第112話 ガイアの冒険


 山里大地(ヤマザトガイア)、中学一年生! 今日は毎日の日課になったダンジョン探索に来てる。本当は近所の悠人兄ちゃんと一緒じゃないと行っちゃダメって言われてるんだけど……我慢なんてできないっ! それに悠人兄ちゃんから便利なアイテムももらってるしへーきへーき!

 今日はお母さんに、友達と少し遠くの公園に遊びに行くって言ってお弁当を作ってもらったからいっぱいがんばるぞ!

 ご近所さんの悠人兄ちゃんみたいに自分の家にダンジョンがあるわけじゃなくて、友達の家にダンジョンがあるんだ。小学校からの友達の家なんだけど、ダンジョンができてからもう誰も住んでいないんだよね。その友達からこっそり合鍵をもらってるから、実はいつでもダンジョンに行けたりする。でもお母さんをあまり心配させないようにって悠人兄ちゃんと約束したから安全第一を心がけてる。

 今日はオレ一人じゃなくて、そこの家の友達も一緒に行くことになってる。オレは先輩だから、連れて行ってあげるのさ!


 「あ、待った?」

 「ううん、今きたとこ」


 白い息を吐きながらオレを待ってたこの女の子が未来(みらい)って言って、この家の子なんだ。

 実は最近まで男だと思ってたんだよね。お母さんに聞いたらそういう子のことを“ぼーいっしゅ”って言うんだって。久しぶりに中学校で会った時に制服が女子のだったから、びっくりして叫んじゃったよ。恥ずかしかった。

 今は髪を伸ばしてるみたい。小学校の時から伸ばしてれば男だって勘違いしなくて済んだのになー。でも勘違いしたおかげで“大事な友達”になれたのかもしれないってちょっと思ったりする。


 「あっ、ガイア、お弁当持って来た?」

 「え? 持って来たよ?」

 「そ、そっか」

 「もしかして忘れて来たの?

 「ち、ちがっ」

 「しょうがないなぁ。おにぎりいっぱいあるからオレのをわけてやろう!」

 「もう! ちゃんと持って来たってば〜!」


 早速ダンジョンの中に入って腕輪に呼びかけると、15層で仲間になった白いネズミが現れる。ネズミっていってもすごく大きくて、オレたち二人が一緒に乗れるくらいの大きさなんだ。


 「ふぁぁぁっちゅ。おはよっちゅ〜」

 「わあ! かわいいっ! おっきい!」

 「ガイア、このロリっ娘はだれっちゅ?」

 「オレの友達! ダンジョン初心者だから乗せてやってよ!」

 「ミライです! よろしくお願いします!」

 「仕方ないっちゅね〜。ほらほら、あたちの背中、空いてるっちゅよ? なんちゅってー」」


 白ネズミは結構大きくて、ミライはオレと同じくらいの身長しかないからなかなか背中に登れないみたい。仕方ないから手を貸してあげたら「わっ! ガイア力持ち!」だって。オレは探検者だからね! 免許はまだ取れないから持ってないけど! だからほんとは来ちゃいけないんだけど……。


 「うぅ〜」

 「どうした? トイレ?」

 「ち、ちがうから! おっきな虫……」

 「ダンジョンだもんな〜」

 「えぇ〜……」

 「よし、これからみらいには、あの虫を倒してもらいます!」

 「えぇ……」

 「この剣持てる? オレが持ってる中で一番軽いやつだけど」

 「っ!! おもいっ! で、でもなんとか」

 「よーし、じゃあ白ネズミ、弱らせてきて!」

 「ちゅっちゅるっちゅ〜! ベシベシ!」

 「それじゃああのひっくり返ったダンゴムシをズバァってやって!」

 「ズバ…‥? うぅ〜…えいっ!」


 振るわれた剣、というよりもただ持ち上げて力を抜いただけのほぼ自然落下に近い攻撃で巨大ダンゴムシが黒いモヤに包まれる。するとミライの目の前に光る腕輪が浮いていた。


 「わぁ〜……綺麗」

 「それに触ると腕にくっつくよ!」

 「わっ、ほんとだ!」

 「これでみらいも探検者だね!」

 「うん! ガイア、お揃いだね! ……この腕輪って外せるの?」

 「外せないよ?」

 「そうなんだ……じゃあずっとお揃い!」

 「そうだなー!」

 「リア充うらやましいっちゅね〜」


 最初は嫌な顔をしてたけど、だんだんみらいも虫退治に慣れて来て「ていてい!」ってやってる。ふふん、探検者の顔になってきたんじゃないかな? そういえば忘れてたけど、みらいの“能力”ってなんだろう? 今度悠人兄ちゃんに見てもらおうかな。


 それからしばらく経ってお腹が空いてきた。みらいも同じだったみたい。階段のところで「お昼にしよう」って言ったらすっごい笑顔になった。

 白ネズミに辺りを警戒してもらってお昼ご飯だ。警戒っていっても強い敵、ボス級じゃなければ白ネズミがいるところには近付いてこないから安心安全。

 さてオレのは唐揚げとおにぎりがいっぱい、他にもおかずが入ってるけど、やっぱり唐揚げ最高だよな〜。みらいはりんごとか果物を多めに持って来てて、その場で器用に皮を剥いてた。上手だなってその様子を見てたら「恥ずかしいからそんなにみないでよ」だって。上手なんだから恥ずかしがる事ないのにな。

 お互いのを交換したりしながら食べてたら白ネズミが食べたそうに見てた。みらいが「白ネズミさんもリンゴ食べる?」ってきいてた。やさしいやつだなー。白ネズミはすごく嬉しそうに首、というか頭をブンブン縦に振ってた。


 「みらい好きっちゅ〜」

 「うふ、私も白ネズミさん好きだよ〜」

 「シャクシャク…ちゅ〜ん、実もいいけど皮もおいしいっちゅね〜。食感が好みっちゅからその剥いた皮はあたちにくれっちゅ」

 「どうぞっ!」

 「ありがとっちゅ〜」


 すっかり仲良しになったみたいだ。そういえばミライは、小学校の頃は“僕”って言ってたんだよな。それもあってずっと男だと思ってたんだけど、中学校になったから自分のこと“私”になったのかな。オレも変えた方がいいのかなー。その方がオトナに見られるかなー。でも悠人兄ちゃんも“俺”って言ってるしなー。そういえば悠人兄ちゃんってときどき大人じゃないみたいに見える……やっぱり学校の先生みたいに“私”とかにした方がいい?


