ダンジョンで生活してものんびりしたい

第9話 復興が進む世界

 7月11日、6層を攻略して約2ヶ月が経過した。世界各地で復興は進んでいるものの、まだ手付かずの地域も多い。

 そんな中、日本でも各県の県庁所在地であれば大体のインフラが復旧しており、そうでない地域も自衛隊や有志による支援によって大災害以前の生活に戻りつつある。それとは別に、人員を割く余裕はあまりないはずだが、自衛隊はダンジョン特殊部隊を設立、攻略に勤しんでいる。


 俺は御影悠人。ダンジョンができたこの世界で”ダンジョンジビエハンター“をしている。

 なんだって? どうしてこのタイミングで自己紹介をするのか?

 それはダンジョンができてからここまでの俺の物語は序章にすぎないからだ。むしろここまではプロローグだったと言ってもいい。それにずっとぼっちだったし。え? ぼっちじゃない? ワタシがいる? まぁまぁ、今は黙っててくれ。さて気を取り直して……ダンジョンができる前は堂々と無職をしていた俺だが、ダンジョンのおかげで一応の仕事を得た。このままがんばれば家だって建てられる気がするんだよなぁ!


ーー 誰に何を言っているのですか? 頭大丈夫ですか? それにこのままでは全く浪費をしなくとも三十年はかかるようですが ーー


 だれでも良かろう。それにこういう目標みたいなことはとりあえず言っておくのが大事なのだ。良いフラグを建てれば家くらい建つんじゃね? という希望的観測ではあるけども。それに俺がこうやって独り言を言っても、エアリスが話し相手になってくれるじゃんか。……すまん、やっぱ今の無し。自分で言って悲しくなってきたよ。



 1ヶ月ほど経ったあたりで俺は単身15階層を攻略したのだが、その階層では日本にも生息している動物のちょっと大きいサイズ、時には成獣の倍はあるモンスターを狩っていた。すると時折その元になったであろう動物の肉をドロップしたのだ。その肉をシルバーウルフの子供であるチビに毎日与えていたことが影響したのか大型犬ほどに成長し、今となっては大きさに関してはチビではなくなっている。今では立派な6層支配者代行だ。


 チビに与えるついでに【言霊】で焼いて実食してみたが普通に獣臭い、ごく普通の肉だった。肉がドロップした場合、倒したモンスターの1%程度がドロップ肉になる。どの部位がドロップするかは確率に偏りはあるがランダムのようだった。他にもドロップするものはあるが、今は割愛する。


 (それにしても【言霊】って上手に使えば便利だなー)


ーー そうですね。そんな使い方があるとは思っても見ませんでした。認識を改め他にも便利な使い方を模索します ーー


 2ヶ月の間にある意味成長したエアリスの口調は少し変化していて以前より流暢だと思う。

 【言霊】の便利な使い方というのは、ドロップした肉を持って帰る時に咄嗟に思いついたもので、よくある無限に収納できるアイテムボックスのようなものがないのであれば、逆にそのアイテム自体を小さくしてしまえばいいと思い試したのだ。もちろんアイテムボックスかも〜ん! と何度も言ってみたが何もおきなかった。それは某RPGの何が起こるかわからない魔法が失敗したときと同じような感じだ。そしてそれができるなら、逆に肉を大きくすることもできるのでは? と思い試してみたのだが、そちらは何もおこらなかった。エアリスが言うには『ズルはいけまへんでーというやつです』だそうだ。【言霊】なんてものがある意味ズルみたいなものだし、それくらい良いじゃないかとも思うが、良くないらしい。


 6層までほんの2、3日程度で攻略したにも関わらず、2ヶ月近くもの時間があってなぜまだ15層なのかというと、行き詰まっているというわけではなく他に理由がある。獣肉が取れるようになり、その肉の処分に困った俺は、ダメ元で近所のジビエ料理店に相談してみた。その結果ジビエ猟師のように扱ってもらえるようになり、定期的に買い取ってもらっているのだ。そう、俺は遂に、ニートを卒業(?)したのだ。とは言え仕事という感覚はなく、今のところ他に仕事をするつもりもないので実質ニートなのだが。


 それらの肉を普通に買い取ってもらえるのには理由がある。地上が食糧不足ということに加え、ダンジョンで肉を手に入れることが難しいことが起因している。政府が認めていないとは言っても背に腹は変えられないし、実際に食えるんだから問題ないだろう。まぁそれで商売をしているとなると問題になる可能性がないとは言えないが。だがこれに関して全国的にも禁止されているわけではない。所謂自己責任というやつなのだろう。


