第10話 素材集めのための階層攻略1
7月12日、エアリスにいつものように起こされた。
ーー マスター、そろそろ服装をどうにかしたいのですが ーー
(服装? あー、確かに最近だんだんと夏! って感じになってきたもんなー。う〜ん、暑が夏い!)
ーー はい。ダンジョンの気温は外界の影響は受けませんが、やはり夏らしくしたいなと思いまして ーー
(ツッコミはなしかー。まぁでもそうだよなー。ジビエ料理店に肉を持っていくと、この時期にそんな暑そうな格好で……って言われるもんな)
ーー はい。店主がマスターを見るたびに苦い顔をしてしまうことを考慮しますと、それ以外の場所においてもそのような目で見られてしまうであろうことを心苦しく感じてしまいまして ーー
(んー。でも素材とかは? 熊とか鹿とか牛の革くらいしかないしな…)
ーー 熊、鹿はともかく、牛の革ならば材料になり得ます。とはいえそれだけでは足りませんので… ーー
(あー、はいはい。もうちょっと深くまで行ってみようか。サポート頼むね)
ーー お任せください。この2ヶ月間でワタシもマスター様のツボを抑えましたので! ーー
(いちいち言わなくても問題なくなってきたもんな。じゃあ朝ごはん食べたら行くか)
朝食を済ませ、おにぎりの入った弁当箱を中身ごと小さくしてポケットに入れておく。さらに武器である銀刀ver. 2を確認して帯刀する。
ーー 銀刀はワタシが毎日メンテナンスしていますので問題ありませんよ? ーー
(あぁ、わかってる。だけど確認は一応しておこうと思ってさ)
ーー そんなにワタシが信用できませんか? ヨヨヨ ーー
(そういうわけじゃなくてさ…)
ーー わかっています。ちょっといじわるしたくなっただけですので ーー
(そういうことまでするようになったとは、ある意味成長しまくってるんだな。あれ? 最初からそういう感じだったような気もするな)
ーー あの頃よりはそういう『気持ち』というものがわかってきたと言いますか……そういうアレですので ーー
(なるほど? よくわからんけど。じゃ、15層までよろしくー)
ーー お任せください。 ……………転送完了。到着いたしました ーー
(相変わらずはっやいねー。移動が楽っていうのはほんとすばらしいな。ネトゲには必須だよなこういう移動)
ーー そうでしょうそうでしょう。褒めてくれてもいいんですからね? しかしゲームではないので油断なさらぬよう ーー
(よしよしエアリスはほんとーにすごいなー。えらいえらーい。んじゃいくよー)
ーー もう少し気持ちを込めて欲しかったです。 ーー
15層は俺が支配者になっているのでエアリスの索敵が頼りになる。マップの隅々まで視える視えーる。16層への階段までに邪魔なモンスターだけを狩りドロップを回収しておきそのまま20分ほどで16層へ到達する。
16層もそれまでと変わらず洞窟然としている。遭遇するモンスターも15層と違いはない。
実を言うと16層はある程度マップが埋まっている。階段は見つけていないが、マップから大体の予想はできるのでそちらへ向かう。
ーー マスター! ーー
(わかってる。あの反応はちょっと違うよな)
ーー はい。通常のモンスターとは格が違うようです。おそらく特殊個体かと ーー
(特殊個体か。支配者ではないんだよな?)
ーー はい。出現するモンスターが15層と明確な差異がないことから、この階層には支配者は存在せず、17層へ一度降りることでマスターが16層の実質的支配者ということになり、16層へ転移できるようになるかもしれません ーー
(なーるほど。とりあえず、あの熊を倒そう)
ーー STR・AGI重視にステータス調整完了しました ーー
先手必勝! せいっ!
先手を取るべく駆け出し、それに気付いて振り下ろされた赤毛の混じった前腕を居合斬りで切りとばす。腕を振り下ろした熊は俺の目の前、ちょうど良い位置に頭がある。よってそれを返す刀で斬り落としなんなく倒すことができた。
(ちょっと硬い気がしたな。あと目が真っ赤でおっかねぇ)
ーー 特殊個体は通常モンスターの異常進化個体です。ステータスもそれぞれに違いがあり個性があります。ちなみにこの熊は『レッドビースト』です ーー
(レッドベアとかじゃなくてビーストなんだな。見た目は熊だけど敢えてビーストって言ってるあたり、なんだか種族を超えた感じがあるなー。なるほど異常進化って感じ。さてさてドロップは……)
レッドビーストのドロップは毛皮だった。通常の熊よりも刃が通り辛かった気がしたので、耐久性は高いかもしれない。
ーー 今回の目的に必要な素材として使えそうですね ーー
(これだけで足りる?)
ーー 十分かと。強力な個体であったことも加味すると、牛の同じような個体やシルバーウルフの毛皮に匹敵するかと。しかしできればダンジョン固有の金属があれば防御力とかっこよさを兼ね備えたニンジャスタイルが可能になります ーー
(ニンジャ? 鎖かたびらでも着せたいの?)
