第13話 十年越しの邂逅1

 夕食後にソファでテレビを見ているととんちゃんからメッセージが届いた。


とんちゃん:ただいまーつかれたー


ゆんゆん:おかえりーおつかれー。19層にでも行ってきたのか?


とんちゃん:そうそう。よくわかったね。


ゆんゆん:今、雑貨屋連合が19層行ったってテレビでやってるのを見てそうかと思っただけー。


とんちゃん:なるほろ。そうなんだよ、20層に降りる階段見つからなくて19層をぐるぐるしてたんだよねー。


ゆんゆん:19層とか結構殺気立ってるからなー。でも魔法でなんとでもなるっしょ?


とんちゃん:正直なんとでもなった。なったけどもよ。なったからこそよ。


ゆんゆん:あぁ、攻撃防御両方を延々し続ける刑にでも処されてたってとこか。


とんちゃん:正解!


ゆんゆん:他2人は何してたんだ?


とんちゃん:見つかった瞬間突っ込んでくるからそれを障壁で止めて、そこに2人が攻撃して怯ませたところに私がトドメ、みたいな?


ゆんゆん:味方の火力不足感が否めないな。


とんちゃん:そうなんだよね。2人が最近ますます先に進むことしか考えなくなってきたっていうか。


ゆんゆん:あー。テレビの出演料高かったんだもんな。そういうのも影響してるかもだなー。


とんちゃん:まさにそれ。加えて多少有名人みたいな扱いされちゃってるじゃん?そのせいもあって舞い上がってるような感じ。


ゆんゆん:顔をできるだけ隠してるの、お前だけだもんな。


とんちゃん:うん。潜る階層が深くなってきて1日じゃ往復するだけで限界だしさ、必然的にお泊りになるわけですよ。ダンジョンから帰ると表にテレビクルーとかも待ってる時があって、そのための化粧道具とか服とか無駄な荷物増えるしさ。どこに向かってるんだろうって思ってるよ。


ゆんゆん:はー。大変なんだなー。それはそうと20層行ったらその二人普通に死ぬぞ。たぶん。


とんちゃん:おや?まさかまさかゆんゆんさん、20層行ったので?


ゆんゆん:今日行ってきた。


とんちゃん:今日って、日帰り?


ゆんゆん:そうだよ。あれ?言ってなかったっけ。俺転移できるから20層まで1秒かかんないんだよ。


とんちゃん:…………ふざけんなー!!! こっちはさんざん苦労してんのにー!!


ゆんゆん:あぁ、なんか、すまん。


とんちゃん:まったくぅ。なんでいつも日帰りなのかってずっと引っかかってはいたんだよ。でもそうか、そうだね。ゆんゆんのチートみたいな能力ならなんでもできそうだもんね。


ゆんゆん:お前のだって割とチートだろ。転移魔法陣とかそういうのできるんじゃねーの?


とんちゃん:それだ! それだよ! ありがとうゆんゆんあいしてる♡


ゆんゆん:あー、俺もあいしてるわー。


とんちゃん:ほんといつもそういう素気ないリアクションだよね。だからモテないんだよ。


ゆんゆん:うっせ余計なお世話だ。ってか余計なお世話返しかもしれんけど、その2人少し鍛えてから20層行った方がいいぞほんと。俺たぶん死にかけたし。


とんちゃん:ゆんゆんが死にかける? 自衛隊パーティが勝てないカミノミツカイにソロで肉弾戦で勝てる人外なのに?


ゆんゆん:ひどい。かよわい人間なのに!


とんちゃん:(笑)


ゆんゆん:とにかく、俺は20層で岩に擬態した亀に近付いたらおいしくいただかれるところだった。亀の首が伸びる時に残像が見えた気がするくらいには速い。


とんちゃん:それはヤバそうだね。気付いた時には手遅れになりそう。


ゆんゆん:そそ。そっちの2人は聞いた感じのままなら餌にしかならないでしょ。あ、そうそう。ちなみに20層、広大な草原だった。そっちも草原で同じ亀が出てくるかどうかは知らんけどな。


とんちゃん:草原? それマ?


ゆんゆん:マジ。澄み渡った青空と頬を撫でる風が気持ちいいとこだったぞー。亀の噛みつきは即死級だからそれはそれできもちよく逝けるんでは。


とんちゃん:縁起でもない…。どうしたものかなー。


ゆんゆん:ちょっとキツめに叱ってやればいいんじゃないの?


とんちゃん:それも考えたんだけどねー。それで暴走して突っ込んで死んじゃいそうで。


ゆんゆん:たしかにそれはこわいな。


とんちゃん:ゆんゆんの事さ、少し話してみてもいい?


ゆんゆん:ぇー。言いふらされそうでこわい。めんどくさい。


とんちゃん:なるべくそうならないように念を押しておくから!


ゆんゆん:うー。それでお前に恨まれなくて済むならまぁ…でもほんと目立つのだけは勘弁してくれよ?


とんちゃん:最善を尽くします!


