第8話 6層支配者ののんびりタイム


ゆんゆん:やっぽー。6層攻略して帰還なう。


とんちゃん:やっぽー(笑) こっちは1層行ってきた! 怪我する前に帰ってきたけどね!


ゆんゆん:おー。作戦はいのちだいじにかな。


とんちゃん:大体あってる。


ゆんゆん:こっちの1層ではなにもみかけなかったんだけど、どんな感じだった?


とんちゃん:しゃくとりむし? あの動きが独特な細長い虫。あれがいた。大きさは四十センチくらいだったけどあの動きでわらわら集まってきて……ヤバい、思い出したら気持ち悪くなってきた。


ゆんゆん:ひぇ……それ結局どうしたんだ?


とんちゃん:ゆんゆんの話を参考に、武器になりそうなものいろいろ持ってったからね。その時は店にあったジッポのオイルで即席の火炎放射器にした。そしたら苦しみながら悶え死んだ。イヒヒ……


ゆんゆん:尺取り虫の大群よりお前がこわい。


とんちゃん:私をチキン肌にさせた報いだし。天罰みたいなもんだし。


 うーん、逆らっちゃいけない人だよな。尺取り虫君たち、ご愁傷様。ネット上とはいえ飽きる程通話もした仲だし、お互いそれなりにわかってる同士とはいえ、そこまでの残虐性があるとは……ッ! なんて、本人に言ったら俺が火炙りにされるかもしれないし言わない。うん、それが正解だ。無駄な争いはしない方がお得だ。


とんちゃん:あ、そうそう。ゆんゆんが言ってた腕輪出たよ。


ゆんゆん:おぉ! それでそれで?


とんちゃん:聞いてた通り腕にジャストフィットしたけど? でもゆんゆんのよりも細いリングって感じ。


ゆんゆん:ん? それだけ?


とんちゃん:うん。それだけだけど? 腕輪の精? なにそれってカンジだけど? イケボチャンスだと思って期待してたんだけど? どうしてくれんの?


ゆんゆん:いやぁ、俺に言われましても(汗)


とんちゃん:ま、いいけどね。ゆんゆんみたいにゲーム脳なオタニートでもない限り幻聴するなんてないんだろうしー。


 嫌味っぽい事は言われてもそれが言える仲ってことを考えると微笑ましいな。それはそうと俺の腕輪とは少し形状が違うんだな。もしかするとそれも好みが反映されてたりして。

 それでエアリス? とんちゃんの腕輪は話せないのか?


ーー ご主人様が特異な例であり、とんちゃん様の腕輪に意志は芽生えていないものと推察します。尚、ワタシという意志が発生した要因として、マスター様の能力が関係していることは確実です ーー


 そうなのか。じゃあ俺の能力を使って他の人の腕輪も同じようにできたりしないのか?


ーー 能力が成長すれば不可能ではないとは思いますが、可能であっても他の方とマスター様を足してニで割ったような微妙な人格になるおそれがあります ーー


 それはなんかいやだな。


ーー マスター様の能力が進化することで他の方をほぼ百パーセント参考にした人格にさせることも可能とみていますが、現状ではわかりません ーー


 ふむふむ、なるほどな。じゃあ能力次第ってことで、しばらく我慢してもらおう。


ゆんゆん:あーでももしかすると俺の能力が育ったらイケボな腕輪にできるかもしれないから今は我慢しときなさい。


とんちゃん:能力! そう能力! それはなんとなく感覚的にわかったんだよ! ってかゆんゆんの能力ってなに?


ゆんゆん:言ってなかったっけ? 【言霊】らしいぞ。簡単に言うと言葉を発するとそれが可能であれば現実にする能力らしい。


とんちゃん:へ? 聞いてないし。ってかなにそれちーと? さいつよ? は? なにそれ。


ゆんゆん:とおもうじゃん? 能力使いたくないときにしゃべると……わかるな?


とんちゃん:いやいや、使いたくない時の方がないでしょ。だってその能力あったらなんでも思い通りなんでしょ?


ゆんゆん:実際はそんな単純じゃないみたいだし、そのせいでなかったはずの問題が発生したりするっぽい。しかもその反動もないわけじゃない。実際倒れそうにはなったしな。


とんちゃん:うーん。乱用しない方がよさそうなことだけはわかった。


ゆんゆん:そんで? 感覚的にわかったって言うのは?


とんちゃん:そうそう、私、魔法使えるっぽいです!!(ドヤッ


ゆんゆん:魔法? それはまた……ファンタジーだな。ファイアとかサンダーとか、黒魔法的な?