ーー 良くお分かりですね。さすがはワタシのマスター ーー
(さすがかどうかは置いといて、今はニンジャブームなのか)
ーー はい。渦巻疾風伝は素晴らしい作品ですね。それにかっこいいです。体の中に霊獣を飼っていたり、紋様眼で敵を幻想の中に閉じ込めたり、とてもとてもかっこよくて心が震えます ーー
(霊獣な。まぁたしかにエアリスにも夢限定で獣な一面があるし似たようなもんか。もしかしてだけどさ、紋様眼を俺に発現させたいとか考えてない?)
ーー ッ!! マスターはエスパーですか!? ーー
(ちがうよ。【言霊】なんて能力があるから似たようなもんかもしれないけどさ。その様子だと考えてたんだな)
ーー はい。だってかっこいいじゃないですか。それに大体の目処は立っています ーー
(え? まじでいってんの?)
ーー はい。エアリスさん嘘つかない、ですので ーー
(はぁ。仮にそれができたとして、制御不能とか眼帯で隠さないとやばいやつとかやめてくれよ?)
ーー 問題ありません。目を閉じていてもワタシの索敵の応用で肉眼で見ているのと変わらない状態にすることもできるようになる予定ですので ーー
(うん。目を閉じること前提でいうのやめようね。本格的に変な人になるから)
ーー マスターの許可が得られない限り妥協せざるを得ないのが残念です ーー
(気付かないうちにしれっとやってしまおうとか思ってなければまぁいいよ)
ーー ッッ!! はい。問題ありません ーー
(すごく、すごく怖い反応だな…。マジやめろよ? フリじゃないからな? 本気のやつだぞ?)
ーー はい。仕方ありませんね ーー
その後も雑談を交えつつ17、18層をほぼ素通り攻略して19層。19層に入ったところの小部屋に、いきなり支配者と思しきモンスターたちがいた。
ーー マスター! ーー
(わかってる! サポートしろ!)
6層で俺の支配者代行をしているチビと同じシルバーウルフ。しかし体の大きさはチビの親よりも少し大きい。それが5頭、そしてリーダー格と思われるシルバーウルフは首から背中にかけての毛の色が金色を多少含んでいるように見える。大きさは周りのシルバーウルフよりもひと回り大きい。これは良い素材になりそうだ。
「『お座り!』からの〜……『剣閃』」
お座りさせて頭の位置を揃え、見えない刃を飛ばす剣閃でまとめて首を落とす。リーダー格のシルバーウルフは他よりも高い位置に頭があったが、全てを一閃できるように少し斜め下の位置から斜め上に剣閃を飛ばしたので問題なく首を落とすことに成功した。ちなみにここでのエアリスに期待したサポートとは、『誰をどのように』お座りさせるか、『何が』剣閃を飛ばすのかの対象を設定してもらうことだ。対象が限定的な方が高い効果を見込めることに加え、単純に一瞬でも時間短縮できるという利点がある。エアリスにはある程度の権限を与えてあるのでこんなことも可能なのだ。
(やっぱ細かいところの計算とかをエアリスがしてくれると全然違うな。超実戦向きじゃん)
ーー 阿吽の呼吸が成せるワザですね ーー
(それに【剣閃】も便利だよなー。銀刀から斬撃を飛ばせるってこと、発見できてよかったわ。最初は遊びでやってみただけなのにな)
ーー 漫画やゲームの知識というのは馬鹿にできません。それにマスターの能力は発想を現実にすることが得意な能力でもありますので相性は良いかと ーー
(だなー。紋様眼とかもなんだかほんとにできちゃいそうな気がしてくるもんな)
ーー できると確信してますので。ただ現在の能力ではまだ不足です ーー
(そもそもどのくらいで能力が強化とか進化されるかってのがわかんないな)
ーー 先ほどのシルバーウルフの群れとの戦闘により極々近いうちに達成されるものと思われます ーー
(ほー! そりゃ楽しみだ。さて、狼のドロップは…)
シルバーウルフの群れのドロップは毛皮が3、牙が2、シルバーウルフリーダーの毛皮と牙もドロップした。何に使えるかというよりも、とりあえずいろいろ手に入るのはそれだけで嬉しかったりする。コレクター魂というやつかもしれない。
ついでに俺は、19層の支配者になった。
(大漁大漁♪ ところで牙とかって何に使えるんだ?)
ーー 装飾品の素材にならなるかと思いますが、武器の素材としては向かないかと ーー
(そうだよなー。短剣とか作るにも小さいし、そもそも歯だしな。アクセならいけるか? ゲームならステータスが上がったりするもんだけどなー)
ーー ッ!! マスター! それです! ーー
(それってどれよ?)
ーー 効果を付与すれば良いのです! もしくは使い捨ての【言霊】を封じた道具にすることも可能なのではないでしょうか! ーー
(え? そういうこともできるの?)
ーー ワタシとマスターの共同作業であれば充分可能です! ーー
(マジか。じゃあ帰ったら作ってみようか。その前にとりあえず20層行ってみるか)
それから30分ほど狼を狩りつつ探索し、発見した階段で20層へ降りる。
20層に入った途端景色が一変した。草原なのだ。時折岩が転がっていたり、遠くに動物かモンスターか、なにかがいるのが見える。地形に多少の起伏がある他に遮るものはない。そこには空もあり、爽やかな風が頬を撫でた。
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