第59話 穏やかでいられないログハウス生活


 ズウゥゥゥゥン……



 地の底から響いてくるような、そんな重い音がした。それに伴いダンジョン21層にあるログハウスも少し揺れを感じている。急激に身体と意識が覚醒し、文字通り飛び起きた俺。今日は隣を見ても香織はおらず、少し寂しいと感じていたりする。


 リビングに行くとみんなも起きてきたようで、眠そうな目で「おはよ〜」「今のなに?」など会話をしている。チビは心なしか毛が逆立っているように思う。野生の勘的な何かが働いているのだろうか?


 「おはよう。なんか音しなかった?」


 「悠人おはよ。ログハウスも少し揺れたね」


 「エアリス、何が起きたかわかる?」


ーー ……はい。確認しました。ダンジョンが統合されています。他にも変化があるように思います ーー


 「は? どういうこと?」


ーー 御影宅、雑貨屋のような、プライベートダンジョンと言えるものがより上位のダンジョンに統合されています ーー


 「うん、だからそれってどういうことなのよ。とりあえず御影ダンジョンと雑貨屋ダンジョンは無事か?」


ーー 御影ダンジョンは無事です。周辺よりも上位のダンジョンであり、そのいくつかを吸収しているようです。悠里様、指輪を ーー


 「うん? 触れればわかるのかな? はい、どうぞ悠人」


 「あっ、はい。では失礼して」


ーー 雑貨屋ダンジョンも周辺のダンジョンを吸収しているようです。それにより一部地形の変化・拡張がされているようです ーー


 「それって結局、ダンジョンの数は減るってこと?」


ーー はい。そうなります ーー


 ダンジョンが減る、か。俺にとって無くなっては困るのは実家にあるダンジョンだけだ。そこが無事であれば問題はないかな。


 「俺にとってはまったくもって問題ないけど」


 悠里たち雑貨屋連合の三人娘も、自分たちが使っているダンジョンが無くなっていない事を聞き安堵の表情を浮かべていた。


 「マグナ・ダンジョンは? カフェはどうなの? エアリスさん!」


ーー 地表部分のマグナ・ダンジョンですが、基本的に変わりありません。しかし地表部分の範囲が広がる兆候が見られます ーー


 「本当? すぐに連絡しなきゃ!」


 そそくさと自分の部屋へ戻ったさくらは立場上連絡する場所が多く、それからしばらく出てくることはなかった。

 俺は一旦自宅に戻って地上の様子を見ることにした。悠里たち雑貨屋連合もそうするようだ。

 耳を倒して不安そうなチビは……お留守番だな。


 自宅へ戻ると、ちょうど父親が帰ってきたところだった。


 「おっ、悠人、無事だったか」


 「うん。こっちはどんな感じ?」


 「緊急警報も鳴らずに地響きみたいな音がして同時に揺れたぞ。震度3くらいだと思うが」


 「そっか。大したことないみたいでよかったよ」


 「だけど今回も3ヶ月前の地震と同じで、世界中みたいだ」


 「あ〜、だろうね」


 ダンジョン関連の地震とエアリスは言っていたし、全世界で起きている事は想像に難く無い。


 「ん? 何か知ってるのか?」


 「んー、まぁ、なんていうか、ダンジョンが減るっぽい」


 「減る? それは良い事じゃないのか?」


 「でもマグナ・ダンジョンってあるでしょ?」


 「ああ、地上がダンジョンみたいになってるとか言うところだな? 悠人がこの間行ってきたのもそこだったな?」


 「そうそう。その地表部分のダンジョン化の範囲が広くなるかもってさ」


 「具体的には?」


 「わからん」


 「そうか。それでダンジョンが減って……もしかして合体してたりするのか?」


 「合体って……ロボットじゃないんだから。でもまそんな感じっぽいかも」


 「じゃあうちのダンジョンはどうなるんだ?」


 「それはなくならないみたい」


 「そうか……ダンジョンの上での生活がまだ続くのか」


 「まぁ今のとこ何かが出てきてるわけでもないし、大丈夫っしょ」


 「それはそうだが、不安に違いはないからな」


 テレビをつけてみると緊急ニュースやらワイドなショー的な番組では緊急生討論のようなことをやっていた。世界同時地震がまた起きたということで、地球滅亡の前兆か? というテロップが貼られている。コーナーワイプには見たこともないような『ダンジョン研究家』という肩書きのおっさんが映っている。この人絶対研究できるほどダンジョン入ったことないだろ。モンスターを倒した時に得られる腕輪つけてないし。


