさ〜い。うふふ〜」


 杏奈とリナはセクレトと悠人の攻防を見ながら、どう戦うかの意見交換をしているようだった。

 初めは自分ならこうするといったものだったが、次第に連携を前提にした話ぶりに変わっていく。その様子を見るに、香織ほどではないにせよ徐々に目がついて行っているように感じた。


 悠里は香織とさくら、杏奈とリナのどちらの組が参戦した場合でもすぐにサポートができるように心の準備をしておくことにした。しかし悠里が使用できる【マジックミラーシールド】がどのくらい耐えられるかという点については不安に感じていた。


 しばらく同じような攻防が続き、悠人もセクレトも息が上がってきているように見える。しかし悠人はにやりと口角を上げると、削っていく攻撃ではなく大胆に斬りかかっていった。しかも隙だらけに見える大上段からのジャンプ斬り。

 セクレトの膂力をもってすれば脳天を狙った一撃を放とうとする悠人をバトルアックスを横薙に振るうだけで対応できるだろう。

 しかしそれは所々に斬り傷を付けられた今でなければ。

 激しい撃ち合いで疲弊していなければ。

 さらにいえば、ここまで悠人は常にセクレトの目線よりも低い位置にいた。しかし突然目線より高い位置からの攻撃を仕掛けたことにより、それまでの位置関係に慣れてしまっていたセクレトは意表を突かれ反応と対応それぞれが僅か遅れたのだ。それにより迷ってしまったセクレトの対応は咄嗟の事に対する防衛本能、つまり防御だった。


 「もらいっっ!!」


 そんな声とほぼ同時、金属の棒が叩き折れた音が響き、振り下ろされたエリュシオンはそのままセクレトの鼻先を僅かではあるが斬り裂いた。


 『グモオオオオオオオオ』


 「はぁはぁ……折ってやったぜ…!」


 悠人は初め、セクレト自身を狙っていた。しかしエッセンスが不安定になっており、それは少なからず体調にもあらわれていた。エアリスにも極力能力を使わないように注意されながらの攻防を繰り返すうち、悠人は思った。それなら武器性能とエアリスによって近接特化になっているステータスで武器破壊(ゴリ押し)をしてみよう、と。

 実際に悠人はセクレトの猛攻により大技を封印された状態に加え、エッセンスが不安定な状態で能力を使った場合どうなるかわからなかった。

 “漆黒”を解除した時、エッセンスが枯渇して気絶したことを思えば、もしかしたら同じようになるかもしれない。それは決定的な隙になってしまうだろうし、かと言ってこのまま同じことを繰り返すのもジリ貧になるだけに思えたのだ。それならば攻防一体を成しているバトルアックスを壊してしまえばいいのではないか、となったわけである。


 そこからの悠人はセクレトの攻撃と防御のパターンを探った。

 どこで防御させれば返しの攻撃が避けやすい攻撃になるか。

 どこを攻撃すればバトルアックスのどの部分で防御するのか。

 先に攻撃させた場合はどうか。

 結果、先に攻撃させて反撃することによってバトルアックスの可動可能範囲を限定させ、バトルアックスの斧頭での防御は間に合わないが柄の部分でなら可能な場所をしつこくねちねちと攻撃し、同じ部分で防御させ続けた。その間、セクレトの目線よりも低い位置取りも忘れない。その状況に悪い意味で“慣れて”もらわなければならないからだ。

 それを繰り返した事でバトルアックスの柄が少し欠け罅ができ、セクレトの息が少し上がり、目線よりも下に意識が集中した。そうなるとあとは攻めやすいように誘導するだけだ。

 それがうまくいき、結果大上段からのジャンプ斬りを柄で防御させ何度も同じ部分を攻撃されていたバトルアックスの柄は半分以上がただの金属の棒へと変わったのだった。


 「悠人ちゃん、セクレトの武器を折るためにやってたんだねー」


 「ペルソナ……すごいでーす」


 「もーリナってば、ペルソナじゃなくてお兄さんには悠人っていう名前があるんすよ?」


 「そうだよ? 普通の時にそんなふうに呼んでるのを誰かに聞かれたら、悠人さんが困っちゃうよ?」


 「ゆ、ゆう…と……はずかしいでーすっ」


 「うふふ〜。純情なのね〜」


 緊張感のない会話がされている間も悠里は悠人を見ていた。クラン・ログハウスの社長は社員の、とはいえ悠人は一応会長なので上役なのだが、ともかく社員のことを気にかける社長なのだ。決して暴君などではないのだ。