 他の人はステータスの上昇を意図的に起こすのは難しいらしいが、俺の場合はエアリスというサポートがあるため好きなように調整することができる。下げることもできるので、STRを上げすぎても必要に応じてエアリスが調節することで箸が折れたりコップを握りつぶすということを回避できている。その下げた分を他に回すこともでき、とても助かっている。普段設定しているステータスは良く言えば万能タイプ、悪く言えば器用貧乏なステータスを基本にしているが、理由として現状”特化する意味を感じない”からだ。ただしステータス項目のうちひとつを除いては。

 ちなみに『ステータス』という表現や『STR』『AGI』などは俺が言っているだけで、人によっては『力』『すばやさ』などの言い方をする人もいるだろう。能力やその効果も、仮に名称は同じでも効果に違いがあったりして個性が出ると思っている。とはいえ自分の能力を知ることは難しい、というか不可能だ。測定器で計るしかないのだが、もしも知る事ができる人が一定数以上いるならばステータス関連の呼称くらいは統一できるならした方がいいとは思っている。


 話が逸れたので戻すと、ステータスを意図的に調整できないと成長が遅いため11層から15層を攻略できる人が極端に少ないということになる。10層まではフロアボスと言える存在だったシロアリの女王や支配者だったスライムのような支配階級でなければ基本的に殺意は低い。しかし11層から先は例え草食動物が元になったモンスターであっても殺意が高くなる。しかも15層に到達しなければ肉のドロップも少なく、エッセンスと星石以外に得るものはほとんどないときた。エッセンスと星石があるのだから修行のつもりでやればいいのかもしれないが、ここは日本。そんなに暇な人間はそうそういない。つまりダンジョン肉は非認可であるが実際食糧になり、しかし現状ではあまり出回っていないため俺はその点で貴重な仕入れ元となっているらしい。


 そんなこんなで俺は現在、ダンジョンジビエハンター(仮)をしているが両親は複雑そうだった。なにせ自衛隊のダンジョン特殊部隊ですら到達できていない15層に息子が1人で足しげく通っているのだ。しかし15層までの道のりも、15層の支配者であった『カミノミツカイ』という大きな角を持った真っ白な鹿を倒したことで解消している。

 ちなみにカミノミツカイには【言霊】の効果が全くなかった。エアリス曰く『ダンジョンみが強すぎて』だそうだ。それを聞いた俺としてはヤバみしか感じなかった。

 エアリスにステータスをSTRAGI特化(LUC据え置き)にしてもらいカミノミツカイを撃破したのだが、VITをぎりぎりまで下げていたことによる負荷で、戦闘終了後にエアリスの魔改造によって重量を増していた銀刀を持つことすらできず鼻血を吹いた。しかしそこまでして漸く倒せるほどの相手だった。


 ちなみにこれらの話は、問題ない部分だけを両親に話している。ジビエ料理店の店主にも肉の出所として必要と判断し話してはいるが、それをできるだけ口外しないようにお願いしている。店主は肉質が一級品ということを確認しているので、吹聴することはないだろう。どうしても仕方ない場合は話して構わないと言ってあるので、気楽に了承してくれている。


 この2ヶ月でとんちゃんは16層に突入していて俺がジビエハンター(仮)をしている間に、追い抜かれてしまった。俺が鼻血を吹いてまで倒した相手と同等のモンスターに対し、障壁で突進を防ぎ動きを止めている間に仲間たちとぼっこぼこにしたらしい。なのでとんちゃんたちも一応、ダンジョンジビエハンター(仮)なのだ。しかし俺のようにステータスを意図的にいじることができないのでどうやらLUCが高くないらしく、なかなかドロップしないらしい。


 近頃の俺は二割くらいの確率で何かしらのドロップがある。とんちゃんたちは俺の10倍狩って何かがドロップする程度。しかし狩る方法がそれほどステータスに依存しないため乱獲に近いほど狩っているんだとか。それで得られた肉を困っている人に差し入れたり、時には少し遠出をして炊き出しをしたりしているとも聞いている。俺と違って立派だと思う。そんな目立つ行動を取っているとんちゃんたちは報道もされていた。たしか『ダンジョン攻略24時〜最強!? 雑貨屋連合!!』という番組名だったか。顔は映らないように配慮されていたがヒーローのような扱いをされていた。公になっている攻略組の最高到達点がまさにその16層なのだから当然と言えば当然だ。


 そんな功績のある雑貨屋連合には自衛隊からも講師の依頼が来ているそうだが、それは建前。本音は自衛隊のダンジョン特殊部隊を実地での牽引、サポート、もしくは入隊してほしいということだとか。本人に聞いたので確実な情報である。自衛隊も必死なのだろう。なにせこれで食糧事情が変わるかもしれないという希望があるのだから。まぁドロップ運次第だけどな。

 俺はもう少しステータスに余裕が出たら、LUCをガンガン上げていこうと思う。運が全てではないけど、運はほぼ全てになり得ると個人的に思っている。数値的に言えば、そうだな……LUCは100にしてあるので他の各ステータスが100に到達したらかな。



とんちゃん:ねぇ聞いて! すごいことが起こった!


