第25話 夜の座談会にて1


 「私にもあんなことできるかな!? 最後のシュバッっていうの!」


 そっちか、と心の中でツッコミを入れつつダメ元で店長の能力について聞いてみる。今なら酔いも相まってポロリしてくれるかもしれないし。


 「どうなんでしょう? できるかどうかは店長さんの能力次第じゃないでしょうか? どういう能力なんです?」


 「私のですかぁ〜? う〜ん。本当は秘匿案件なんですけどね? 悠人君には特別に教えちゃいますよ〜」


 すると店長は立ち上がり目を閉じ、数秒ほど集中したかと思うと目を見開いた。


 『おいで! リニアスナイパー!』


 その言葉が発せられ両手をパンッと合わせたかと思うとゆっくりと離していく。店長の手元は電撃が迸っているかのように輝き、離れていく手の間からその全貌が徐々に明らかになっていく。

 光が収まると、手には先ほどのモンスターの襲撃の際に使っていた超大型スナイパーライフルが握られていた。


 「どうです? 武器を創ることができるんです!」


 でで〜ん! という効果音が付きそうなくらいのドヤ顔である。だが考えてもみれば、これはイメージしたものを無から創り出せるということになる……例えそれが現実に存在しない武器であっても。俺の銀刀みたいに材料から作るのと違ってエッセンスをどの程度消費するのか気になるところではあるな。

 それにしてもこんなものを度々創っていてはエネルギー切れで使えなくなってしまうのではないだろうか。


ーー なるほど。武器を創り出す能力ですか。あの武器を腕輪に再吸収・還元することでエッセンスの消費は大幅に軽減されることでしょう。マスターの場合は物質化状態を維持し続けるためにはエッセンスの持続的な消費、もしくは素材が必要になるので基本的には再吸収ができません。それにしても……あんな武器は検索しても見つかりません ーー


 (エッセンスに分解して再吸収できるとかそういう感じか。モンスターから吸収するのと同じようなものか? そうだとすればあれもほっとくと消えるのかもしれないな。それはいいとして、存在しない武器?)


ーー はい。少なくとも人類の叡智、インターネットにはありません。似ているものもありますが、漫画やゲームの作中に出てくるものです ーー


 なるほど。さらにポロリしてくれることを期待して聞いてみよう。


 「すごいですね。ところで店長さん、おいで! っていうのは何か意味があるんですか? それと、もしかしてその武器って、自分で設計しました?」


 「ッ!!! わ、わかるんですか!?」


 「いえ、単なる当てずっぽうです。そんな武器、ナントカゲリオンでしかみたことありませんから」


 「同志……」


 「え?」


 「同志ですね! 日本中の電力を1射に込めて菱形ロボットを貫通するところなんてもうかっこよくて! そして最後の『高笑い、すればいいと思うよ』とかほんとうに‥‥」


 「は、はぁ、そうですか。ところでリニアって、レールガンとかそういう感じですか?」


 「そうです! 本来は趣味でアンチマテリアルライフルの設計図を独自に、割と自己流に適当に作っていたんです。ですが実際に自分が使ったとしたらと想像すると、反動で大変なことになる未来しか見えなかったんですよ。そこで反動をどうするかですが……最近は大災害の影響で開発の進行が中断しているらしいリニア新幹線が、災害前は度々ニュースで流れてましたよね? それでレールガン、電磁砲を再現できるのでは、と思ったわけです。火薬で撃ち出すよりは反動がないかも、と思って。」


 「それで設計したらできちゃった、と?」


 「まさかできるとは……期待はしてましたけどね? ここまでの小型になると夢の設計図ですからね。ですが実際にできちゃいました。成功していたのがわかったのはダンジョンができてたまたまモンスターを倒して腕輪を手に入れてからですけどね。あっ、ちなみにおいでっていうのは、昔からじっくり設計してきたので愛着というか、そういうものがあるんですよね。もうペットです。ペットということは家族のようなものです!」


