第11話 素材集めのための階層攻略2
(草原だな)
ーー 草原ですね ーー
(知ってた?)
ーー いいえ。知りませんでした ーー
(どうしようか)
ーー どうしましょう? ーー
(とりあえず素材探しにきたんだったよな。ちょうどそこに岩があるし、それに何か使えそうなものがないかな)
突然目の前に広がった草原に圧倒されてしまい忘れていた目的を思い出した俺は、岩に近付こうとしたところをエアリスに止められる。
ーー マスター、危険です。近付かないでください。何か物を投げてみることを推奨します ーー
(何か投げろと? じゃあ余りに余ってる鹿の角を元の大きさに戻してっと)
ポイっと
投げられた鹿の角を、岩が一瞬動いて傾いたかと思うと、下部から何かが伸びてひと噛みした。バキバキと音を立てて鹿の角を噛み砕く岩………のような亀だった。首を伸ばす速度は速く、残像を残しているように見えた。
エアリスに止められなければ噛み砕かれていたのは俺だったかもしれない。
(うわぁ〜……こっわっ! 亀こわっ! エアリスさんありがとうございます!)
ーー 当然です。この階層に入った時点で流れ込んできた情報により、あの岩がストーンネックタートルであることはわかっていましたので ーー
(え? 知ってたの? 知ってたならもっと前に教えてくれればいいじゃん)
ーー その前にマスターが近付こうとしていたので ーー
(まぁたしかに。全然警戒してなかった)
ーー ですがワタシがいれば安心です。そうやってマスターはワタシへの依存を強めていき、やがてワタシなしでは生きていけない! となる予定です。よろしくお願いします ーー
(お、おう? まぁね、今回は正直ほんと助かった)
ーー とりあえずあの亀を倒してしまいましょう。銀刀は刃こぼれが心配なので、【言霊】でなんとかすることをお勧めします ーー
(エアリスが魔改造して金属を圧縮して密度と高度を増した銀刀が刃こぼれするかもって、硬過ぎじゃね?)
ーー はい。あの亀の背負っている岩にダンジョン固有の鉱物が含まれているようです。それを取り込んでいるあの亀も相当な硬さをもっているものかと ーー
(なるほどねー。んー。どうやったら倒せるんだろう。亀だし寒いのとか苦手そうかな?)
とりあえず常套手段の一つ、凍らせてみる作戦。しっかりと亀に呼びかけるように【言霊】を発動させる。
「『亀さん亀さん、凍りついてくださいな』」
ストーンネックタートルはすぐに動かなくなる。銀刀の峰で伸びた状態で氷ついた首を叩いてみると簡単に割れた。
(うまくいった。寒いのは苦手みたいだな。亀だし)
ーー 熟練度、ステータスの条件を達成しました。星石から変換されたAP(アビリティポイント)を消費し、固有能力【言霊】を進化します ーー
唐突に【言霊】の進化を始めるエアリス。近いうちにとは言っていたが、ほんとうに近かったな。
ーー 能力【言霊】を【真言】に進化しました。等級ははユニーク+です ーー
(進化したね)
ーー はい。しましたね ーー
(どんな感じに強化されたの?)
ーー 効果の上昇、影響範囲拡大、実現可能な事象の増加といったところですね。単純に上位互換です ーー
(ほぉほぉ。じゃあ今彼女が欲しいって言ったら?)
ーー 成功率はおそらく0パーセントです ーー
(知ってた)
ありもしない希望に縋るのをやめた俺はストーンネックタートルのドロップを拾った。
ーー マスター、その塊が目的のものです ーー
(ほぉ。軽いな。軽石くらいの重さしかないんじゃないか? それでこれはなんていう石なんだ?)
ーー ダンジョン固有であり地球上には存在していなかったものなのでまだ名称はありません。この鉱石を初めて手に入れたのがマスターとなります。よって命名することによりダンジョンはその名を刻むでしょう ーー
(未発見の星を見つけた時みたいに名前つけれるのか。性質はどんな感じ?)
