第12話 ねんがんのくさりかたびらをてにいれたぞ


 20層でミスリルを大量に集め、エアリスの転送で帰還したのは17時を回った頃だった。

 

 (あー。なんだかんだで疲れたな。ちょっと仮眠でも取ろうかな)


ーー わかりました。ではマスターが仮眠を取っている間に例のものを作っておきますね ーー


 (はいよー。そういえば最初に服を作った時も寝てる間にできてたけど、俺が寝てる間は俺の能力を使えるの?)


ーー はい。制作の了承を、制作する場合に必要な能力の使用権に置き換え、能力の使用に関してマスターが発動しなければならないという条件を達成する権利として解釈し、そのためにマスターの身体を使用する権利を得ているので可能でした。今回は【真言】に進化していることで、制作時間の短縮が見込めます ーー


 (えっとー、それはつまりー、俺は寝言を言わされていると?)


ーー その認識で問題ありません ーー


 (えぇー………夢遊病みたいでなんだか嫌だな……それに俺の体自体は疲れが取れるんだろうか)


ーー 疲労回復に関して問題ありません。能力発動をワタシが代行することによって制作時間がおおよそ98%短縮されます。今回は3時間ほどを予定していますので、この作業の際に必要な能力発動をマスターがご自分で実行した場合約51時間程かかると思われますが、ご自分で実行しますか? ーー


 (いいえ。よろしくおたのもーします。あっ、寝る時は電気消しといてください。おやすみなさい)


ーー はい。お任せください ーー


 眠気マックス、おそらく眠気を打破することで有名な飲み物を飲んだとしても効果はないほどの眠気に、寝ている間に勝手に独り言を言わされている事を知った気持ち悪さと意識をあっさりと放棄した。


 それからおおよそ2時間後……


ーー マスター、完成しました。起きてください。さぁ今すぐに覚醒するのです ーー


 「ふぁあ……おはよう。っていうか起こさないで寝ろよ」


 しかしエアリスは嬉々として語り出す。途切れなく早口で話す様子から、完成が嬉しくてたまらないのだろう。


ーー おはようございますマスター。さぁ見てください。ミスリル製の鎖かたびらとインナーです。他、いつもの装備にもミスリル糸とドロップ品で防御性能を向上しました。見た目としては七分丈のシャツを半袖に、場合によっては脱げばいいコートは素材を入れ替えることで性能を向上させました。ブーツはシルバーウルフリーダーと牛の素材をベースに、補強とワンポイントのオシャレ目的でミスリルとレッドビーストの素材を使用しました。そして銀刀にもミスリルを使用し、ver. 2へと強化しました。さらに牙やミスリルを使い、ネックレスと使い捨て用の【真言】封入用アクセサリー(見た目は白い数珠)を作成しました ーー


 (すごいな。2時間程度でここまでできるのか…)


ーー マスターはねんがんのミスリルフルセットをてにいれたぞ てってれー ーー


 (はいはい。おつかれ、ご苦労様)


ーー それではさっそく共同作業(【真言】付与)をしましょう! ーー


 【真言】によって効果を付与と聞き、少し楽しくなった俺は眠気を忘れそのままエアリスと作業することにした。


 (おっけー。どういうのを付与するのがいいんだろうね?)


ーー 不測の事態に備えた緊急回避、脱出用の【真言】を付与することで、緊急と判断した場合にワタシが即座に発動、もしくは自動で発動します ーー


 (なるほど。俺が発動しなきゃいけないところを、それに関してだけはエアリスも発動できるようになるってことか)


ーー はい。転移を設定しておくことにより生存率が向上します ーー


 (ふむふむ。ネックレスにはウルフリーダーの牙と、その両サイドに普通のシルバーウルフの牙が一つずつか)


ーー シルバーウルフリーダーの牙は通常のものよりも耐久力が高いので何度か使えるようです ーー


 「じゃあそこには転移を付与しようか。『転移を付与』」


ーー 能力保有者の許可を確認。転移先を1層入り口に……設定を完了しました。『転移の牙』作成に成功しました ーー


 (次は両サイドだね。何をつけたらいいかなー)


ーー とんちゃん様の魔法を参考にしてはいかがでしょうか? ーー


 (とんちゃんの魔法を?できるの?)


ーー 障壁を展開する魔法をある程度再現することは可能です ーー


 (ある程度ってどの程度?)


ーー 侵入を防ぐ不可視の壁を全方位に展開します。しかしとんちゃん様のものと違い、内部から外部への物理的干渉も防ぎます ーー


 (相互不可侵状態?)


ーー そうなります。要改良の点といたしまして、音声も外部に届かないことにより【真言】も効果を及ぼせないところでしょうか ーー


 (危ないと思ったらエアリスが代行してくれると考えると俺が『真言』を発動する余裕がない戦闘中とか突然の交通事故からも守ってくれそうだね)


ーー そうなるかと。効果を及ぼす座標の設定は目に見える範囲であれば問題ありませんので、場合によっては他人を守ることも可能かと ーー


 (ソロだから必要かって言われればないかもしれないけど便利そうではあるね。二つともそれでいいかな)


ーー ではイメージしつつ『拒絶する不可視の壁』と ーー


 「『拒絶する不可視の壁』これでおっけー?」


ーー 設定完了しました。迫撃砲程度のものであれば直撃を受けても問題ありません。再度使用することも可能と判断します ーー


 (わーぉ。とんでもシールドをてにいれたぞ!)