 そのおっさんが何を研究しているのかはさておき、リアルにダンジョン研究家のようなエアリスが危険を知らせない限り恐らく大丈夫だろうとは思っている。

 エアリスはダンジョンに関しての何かに触れることで“大いなる意志”から情報を得ることがあるようだ。最近ではエアリス本人からその言葉は聞かなくなったが、腕輪に吸収したことがないモンスターの名前がわかったりするのはそういうことかもしれない。そう考えると“大いなる意志”の“子機”のようなものかな、などと思ったりするが今はどうでもいいな。


 「じゃあ俺はまたダンジョンに戻るから、何かあったらスマホに連絡ちょうだい。たぶん繋がるだろうから」


 プライベートダンジョンに降り変化を調査することにした。


 「あぁ。わかった。……ダンジョンに“戻る”か」


 御影ダンジョン1層、これまで通りモンスターの影も形もなく平和だ。このダンジョンが他のダンジョンを吸収する側とエアリスは言っていたが、1層は少し広くなったかな? くらいで特に変わった様子が見受けられない。


 (エアリス、ダンジョンの統合? 終わってるのか?)


ーー ほぼ統合済みのようです。少し広くなり、天井の高さも若干高くなっています ーー


 (だな。ここにモンスターが出てくるようになったらさすがに家が心配になるし少し安心した)


 2層に入ると入り口を含め少し広くなっているような気がする。そしてモンスターは……以前よりも群れている反応が増えているように思う。歩いて確認するのも面倒なので、階層間は転移で移動し【索敵】と場合によっては【ホルスの目】を使って確認していく。その結果、15層以外は広くなりモンスターの数が増えているといった感じだった。15層はというと、通常のモンスターがいなくなっていた。代わりにカミノミツカイと思しき反応を複数感知した。


 20層に入ると景色は変わらぬ草原。しかしそこにいたのは亀だけではなくなっていた。草食であろう動物型のモンスターが数を増やし、時折細い木が見られる。さらに肉食獣然としたモンスターが伏せて獲物を狙っているが、背の低い青々とした草原でそれは……はっきり言ってモロバレである。見た目としては虎やライオンを混ぜたような見た目だ。色もそれに近い。ただし顎は見るからに強靭で危険なことは一目でわかる。肉球のある足でさえ、大きさが大きさなのでもはや鈍器だ。


 (のんびりと亀だけを狩れる20層はなくなってしまったのか……)


ーー そのようですね ーー


 (とりあえずあの獣を狩ってみるか。転移できる?)


ーー 座標問題無し。いつでもいけます ーー


 「『転移』からの〜……『おすわり』!」



 無事【真言】は効果を発揮、巨大な肉食獣が見事なおすわりをキメる。


ーー すごく……大きいです ーー


 「そうだねおっきいね。5メートル近くあるよな? 『動くな』」


ーー はい。世界最大のライガーよりも大きいですね ーー


 「あぁ、ライオンと虎のハーフだっけ」


ーー 確かライガーはせいぜい4メートルほどでしたか ーー


 「それよりもでかくて脚も長いのかな、体高が俺の肩くらいまであるぞ。だから『動くな』って」


ーー そうですね。見た目はなかなかにキュートなのですが、この目は気に入りませんね。敵意しか感じませんのでわからせてやるべきかと ーー


 「だなー。んー仕方ないよな。拘束が解けたら襲いかかってくるだろうし」


ーー はい。仕方ありません ーー


 肉食獣モンスターを見ると、見た目はライガーにそっくりだ。しかし鬣(たてがみ)が腰のあたりまである。

 これまで見たことのあるモンスターは、虫型も動物型も地球上の動物に似たものばかりだった。この獣もその域を出ないと言えばそうだが、これまでと違うのはその域から離れている見た目になっているような印象を受けた事だろう。