 「ガイアはそのままがいいよ?」


 このままでいいのか〜。でもオレ、身長も低いし背の順で並ぶと一番前なんだよな。子供っぽく見られるし。


 「まだまだこれから伸びるよ。ガイアは男の子だもん」


 それもそっかー。悠人兄ちゃんよりもでかくなれるかな? そしたら悠人兄ちゃんと肩を並べて強敵と戦う、なんてできたりして。ぬふふ、絶対かっこいい。そういえばオレは男だけどミライは女なんだよな。じゃあミライも香織姉ちゃんみたいに……なるのかなぁ?


 「ガイアのばーかっ」


 なんか急に叩かれたし。っていうかあれ? オレ思ってたことが声に出てたかな? ま、いっか。気をつけよっと。


 次々と出てくる大きな虫を撃退しつつ5階へとやってきた。悠人兄ちゃんにもらった地図があるから迷わないし、移動は白ネズミのおかげで楽チンだ。


 「あっ! ミライ! あれ見て!」

 「ふえぇ……ドロドロしてるよ〜」

 「スライムっていうんだ。悠人兄ちゃんが5階のボスって言ってたよ!」


 オレはブリュンヒルドでスライムのねばねばをどんどん削る。削る。削る。

 とどめをミライにやらせてスライム退治完了! どうしてわざわざミライに倒させるかって、ゲームでは攻撃しないと経験値が入らないって事があるから。悠人兄ちゃんは、ゲームの知識は役に立つって言ってたから、オレが知ってるゲームの事をしてみるといいかも、って思っただけなんだけどね。でもダンジョンはゲーム知識が役に立つところだけど、ゲームと違って“やられたら本当に死ぬ”んだ。お父さんも帰ってこない。結局見つけられていない。


 暗いことを考えちゃったのが顔に出てたかな、ミライが頭を撫でてきた。もう……子供扱いするなよな。

 ミライがスライムにとどめを刺すとそこには……


 「あっ、武器ドロップだ! あー、短剣かー」

 「ふえぇ……スライムでどろどろだよ〜。でも綺麗な短剣だねー。果物剥くのにもちょうど良さそうな大きさだし」

 「ミライにあげるよ。オレは剣があるから!」

 「いいの? 予備に持ってなくていいの?」

 「いいからいいから」

 「じゃあもらうね? ありがとガイア!」


 みらいのダンジョン腕輪に黒いもやもやを吸収させるとドロップした短剣に付いてたネバネバは綺麗になくなった。何度か潜ってる間に手に入れてた“小さな革袋”をみらいに渡してそこに武器を入れるように言うと、武器より小さな革袋に武器が吸い込まれていったのを見たミライはすごく驚いてたけど、喜んでくれた。オレはもっと大きなのを持ってるから、また手に入ったら悠人兄ちゃんにあげようかな? でも悠人兄ちゃんも同じようなのを持ってたからいらないかな。


 それから少しの間狩りをした。みらいは短剣が使いやすいみたいだからオレが貸した剣はもういらないな。オレもその剣はもういらないしどうしよう。“星銀の指輪”で21層のログハウスに行って悠人兄ちゃんに改造してもらおうかな?


 「ガイアは21層? に行った事あるの?」

 「ん? あるよ!」

 「そうなんだ〜。そこにログハウスがあるんだね、行ってみたいなぁ〜」


 また声に出ちゃってたかな。あんまり人に言っちゃいけない事だから気をつけないと。でもミライならいいかな? そんな事を考えていると「秘密にするね」ってミライが言った。ミライはオレがここに来てる事を家族にも言わないでいてくれてるし、きっと誰にも言わないはず。

 それから悠人兄ちゃんの事とかログハウスのお姉ちゃんたちの事とかを話してたらミライが慌て始めた。


 「ね、ねえガイア、もうこんな時間!」

 「ほんとだ。今日はこのくらいにして帰ろっか」


 時計を見るともう午後四時を回っていた。今日はもう帰ろうってなったけど、歩いて帰るわけじゃなくて、悠人兄ちゃんからもらった“転移珠”がある。一回しか使えないけど、十個もらったし大丈夫! ひとつをミライに渡しダンジョンの入り口へと転移する。これで今日の冒険はおわり。……終わっちゃったなぁ。


 「また連れてきてくれる?」

 「お、おう! まかせとけっ!」


 ミライを新しい家に送って行った。途中探検者っぽい人たちとすれ違ったりして、遠目にもそれっぽい人が結構いる。もうすぐミライの家に着く頃になって、そこで手を繋いできた。暗かったから顔がよく見えなかったけど、具合が悪そうに思えたから恥ずかしいのは我慢だ。もしかすると連れ回しちゃったから疲れちゃったのかも。ごめんな。

 ミライを送り届けたオレは、今日の晩ご飯は何かなって考えながら家に帰った。



 それから数日後、ミライは忽然と姿を消した。

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