ーー 【言霊】が【真言】に進化したことにより実現した耐久力かと。マスターの日々の研鑽のたまものですね ーー


 (研鑽っていうか肉狩ってるだけだけど。ちなみに【言霊】だったらどのくらいだった?)


ーー 5層にいたスライムの溶解液を10秒程度防ぐことができる程度です。【真言】へと進化した今であれば解除しなければ3日程度なら持つかと ーー


 (すごいようなすごくないようなよくわからん。今のなら15層にいたカミノミツカイにも対抗できるかな?)


ーー 数回程度ならば問題ないかと。最適化していくことにより性能の向上が見込め、いずれ本当の不可侵となるでしょう ーー


 (おぉ! それは心強い! さすがエアリス!)


ーー ふふん。もっと頼ってくれてもいいのですよ ーー


 (今でも充分頼ってるけどな。俺がやるのは基本的に発動だけだし。ちなみにアイテムを使わないで発動すると?)


ーー あらかじめ設定されているものと違いワタシが構築することになるのでその分タイムラグが発生します ーー


 (ふむふむ。じゃあ媒体になりそうなものに良さそうな効果をつけていけばいいのかな。そうだ、ミスリルにつければいいんじゃね? 狼の牙より良さげじゃね?)


ーー 是非製作したいものがありますのでそちらを作ってからでよろしいでしょうか ーー


 (ネタ装備とかならいらないぞ? 実用性重視の方が今は良いし)


ーー 実用性はある……はずです ーー


 (奇妙な間があったけど手裏剣とかはいらんよ?)


ーー ま、まさかそんな。手裏剣に爆発効果を仕込むなどそんなそんな ーー


 (…まぁいいさ。なんだかんだ役に立つかもしれないし。とりあえずこれからもよろしく頼むぜー)


ーー お任せください。おやすみからおはようまでお世話いたします ーー


 (だからそこはおはようからおやすみまででしょ)


ーー ちょっと間違えましたてへぺろ ーー



 ウルフの牙を丸く削ってひとつひとつに使い捨ての【真言】を込められるようにしてある数珠は追い追いということにした。そして夕食を両親と共に食べる。


 「最近どうなんだ?」

 夕食を食べながら父親からそう尋ねられる。


 「まあまあかな。今日は少し足を伸ばして20層まで行ってきた」


 「20!? 母さん、今朝のニュースでやってた自衛隊のチームと、一般人最強チームの最高到達はどのくらいって言ってたんだったか?」


 「そうねぇ。確か自衛隊さんが15層で大怪我をしたせいで休養中で、それとなんていったかしら? 雑貨屋連合さん? その人たちが19層だったかしら?」


 「母さん、うちの息子はとんでもない化け物なのではないだろうか…」


 「そうねぇ。それでもジビエハンターとして立派にやってるし、佐藤さんのお店も繁盛してるみたいね。だから母としては不満はないわね。それに例えちょっと普通よりおかしいとしても大事な息子であることに変わりはないわ。ちょっと変でも大事よ。だから好きな事をして欲しいと思うわ」


 「とにかくあまり危ないことはするなよ? 他の人たちは数人でグループを作っていることが普通らしいじゃないか」


 比較的楽観的というか放任主義な両親ではあるが、心配をかけてしまっているんだな。まぁそれもそうだよな。自衛隊より強い一般人パーティ、それより先へ潜るぼっち。

 というか”変“なことを強調するのはやめてほしい。かすり傷も重なれば重症になりうるのだ。


 「まぁ大丈夫でしょ。あんまり心配しなくていいよ」


ーー 真言の発動を確認。ご両親の心配ゲージが緩和されました ーー


 (心配ゲージ? っていうかこの程度でも発動しちゃうし、会話っていう会話をするのもままならないなぁ。報告しかできないじゃん…)


ーー 報連相の報ができるご主人様素敵です。それにっ、会話ならワタシがいるではないですか ーー


 (そうだね。慰めありがとね。でも楽しい会話もまともにできないんじゃ彼女マジできる気しねー)


ーー ゆ、夢の中ならば可能ですし! ーー


 (それは……なんていうか感覚だけなんとなく残ってる程度だし夢だからな)


ーー ご不満ですか! ?ワタシは満足ですが! ーー


 (夢としては120パーセントご満足なんだけどな。不満はないけど、人間はそれだけで満足できる生き物じゃないのだよ)


ーー ではこれからもがんばりますね! ご主人様! ーー


 (はいはいよろしくねー)


 家でのエアリスは俺を『マスター』ではなく『ご主人様』と呼ぶことが多い。エアリスなりに俺の癒しになろうとしてくれているのだろう。共生関係みたいなものだと思うし、俺が使い物にならなくなったら困るだろうしな。それに夢の中では三大欲求の一つを解消してくれるし、たわわなワールドカップを枕に、もしくは逆枕で包まれるという癒しも時折ごく僅かに覚えていたりして、不満はないどころかダンジョンができる以前とは比べ物にならないほどいろいろと充実している感があってダンジョン様様だ。


 (ところでエアリスさん?)


ーー なんでしょうか? ーー


 (翼は?)


ーー ご主人様の意見が必要かと思い見送りました ーー


 (じゃあ、そうだな……晩御飯食べて少しのんびりして、それからか)



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