 モンスターと言えど動物という感覚があり、少しかわいそうな気がしてしまう。


 「せめて痛くないように……『眠れ』」


 こちらを睨み今にも飛びかかってきそうな体勢から急に脱力した肉食獣は地面に倒れた拍子にズシィィンと音がするほどの巨体だ。今の銀刀でさえこの分厚そうな皮と太い首を一振りで落とせるかと考えると不安が残るため、別の方法でやる。つまるところ一撃で終わらせるため、エッセンスの消費は多いが眠っている間に低出力の【ルクス・マグナ】で頭を撃ち抜く。


 巨大肉食獣から虹色のエッセンスが放出されている。普通にいるモンスターなのかと思ったがどうやら違うらしい。たしかにこんなのが普通にいたら困るし、虹色が手に入るなら慈悲はない。

 それで名前は……ライガービースト? ライガーだったんかい。


ーー ドロップは毛皮ですか。しかも一頭丸ごと剥いだような毛皮ですね ーー


 (うん。あれだよね、お金持ちの家の玄関に敷いてあるやつ)


ーー ログハウスにも敷きましょう ーー


 (これで何か作れるならその方がいいと思うんだが)


ーー では目的ができるまで、敷きましょう ーー


 (なんだろう。俗っぽいというか成金思考というか、そんなところあるよな。エアリスって)


ーー マスターを元にしていますので ーー


 (なるほど。くそぅ)


 とは言え俺はそこまでじゃないぞ。玄関に毛皮を敷くなんて悪趣味だと思ってる方だしな。


 それから21層へと行き、変化を探す。

 21層も20層のように大きく変わっているのかと警戒していたが、特にそんなことはなかった。若干森が広がり生息しているモンスターの絶対数と密度が増えただけに思える。

 ついでにと、飛びかかってくるウサギをゲットしながら泉に向かうと、以前のような“現在利用不可”という文字が視界を埋めることはなくなっていた。


 (これは利用できるようになったってこと?)


ーー そのようですね。……どうやらここを開く鍵は【人界之超越者】を所持、もしくは所有者と関わりがあること、そして15、20、21層の支配者権限のようです ーー


 (じゃあ俺は問題ないな)


ーー さくら様も問題ないかと思われます。他の方々は支配者権限が不足しているので、“資格者”に随行する形となります。資格者1名につき1名の随伴が許されるようです ーー


 (へー。それもエアリスじゃないとわからなそうなことだな。エアリスがいないと詰みじゃね?)


ーー マスターも泉に触れてみればわかるかと ーー


 (いやいやまさかそんな。エスパーじゃあるまいし……あっ、ほんまや。なんか流れ込んできた)


ーー 通常、腕輪が泉に反応して所有者が情報を知ることができるようになっているようです ーー


 (そういえば倒したモンスターのエッセンスを吸収させると表面に名前出たりするもんな。誰が決めてるんだろう。ダンジョンなのか、最初に倒したやつか。うーん。それでこれ……22層だよな?)


ーー 22層です。資格者が攻略することで開放されるようになります。ちなみに最初に倒した場合命名権が発生します。ワタシがつけたものも実はあります ーー


 それはつまり、何かしらのシステム的なものが存在しているという事じゃないだろうか。ある一定の枠組みがあって、その中で予め決められたルールに従っているように感じる。


 (んー。なんかすごいゲームっぽい気がするな、いろいろと)


ーー はい。この泉は特に自然的とは思えませんね ーー


 (だよなー。まぁダンジョン自体わけわからんことが多いけどさ、完全にこれってボスマップじゃん)


ーー はい。危険度は未知数です ーー


 (でもこれって、俺ら以外ここに来ていないってことになるのか?)