ゆんゆん:おう。どうした最高到達点パーティのリーダーさん?


とんちゃん:ゆんゆんだってその気になれば1人でもっと深くまでいけるでしょーに。


ゆんゆん:いけるかいけないかで言えば、行ける。とは言ってもエアリスのサポートありきだから正確には1人じゃないけどな。で、すごいことってなんだ?


とんちゃん:そうそう、この間テレビの特集にでたじゃん?あれの出演料1000万!


ゆんゆん:マジ? いくらなんでも高すぎだろ。金銭感覚どうなってんだテレビ業界は。1人頭333万くらいになるとかすごいな。


とんちゃん:ちがうちがう。ひとりいっせんまん!


ゆんゆん:oh…….俺のジビエハンターの収入、月15万(泣)


とんちゃん:それはまぁね…ジビエ人気がもっと出れば…それ以前にもっとちゃんと復興しないと、か。


ゆんゆん:そうだな…。そのためにも美味しいお肉をもっと狩らないと(血眼


とんちゃん:笑


ゆんゆん:冗談はさておき。テレビ業界にもっと深く潜ってとか言われても流されるなよ? 15層であんなのが出てくるんだ。この先絶対やばいの出てくる。


とんちゃん:流されないようにしてはいるから私は大丈夫だけど、他の2人がちょと不安かな。そういえば15層のボスって名前は一緒だったんだよね?


ゆんゆん:うん。カミノミツカイだったよな。


とんちゃん:そうそう。それを倒した後にエッセンスを吸った時に腕輪に表示された名前。でも見た目は違うんだよね。


ゆんゆん:そうだな。こっちは鹿だったけどそっちは牛だっけ? 馬だっけ?


とんちゃん:牛だよ牛。もぉーもぉーの牛さんだよ。


ゆんゆん:一応伝承とかそういうので言えば神の御使とか神聖な扱いをされてることもある動物だよな。


とんちゃん:そうなんだよね。だからもしかしたらそのうちこっちでも鹿がでたりそっちで牛がでたりすることもあるのかなーなんてちょっと思ったりしたんだよね。だから鹿がどんな感じだったか教えて欲しくて。


ゆんゆん:天才か? おまえは天才なのか?


とんちゃん:ふっふっふ。崇めなさい。


ゆんゆん:あっ、それはパスで。んで鹿な。動きがやたらはやい。突進のスピードは100メートルを3秒くらいで走り抜けそうな勢い。


とんちゃん:なにそれぶつかったら絶対しぬじゃん。よく生きてたね…。


ゆんゆん:ほんとそれな。鼻血吹いた上に武器も持てないくらい消耗したけどな。俺にも障壁があればもっと楽にいけたのかもしれないけど。


とんちゃん:そうだねー。【言霊】が効かなかったんだったよね?


ゆんゆん:うん。もしかしたら魔法とかも効かないのかもしれないし、障壁もスルーしてくる可能性も否定できないよな。


とんちゃん:そうなったらたぶん死ぬかも…。


ゆんゆん:そうならないようにがんばってくれ。


とんちゃん:なんとかがんばるよ。でもそっちとこっちってちょっと違うよね?


ゆんゆん:階層と出てくるモンスターの傾向とか配分とか、階層自体の造りとかか?


とんちゃん:そうそう。もしかしたらそっちみたいにほんとうに危ないのはいないかもしれないし。


ゆんゆん:んー。それはまぁ。とはいえそれ相応のが出てくるかもしれないだろ?


とんちゃん:それもそうだね。はぁ…。あの子達大丈夫かなー。


ゆんゆん:チームメンバーか? ってか人の心配してる余裕あるとかさすがっす。


とんちゃん:余裕じゃなくてゆんゆんに脅されたことによる現実逃避ですー。


ゆんゆん:すまんすまん。でもまぁとりあえずがんばってくれ。死なれたら友達いなくなっちゃう。


とんちゃん:はいはい。そう思うなら手伝ってくれればいいのに。


ゆんゆん:俺の今のおしごとを捨てろと?


とんちゃん:高収入


ゆんゆん:ぐぬぅ。


とんちゃん:魅力的でしょ?


ゆんゆん:でも俺は平和にのんびり過ごしたいからひっそりしてるよ。


とんちゃん:まーそうよね。


ゆんゆん:とりあえずがんばって帰ってこいよ。


とんちゃん:はーい。

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