 うーん、マッハ7とか出ちゃいそうな対物ライフルがペットねぇ。あぶない人だったらどうしよう。あ、でもこれでも自衛官なんだし大丈夫か、きっと。


 「そうなんですか。でもどうやって自分の能力に気付いたんですか? 説明書も攻略本もない不親切設計なのに」


 「それはですね…。軍曹に聞いたかもしれませんが、この隊のみなさんをマグナ・ダンジョンに斥候として送り込むという話が出たのをなんとか止めることはできたんです」


 「あっ、それ気になってたんですよ。どうやって止めたんです?」


 「ん〜? オハナシ、しただけですよ? うふふ」


 うふふと笑っているがなんというかこう…圧を感じる。それについて詳しく聞かない方が良さそうだ。


 「な、なるほど。続きをお願いします」


 「止めることはできたんですが、地上に駐留する部隊の一つにすることだけは譲ってもらえずに、それならと言うことでカフェを出させてもらうことと、支援は最大限にしてもらうことを条件に取り付けました。そして派遣された最初の日、普通とは違った大きな熊が現れました」


 「大きな熊? もしかして赤いやつですか?名前は…レッドビースト」


 店長は目を丸くして首肯する。マグナダンジョンと呼ばれるこの地帯には上位個体もいるということか。


 「悠人君も見たことが?」


 「はい。一度だけですが」


 「もちろん倒したんですよね?」


 「はい。他の熊よりは強かった印象はあります」


 とは言ってもあくまで他よりは、だ。俺にとっては一閃で首を斬り落とせないだけで、例え【真言】を使わなくとも苦労する相手ではなかった。あの爪で引っ掻かれたりすれば話は別だろうが、当たらなければどうということはないしな。


 「そう、ですか。私たちにとってはもっと強大な相手に感じましたよ。装甲車は転がされるし、自衛隊の武装で熊が倒れないなんて想像してませんでしたし。グリズリー10頭分くらい強いですよあれ。そのときに、あの設計図の銃があればと思ったんです。そうすればきっとこんな熊なんかには負けないと。その時です。創れる、と感じたのは」


 「あっ、わかりますそれ。私も最初はなんだか『できる』気がしたので」


 悠里の同意に笑みを浮かべ『同志〜』などと言い、続ける。


 「そして私はリニアスナイパーを手に入れました。設計図通りの。その代償か、その時使っていた銃はなくなりましたけどね。ですが、レッドビーストも処理し、隊員は無事、装甲車等の装備や備品も、約束通りすぐに支給されて、カフェもお金だけ出してもらってあとはこちらで手配したおかげで短い工期で完成しました。そして毎日見回りをしたり、数匹単位の群れをスナイピングしながら今に至ります」


 「設計だけしてそれをいきなり使える状態にっていうのがびっくりですね。ところで銃の素材が何でできているか、知っていますか?」


 「そういえば詳しくは知りませんね」


ーー おそらくその時使っていた銃は店長の足りない知識の穴埋めとして素材に利用されたものかと。本人は『創り出せる能力』と言っていますが、材料があればそれを利用する事も可能な錬金術や錬成術といった方が正しいかもしれません。非常に不本意ではありますが、店長の腕輪に触れていただけますか? ーー


 どうして不本意なのかはわからないが、触れることでエアリスは覗き見ることができる。そうすることで他にも何か知れると思った俺に迷いはなかった。 


 「店長さん、腕輪を見せてもらってもいいですか?」


 「はい。いいですけど」


 差し出された右手を取り、手首に巻かれた腕輪に触れる。それが何を意味するか知っている悠里と香織は興味深げだ。



西野さくら(ニシノサクラ)


STR 32

DEX 87

AGI 49

INT 92

MND 140

VIT 53

LUC 12


能力:万物形成 (ユニーク)