ーー 非常に軽く、加工難易度は中の上。用途は皿から包丁の刃までなんでもござれ。融点は3366℃。熱伝導率が低く電流に対する抵抗も強いです。【真言】で効果を付与することが可能です ーー
(ふむ。理想的な万能金属か。んー、よし。『ミスリル』にしよう)
ーー 名称をミスリルに設定しました。マスター以外が入手した際、腕輪に触れさせた場合にミスリルと表示されるようになりました ーー
(そういえば他の人たちは腕輪に近付けて名前表示させてるんだったな。俺はエアリスが教えてくれるから楽してるな)
ーー マスターを楽させるのもワタシの役目ですので。吸収させてしまった場合、通常の方法では現在取り出し不可となっています ーー
(さて、もう昼はとっくに過ぎてるけど、ごはんにしようかな。それこそごはん(米)のかたまりしかないけど。あ、道中で拾った肉もあるから問題ないな)
開けた見晴らしの良い、周囲と比べればいくらか高台になっている場所で塩胡椒をして焼いただけのシンプルな牛肉とおにぎり食べながら休憩した。
この草原がダンジョンの中ねぇ。まさか20層は異世界でしたとかじゃないだろうな。でもそうなら、金髪エロフ…もとい金髪碧眼エルフとかがいたり……そんなわけねーか。
おにぎりもぐもぐタイムの後、お茶を飲んでのんびりしていると少し離れたところで地面が盛り上がる。そして岩が生えた。そう、たけのこのように地面を割って生えたのだ。
(ねぇねぇエアリスさん。亀って生えるものだっけ?)
ーー 地球の知識によると有性生殖であり、産み落とされた卵が孵る、とありますので生えることはあり得ません ーー
(でもほら、生えてるよ)
ーー はい。生えていますね ーー
(不思議だねぇ。ダンジョン)
ーー はい。不思議ですねぇ ーー
ずずっとお茶を啜り、熟年の老夫婦が縁側で午後のひとときを過ごすかのような空気が流れる。
(お茶がうめぇ)
充分休憩し、亀狩りを再開することにした。
(さーて、亀狩りますか)
ーー はい、かっこいいニンジャマスターになるために亀を狩りましょう ーー
ニンジャマスターになるかはさておき、先ほど同様に凍らせて叩く戦法で狩っていく。鹿の角を丸々1つ投げるのは日本人的にもったいない気がするので手のひらサイズにカットして投げている。それに反応してパクッとキャッチするあたり、ストーンネックタートルはなかなか強いのではないだろうか。
(そういえば今のステータスってどうなってる?)
ーー 【言霊】を【真言】に進化させた時点でのステータスはALL100、合計700でした。現在はLUC101、他100です ーー
(了解。やばそうな相手がいれば基本エアリスに任せるし、現状はこのままLUC増やす感じで良さそうかな?)
ーー はい。15層の旧支配者『カミノミツカイ』が特殊だったのであって、現在のステータスであれば問題ないかと ーー
(確かに。あれはやばかったな。さすがに死ぬかと思った。鼻血出し過ぎによる貧血で)
ーー 【言霊】が効かない相手だったこともあり、少々無理なステータスにする必要がありましたからね。しかし今であれば貧血になることなく対処できるかと。能力が進化したことで通用するかもしれませんし、あの時のようなことにはならないかと ーー
(そうだな。ところでカミノミツカイのステータスってどのくらいかわかる?)
ーー なんとなく、程度でよければ ーー
(うん。それでいいから頼む)
STR 150↑
DEX 80 ↓
AGI 250↑
INT 不明
MID 不明
VIT 150↑
【言霊】による直接干渉をNo Effect。間接干渉に対しResist。
(ノーエフェクトは無効って言ってくれた方がわかりやすいっす。レジストは……レジストでいいか)
ーー 次回から修正します ーー
(それにしても実際そのくらいあった気がするよなー。AGIとかバケモンじゃん)
ーー ステータスを調整した上で運の勝利と言ったところですね。しかしマスターの初期ステータスは10少々でしたので、今ではマスターも十分に化物かと ーー
(ぼっちだとそういうのがわからなくなるな…)
誰かと一緒にとか、普通の人と接する機会、その様子を見ることができる機会に恵まれていれば自覚できるのだろうが、自分しかいないとなると感覚がおかしくなってくる。
(そういえば能力が進化したし索敵も強化できたりしないの?)
ーー あっ……失念しておりました。可能で。 ーー
(エアリスも抜けてるとこあるんだな。じゃあ早速……『エアリスに付与されている索敵権限を強化』)
ーー 索敵権限の強化を確認しました ーー
(おぉ、範囲広がった? それに周辺の気配とかがなんとなくわかるようになった気がする)
ーー 生命を感知できるようになりましたね。これで不意打ちにもある程度対応できそうですね ーー
(快適ダンジョンライフが加速していくなー)
ーー マスターの生存率が上昇したことにより、ワタシが渦巻疾風伝を読破する確率が上昇しました。ぱちぱちぱち ーー
(進化すればするだけキャラ崩壊していってないか?)
ーー てへぺろ ーー
(………だめだこいつ。はやくなんとかしないと)
その後のんびりと亀を狩っていると3倍ほどの大きさの亀が生えたので同じ方法でサクッと狩っておく。支配者権限と虹エッセンスと虹星石、そして直径30センチほどの大きなミスリルの塊を手に入れ、鹿の角も残り少なくなって来たので今日のところは帰ることにした。
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