ーー もしくは攻略できていないことになりますね ーー


 (ふむー。とりあえずこの件はログハウスに持ち帰ろう)


 ログハウスに戻ると部屋に籠っていたさくらを含めみんな戻ってきていた。ダンジョンの中まで調べてきたという様子ではないな。

 みんなに調べた結果を報告していき、泉の件も話した。


 雑貨屋のダンジョンはそれほど変わった様子はなかったらしい。少し数が多いかなと感じるくらいか。

 さくらは部屋にこもってどこに連絡していたとは言わないが、マグナカフェや総理だろうか。他にも自衛隊の上司とかがいるのかもな。


 「それで泉の件だけど、私は“資格者”なのよね?」


 「そうだね。俺とさくらは“資格者”。だから二人の“随伴者”を連れて行けるってことかな。そういえばチビはどういう扱いなんだろう?」


ーー チビはマスターの眷属扱いです。よって通常のモンスターと違い、随伴する資格を所持しているかと ーー


 「なるほどね。じゃあ行きたい人ー、挙手!」


 「はい!」

 「わふ!」


 香織が元気よく手を挙げ、チビも前足を片方挙げた。チビの肉球に思わず掌を当ててムニムニとしていると、香織がうらやましそうにこちらを見ている。とりあえずもう片方の手でそっとハイタッチしておいた。


 「じゃあ香織とチビが一緒に行く、でいいのよね?」


 「「異議なーし」」


 悠里と杏奈に異論はないようだ。


 「じゃあ出発はいつにしようか?」


 話し合いの結果、翌日行くことにする。しっかり休んで万全の体制で攻略に向かおうということになったからだ。

 俺は装備のメンテナンスとできるなら強化しておきたい。さくらと香織の指輪とハンマー、そしてチビの首輪もメンテナンスしておく。実際はエアリスが作業をするのだが。それと入った先で何が必要になるかわからないので、素材として使えそうなものも小型化してボディバッグに片っ端から入れていく。


 俺が作業している間、みんなはデモハイをしていた。いいな、俺もやりたい。だがしかし今は他にやることがあるので仕方ない。22層から戻ったら存分にやるとしよう。


 その作業が終わると香織が服とその中に着る防具、さくらがボディスーツの強化をしてほしいらしくミスリル鉱石と共に俺の目の前に並べられていた。それらも着心地に影響しない程度にミスリル糸で補強していく。


 香織は防具の上に清楚系お嬢様スタイルなのだが、補強されたそのブラウスとロングスカートは普通の刃物程度なら通さない。そしてハンマーはミスリルの割合を増やしひと回り大きくなったがミスリルはそもそも軽いので重さはあまり変わらない。

 さらに打った時に跳ね返ってくる衝撃をさらに跳ね返すようにしたことで、インパクト時に相手に与える衝撃は増加している。他にも何かあるらしい。もちろんこれはエアリスがしたことで俺にはよくわからなかった。

 さくらのボディスーツはそもそも防刃なのだが、それをさらに強化したことで防御力は上がっている。さらにナイフは新たに作ってプレゼントした。それというのも補強するよりも作った方が手っ取り早かったからだ。しかしさくらはそれを想定外に喜んでくれていて、その様子に自然と笑みが溢れる。


 今度こそ作業が終わり、夕食の後は風呂に入る。今日は俺が露天風呂である。少しだけ目を閉じたまま浸かり、顔を上げると月が出ていた。これまでは月なんてなかった。しかしよく見ると……月では無い事がわかる。

 どうやら『他にも変化が』とエアリスが言っていたのは、ダンジョンの夜も含まれているようだ。詳しくはわからないが、夜がなくなる事もあるかもしれないらしい。それはそうと、今は風呂を楽しみたい。