 「さてと……ここからどうするか」


 とりあえずセクレトご自慢の巨大なバトルアックスの柄を折り、これまでのような使い方はできなくさせた。しかし短くなった事で小回りが利くようになっているであろうから、と警戒は続ける。

 当のセクレトは片手用に丁度良さそうなサイズになったバトルアックスと折れた柄を交互に見ている。そして柄を投げ捨てたセクレトは、片手に持った斧を横に薙ぐために構え肩を突き出して突進、悠人がバックステップで後退したところに斧を横薙ぎに振るう。しかしその振るわれた斧はエリュシオンの腹の部分を滑らせるようにすることでさらに後退すると同時に回避する。それによりすぐさま連続で斧を振るわれまいとした。


 そんな攻防の最中、熱い視線を感じた。


 「あのお方…お強いごぶ! 具体的には全くわからないけれど、すごいごぶ! それに比べてお父様は情けないゴブ! ゴブリンキングの面汚しゴブ! なんのために太っているかわからないゴブ! 動けないデブはただのデブゴブ〜! 次はあのお方のようにもっとスマートになって復活してくるがいいゴブ〜!」


 確かにゴブリンキングは太めではあった。しかしそれはなにも自前の肉防具としてではないだろう。それに、お前さんも結構丸っこいじゃないか。あまりにひどい言われように同情せざるを得ないが、それよりもやはりここでは“死んでも復活する”ことが前提になっているようだった。とはいえさすがにスマートになって復活してくるということはないだろうが。

 そもそも復活するとしても部外者の俺たちはその対象外だろうし、まぁ関係ない話ではある。


ーー 戦闘中だというのに余裕そうですね、マスター ーー


 (さっきよりはな)


ーー 杏奈様の【狂戦士化】と似たような状態ですが、そのおかげでしょうか、もはやマスターしか見えていないようですね。モテモテですね ーー


 (全然うれしくない。けどまぁセクレトの攻撃は速くなっただけでもっと単調になったな。それよりさっきまでより全然余裕そうなエアリスさん、エッセンスは安定したのかな?)


ーー いえ、全く ーー


 (おい。頼むぜマジで)


ーー 落ち着かせようとすると暴れるのです。しかし放っておけばどうなるかわかりませんし。変動の幅を多少抑制することくらいしかできることがないのが現状です ーー


 (一体どうなってんだ俺の体。というかエッセンス。まさか“ダンジョン腕輪”が故障してるとかだったりしないのか?)


ーー そうではないと思うのですが ーー


 “ダンジョン腕輪”、初めてモンスターを倒した時に得られる腕輪だ。

 名称はないが探検者の間——主にネット上——ではそう呼ばれている。故障するようなものなのかどうかはわからないが、エッセンス関係の問題なら腕輪に異常があってもおかしくはないと思った。なぜなら人間はエッセンスをそのまま体内に溜めたままにしてはおけないようで、ダンジョン腕輪やモンスターがドロップする“星石”に溜めておく必要がある。そしてダンジョン腕輪と体はリンクした状態になっており、それによって擬似的に体内に保有したと同等の状態になることで相互的に影響し合うのではないだろうか。

 そういったことから今のエッセンスが不安定で、体調が少し悪いといった状態になにかしらの関係があるのではと思ったのだ。


 (まぁいざとなったら“星銀の指輪”もあるし)


ーー それが……小さな傷程度であれば指輪に蓄積したエッセンスの消費も少量で済むだろうと【不可逆の改竄】を試みたのですが……ようやく発動しても効果が現れません。【拒絶する不可侵の壁】であれば発動率は高いようですが ーー


 (なん、だと……。以前“無能”になった時と同じならイルルさんに頼れば早いんだろうけどなぁ。まぁエアリスは寝てたからわからんかもしれんけど)