【形成リスト】

リニアスナイパーライフル

リニアスナイパーマガジン



 エアリスのハッキング、もとい鑑定結果を誰にも見られないように適当な紙に書き出す。さすがにいきなりステータスや能力を明かすのはマナー違反に思えたからだ。考えてもみて欲しい、自分のスリーサイズやいろんなサイズを勝手に公開された場合のことを。そうなると俺がしていることはなんなんだ、と言われそうだが、そこは敢えて知らないふりをする。あくまで善意の鑑定士だ。そう、善意の。


 「店長さん、すみません。無断でいろいろ見せてもらいました。これがその鑑定結果です」


 「へ? 鑑定? 異世界転生ものでは必須のチートですよね? というか一体いくつの異能力を……」


 ステータスの書かれた紙を渡すと店長は言いかけたことも忘れ、まじまじと見ていた。俺、悠里、香織、そしてここにはいないが杏奈のステータスを調整した時のことを思い出す。俺たちは余剰分の経験値があったにも関わらず、ステータスに反映されている分が少なかった。だが店長はほぼ全ての経験値を使い切っている状態になっていたようだ。


 (それにしても高ステータスだな。俺のはズルしてるようなものだけど、普通自力であんなステータスになるものかねー?)


ーー 職業柄かもしれませんし、本人の意志が作用している可能性も否定はできません。しかしワタシは能力が影響しているものと推測します ーー


 (能力? 万物形成ってやつか。…そうか、万物っていうだけあって、自分もそれに含まれる、と?)


ーー はい。可能性は十分にあります。銃自体の素材に対する知識のように足りないものを自動で補完(別の銃を素材に)することもできるようですので。店長も所謂チートですね ーー


 (なんにしても俺は一つの真理に辿り着いたかもしれないんだが、聞いてくれるか?)


ーー オタクやマニアといった熱中したときのパワーが常軌を逸脱している人間はダンジョンに適応しやすい、というところでしょうか? ーー


 (先に答え言われちゃうやーつ)


ーー ワタシはマスターマニアですからね! 当然です! ーー


 マスターマニア? そのマスターは俺を指しているのか極めていることを指しているのか。思えばエアリスは出会ってからずっと一緒にいて、暇さえあればオタク文化を含めたインターネットの知識を漁っているわけで、どちらの意味でも嘘ではないと思えた。


 「こ、これは………。基準がまったくわからなすぎてリアクションに困ります! 何か基準になるものはありませんか!?」


 「あ、たしかにそうですよね。普通の、ダンジョンができる前とか今でも腕輪を得ていない人は10前後が普通みたいです」


 「悠人君はどのくらいなんですか?」


 その質問に答える前に割り込んできたのは、ずっと聞き専を通していた悠里だった。


 「悠人のは聞いてもアテにならないですよ」


 店長は、口元に手を当て『どうしてです?』とかわいらしいリアクションを取っている。悠里はステータスをいじれるから、とは言わず、先ほどの牛の群れとの戦闘のことを持ち出した。もしかしたら追求から逃れられるようにしてくれようとしているのかもな。


 「最後の牛の首を刎ねた悠人が何をしたか見えました?」


 「えっと、突進をひらりと躱して……愛刀で斬ったんですか?」


 「実は私もはっきりとは見えていないんですけど、悠人はあのとき武器、銀刀を持っていなかったはずです」


 「ではどうやって?」


 悠里が説明するより見せた方が早いだろうと、俺は軍曹が開けようとしていたビール瓶を拝借してみんなの前に掲げる。


 「ちょっと借りますねー。『剣閃』」


 指を【真言】で剣閃(飛ぶ斬撃)を放てる状態にし、ビール瓶のフタの少し下を両断して見せ、そのまま軍曹のグラスに注いであげた。


 「今の、指がぶれたように見えただけでした」


 「そうですね。何が言いたいかというと、悠人を基準にしても無駄だということです。むしろ余計に混乱しますよ」


 「な、なるほど。では……軍曹のも見てもらえばわかりますね!」


 「おっ! いいねぇ! 面白そうじゃないか! 腕相撲なら二尉からはまだ負けなしだからな!」


 軍曹は快く、太い腕を差し出してきた。手には触れず人差し指で腕輪だけに触れた。


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