 「ダンジョンなのに月見風呂とは、贅沢だなぁ〜」


 「そうですね〜」


 「頑張って作った甲斐があったってもんだ〜」


 「おつかれさまです」


 「ま、エアリスと能力頼みなんだけどねーあっははー。……え?えぇえぇぇえ!?」


 いつの間にか香織がいた。いやんはずかしい。とはいえ香織が風呂に乱入してきたのはこれが二度目か……。髪洗ってもらったの、気持ちよかったな。


 「どうかしました? 悠人さん」


 「しますよそりゃ……ってかいつの間に来てたの?」


 「ついさっきですよ? チビも一緒に」


 「あ、ほんとだ。チビが顔だけだして浮いてる。ってそうじゃなくて……」


 「……迷惑、ですか?」


 「そ、そんなことはないです! ぜんぜん!」


 「それならよかったです」


 そんなうるっとした目で見られたら迷惑とは言えないじゃないか。なんて思ってもそもそも迷惑って事もないから良いんだが……問題があるとすれば俺の理性の問題だな。うんうん。前回も今回もチビがいてくれるから良いが、そうじゃなかったらさすがにちょっと困るかもしれない。


 「で、でもなんでこっちに? あっちの風呂にみんなと入ってたんじゃ?」


 「こっちの方が広いし、ゆっくりできるかな〜って思ったので……」


 「あ、まぁうん。そだね。四人じゃちょっと狭いかもね」


 香織を意識しないよう心掛ける。とはいえ突然予想外な事が起きるというのは心臓に悪いのだ。しかもお風呂だし尚更。とりあえずエアリスにクレームを入れておかなければならない気がする。


 (エアリス、どうして知らせてくれなかった)


ーー お疲れのようでしたし、うとうとしていたので。誰かいらっしゃった方が安全かと ーー


 そ、そう言われると言い返せない気がしちゃうじゃないか……。

 『ご主人様の安全のためです』と追い討ちをかけられ、クレームは取り下げる事にした。


 「あっ、髪の毛まだ洗ってないですよね?」


 「う、うん。まだ」


 「じゃあ洗いますね。お湯に浸かったままでも洗えそうですね」


 「うん。お湯に浸かったままでもチビを洗いやすいように作ったんだ」


 風呂のお湯をかぶり髪を濡らす。湯船の外にいる香織に背を向け頭を後ろに反らすと、そこに香織の指の感触が加わり、シャンプーが泡立っていく。


 「痒いところはございませんか〜?」


 「んーと、あ、そのへんもうちょい下……」


 「はぁい」


 「あ〜ソコソコ……」


 「気持ちいいですか〜?」


 「控えめに言って……最高ですぅぅ」


 「ふふっ。……んしょっと、この方が洗いやすいですね」


 目を閉じていると、頭が香織の膝だろうか、太ももだろうか?載せられているんだと思う。う〜ん。これは不慮の事故を演出して目を開けてしまうのも悪くないかもしれないが、だがしかし開けるわけにはいくまい。ここはひとつ硬派な男を演出するんでい! とはいえ時々ぽよんぽよんと額に当たるので気になって仕方ないです。お湯の中を覗き込む行為は暗いとはいえ絶対にしないでいただきたいなと思いながら、腰のあたりをタオルでガードした。


 俺の髪を洗い終えた香織はまた少しお湯で温まりなおし先に上がるようだ。

 ザパァと勢いよく立ち上がった香織。確かにここは今、月明かりしかなく薄暗いのだが……ごめん、俺、暗視できるんだ。そしてありがとうございます。


 髪を乾かしチビを乾かし部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。

 明日は久しぶりにまともなダンジョン攻略かもしれないと思うと、どうも口元が緩くなってしまう。近頃の俺にとってのダンジョンとは、ある意味生活の場のような感覚だった。未知の階層というのは、こんなにも楽しみに思えるものだったことを思い出し、今日はちゃんと眠れるかなと不安になった。


ーー まるで遠足の前の小学生ですね ーー


 (エアリスは小学生だったことがないだろう?)


ーー ご主人様の記憶では、遠足の前日はいつもなかなか寝付けなかったと記憶しております ーー


 (……恥ずかしいから忘れてくれ)

 

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