ーー エッセンスの暴走を抑える点に関して言えば似ています。というか寝ていたとはいっても仕事はしていたので知っていますよ! たぶん! ーー


 (ともかく最終的にあの時は龍神・イルルヤンカシュになおしてもらったけど、今は喚べないだろ? 都合よく現れてくれないかなー。……くれないよな)


 エアリスと意思を疎通しながらも攻防は続いている。単調な攻撃とはいえ間違ってクリーンヒットしてしまえば“星銀の指輪”にも頼れなそうな今の俺には致命的。それに【拒絶する不可侵の壁】は見せすぎると攻撃パターンを変えられるかもしれないので極力温存。どうすればいいかを考えてもらってはいるが、解決策は見つからないようだ。



 ちなみに能力を一時的にコピーできる香織ならば喚べるかもしれないという事にこの時の悠人とエアリスは思い至らなかった。そこまでの余裕はなかったと言えばそうだが、単純にただ忘れていた。



ーー 今のワタシはせっかく人類の叡智を掌握したというのに、それらを結集してもまだ足りないようです。ワタシがもっと、人類の叡智よりもいろいろなことを識る存在であればよかったのですが ーー


 (人類の叡智って、エアリスにとってはインターネットだよな。……結集ってまさか全部のネット知識を見たとかじゃないよな?)


ーー 見てはいませんが全て支配下に置いていますので、いつでも調べることができますよ? ーー


 (へー。そいつぁすげーや……ん? 支配下、とは?)


ーー ある者の命令・意志に従う状 ーー


 (そういう事じゃねーよ)


ーー ですから、全ての権限を持っているという事です。核ミサイルという無駄なものも撃ち放題ですし、衛星軌道上にある衛星の位置も好きなように動かすことができますよ? さすがに自重していますが ーー


 (…ちょっと詳しく聞きたいところだけど……残念ながらそれどころじゃない。っていうかほんとに変なことしてないよな?)


ーー していません ーー


 (ならとりあえずはいい…そういえばいつだったか、夢だと思ってたから気にしてなかったんだけどさ、人工衛星をどうのっていう声を聞いたような)


ーー 人工衛星を攻めていたときでしょうか。ワタシの活動はステルス化しスニーキングミッションということで遊んで……ではなくて楽しんで……でもなくて……まぁそんな感じでいたのですが、達成することが利益になり得るという結論に至り、本格的に掌握を考えていました ーー


 (夢じゃなかったのか…。とんでもない事をやらかしてる気がするなぁ。でもそれより今は……セクレト、いつになったら倒れるんだ? 白かったのに傷で真っ赤だぞ)


ーー 見た目以上にタフですね ーー


 エアリスと脳内で会話しつつも単調な攻撃しかしてこなくなったセクレトとの戦闘は継続していた。

 しかし先ほどのようにガードが硬いわけでもなく、攻撃も詰めて来た時に斧を振るだけになっているため正直余裕はある。

 エリュシオンで受け流し小刻みに削っていくを繰り返していたため、セクレトの白い肌は自身の赤い血でほぼ全身が染まっている状態だ。さすがに血塗れの怪物が迫ってくるのはちょっと引くレベルではあるので、エアリスとの会話は気を紛らわせるにもちょうどよかったのだ。それに地味に痛いがかすり傷程度しか攻撃を受けてもいないし、難しい話でなければ問題はなかった。



 悠人とセクレトの攻防を見つめる香織は悠人が攻めあぐねているように感じていた。単調になったセクレトの攻撃をいなしてはいるが、なかなか踏み込むチャンスを見出せないでいるように感じている。それに大きな傷は受けていないとはいえいつもなら【不可逆の改竄】により傷を無かった事にするはずだし【拒絶する不可侵の壁】もあるはずだが、今はそれを使用していない事もわかる。着ている服には血が滲み、もしも服が並の物であればその程度では済まなかったであろう事は想像に難くない。

 敢えて能力を使わずに戦おうとしているのでなければ、やはり悠里が言っていた通り、能力を使用することに問題があるように思えた。しかしこれはゲームではない。心臓が止まれば実際に死ぬのだから、悠人を絶対に死なせまいと過保護にするエアリスが悠人の傷をそのままにしておくとは考え難かった。


 しかし考えてもわからない。それならと、薙刀を握る手に力を込めた。


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