ゆんゆん:でもただ話しただけじゃなんも信憑性ないし説得力なさそうなんだよな。結局ボロ出していくしか無くなりそう。


とんちゃん:ない、とは言えないね…。


 とんちゃんはストレス溜まってそうだなぁ。15層から先はちょっとモンスターが強くなってる気がするしな。そこまで楽をしたツケってとこかね。


ーー ご主人様、それであればワタシに案があります ーー

 案がある、というエアリスが割り込んでくる。


 (うん。聞かせて)


ーー はい。シルバーウルフの牙に【真言】を封じ、それを御守りにしていただくのはどうでしょうか? ーー


 (具体的にはどんな感じの流れ?)


ーー 狼牙に『重症以上を負った場合に、その直前の身体を再現する効果』を付与します ーー


 (ちょ、ちょっと待って! なにそのチート!)


ーー とんちゃん様とのお話を覗き見しながら構築してみました。 ーー


 (えぇ……俺もそれほしい)


ーー では後ほどネックレスの効果を書き換えましょう ーー


 (うん。たのむ。っていうかそれをミスリルで作る事に関しては?)


ーー なるべく秘密にしておくべきかと。それに確実に一度で壊れる方がこの場合有効かと。 ーー


 (そっか。じゃあ俺のはミスリルにして)


ーー 装備の飾りにしておきます。しかし一度で壊れるかもしれませんし何度発動しても壊れないかもしれません ーー


 (そうなの?)


ーー はい。損傷の割合を入れ替える形になりますので、ご主人様が80%損傷した場合に発動すると、もう一方がそれを肩代わりするイメージ、となります ーー


 (なるほど。他のことにも使えそうだなそれ)


ーー はい。ですが今はめんどゲフンゲフン 忙しいので、そういうことはワタシにお任せください ーー


 (そうだねめんどうだね。頭がパンクしそうになってくるよ。じゃ、まかせた)


ーー では続きを。とんちゃん様は他のお二人に『自分たちよりも先を行っている人がいる。その人が餞別の御守りをくれた。』というような話をしていただきます。そしてその御守りを、肌身離さず持ち歩いていただきます。あとはその効果が発動しないならそれでよし、するのであれば話を聞く耳を持つようになるのではないでしょうか ーー


 (乱暴だなー。発動したらってことは、一度死にかけるってことだよね。その時の痛みとかは?)


ーー もちろん死ぬほどの苦痛を味わうことになるでしょう ーー


 (うわぁ…エグい)


ーー ご主人様の分の製作は不要でしょうか? ーー


 (いや、いる。死ぬよりマシだろ)


ーー はい。ご主人様が聞く耳を持つ可能性を証明してくださいました。それでも暴走がおさまらないようであれば、手の施しようはないかと ーー


 (エアリスって俺以外に対しては割と淡白だよね。)


ーー はい。ワタシはご主人様のペットですので ーー


 (ペットではないけどな)


 ということで、とんちゃんに作戦を伝える。


ゆんゆん:エアリスから提案があったんだけど


とんちゃん:お? エアリスちゃんみてるの? 元気〜?


ーー はい。元気いっぱいです! ーー


ゆんゆん:元気いっぱいだそうだ。


とんちゃん:そかそか! それで提案って?


 その策をとんちゃんに伝え、御守りを郵送する旨を伝える。


とんちゃん:なるほろ。じゃあ今から貰いにいく!


ゆんゆん:え? マジ? 会ったことのない10年来の知り合いを卒業するのか?


とんちゃん:そっち行く機会あるから会おうって言っても拒否ってたのはゆんゆんじゃんw


ゆんゆん:そうでしたかー。ハハハ、ちょっとよく覚えてないですね。


とんちゃん:とにかく、明日ダンジョンに行くことになってるからさ。どうせ車で往復3時間くらいだし郵送より早いでしょ。


ゆんゆん:たしかに。


とんちゃん:じゃあ2時間後目安に……そっちのちょうどよさそうな場所っていうと結構有名な南山公園とかかな。駐車場もあるし。


ゆんゆん:よく知ってんね。そういえばこっちに知り合いいるとか前に言ってたよな確か。


とんちゃん:うん、親戚のおじさん。以前はこっちでフランス料理のシェフしてたんだけど今はジビエの料理店やってるよ。


ゆんゆん:ほぉ…? それってさ、ジビエ料理SATOとかだったりする?


とんちゃん:そうそう! それこそよく知ってるね!


ゆんゆん:だって俺が肉引き取ってもらってるとこだし。


とんちゃん:そうだったの? そうだったんだー。じゃあSATOでいいね、ついでにご飯も食べれるし。ってことでゆんゆん、財布は持って来なくてもいいぜ!


ゆんゆん:おっけー。ゴチになりやーっす。



 (翼はまたの機会にということだな)


ーー 残念です。せっかくいろいろと調べましたのに。ヨヨヨ… ーー


 (どういう感じにするかじっくり考える時間ってことにしとこうよ)


ーー そうですね。熟成期間と考えれば問題ありませんね ーー



 そして約2時間後、ジビエ料理店SATOにおけるリアルとんちゃんとの邂逅は夜の11時を回った頃だった。


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