とんちゃん:どう言ったらいいかわかんないけど。腕輪手に入れてからまた尺取り虫に遭ったんだけど、そのときに『来るなー!』って思ってたのよね。そしたら見えない壁? みたいなのが作れたみたいで、尺取り虫がその見えない壁を登ってきたんだよね。でも内側からは外側に攻撃できるのがなんとなくわかったから、火炙りの刑に処した^^


ゆんゆん:うへぇ。


とんちゃん:でもゆんゆんの【言霊】の方が便利そうだよね。どうせ燃えろとか凍れって言ったらそうなるんでしょ?


ゆんゆん:まぁうん。そうだな。その障壁みたいなのは試したことないけど、凍らせたり動くなって命令はちゃんと通った。


とんちゃん:半分くらい冗談のつもりだったんだけど……。私の上位互換みたいなものじゃん。私も【言霊】ほしかったなー。


ゆんゆん:お前みたいに知り合いとか話す相手が多いやつはない方がいいだろ。


とんちゃん:ゆんゆんだってそういう人いるでしょ? それに今話してるし。


ゆんゆん:文字は対象外だからな。


とんちゃん:そういえばそうだっけ。でもその障壁? みたいなのしか浮かんでこないからそれしか使えないみたいな気がするんだよね。他にも何かあればいいのに。


ゆんゆん:能力は成長するらしいから、そのうちレパートリーも増えるんじゃないか?


とんちゃん:そうなの? じゃあ希望はあるね。


ゆんゆん:そういえば他のニ人はどうだったんだ?


とんちゃん:なにやら肉体系らしいよ。よくわかんないしそんなに興味ないから知らないけど。


ゆんゆん:そういえば格ゲー女子がいるとか言ってたもんな。ある程度望みを叶えるらしいし、だからかもな。でも仲間の事は把握しておいた方がいいと思うぞ。で? お前は魔法少女にでもなりたかったのか?


とんちゃん:実はコミック全巻持ってる。


ゆんゆん:マジかよ。でも「我輩と契約して魔法少女になるがいい! ドゥハハハハハ!」とかいう豆狸がいるのに、腕輪はそれにならなかったんだな。


とんちゃん:あー。アレね。後半になっていくにつれて腹黒さが目立ってきてさ、あんまり好きじゃないんだよね。


ゆんゆん:なるほど。なら結構忠実に望みを叶えてくれたわけだ。


とんちゃん:そうかも。でもゆんゆんみたいなちーとを知っちゃうとねー…。


 隣の芝は青く見えるとかそういうやつだろうか。良い事ばかりじゃないんだけど、説明してもわからないよな。


ゆんゆん:思ってるのとは実際違うかもしれんよ? あ、そうだ。俺の能力に関しては秘密ってことで頼む。エアリスがそういうのは知られない方がいいのでは? とか忠告してきたし。


とんちゃん:エアリス? 誰それ? 女?


ゆんゆん:たぶん女? だと思うけど、言ってなかったっけ? 腕輪の精の名前。


とんちゃん:聞いてねーし! 美人? 金髪? 目とか青いの?


 とんちゃんって結構ファンタジー好きなんだな。十年も付き合いがあるのにわからないもんだな。


ゆんゆん:いや、実体がない。


とんちゃん:あら残念ねー(笑)


ーー はい、非常に残念でなりません。 ーー


ゆんゆん:エアリスが「残念でならない」って言ってるぞ。


とんちゃん:え! 見てるの? って見れるの?


ゆんゆん:見えるっぽい。しかも知らない間にどうやらネットサーフィンしてるらしい。まだ生まれたばっかなはずなのに、結構やばいやつに成長してしまって少し困ってる。


ーー ワタシはご主人様のお役に立てればと思っていますのに……ヨヨヨ ーー


とんちゃん:ゆんゆんに似たんじゃない?


ゆんゆん:えー……


とんちゃん:エアリスさん、ゆんゆんのことよろしくね!


ーー はい。お任せください。おやすみからおはようまで、しっかりお世話いたしますので ーー


 そこはおはようからおやすみの方がよかったな。


ゆんゆん:任せろってさ。


とんちゃん:それなら安心だね! こっちもそっちに追いつけるようにがんばる!


ゆんゆん:おう。ほどほどにな。あ、そうだ。こっちの6層には狼とシロアリがいたぞ。逃げるのがむずかしい相手だったから無理すんなよ? 同じかは知らないけどそっちも似たようなのが出るかもしれないし。


とんちゃん:わかった。気をつけるよ。あと魔法チートになれるようにがんばる。


ゆんゆん:お、おう。がんばれ。



 やり取りを終え、実はとんちゃん、ラノベとか読んでたりしそうだなと思っていた。


ーー マスター様、とんちゃん様についてですが…… ーー


 うん? どうした?


ーー とても良い人そうですね! ワタシ、初めての女子友ができたような感覚で嬉しいです! ーー


 あ、そう。よかったね。俺という通訳がなくても話せるようになるといいね。


ーー はい! ワタシもそうなることを望んでいます! ーー


 やはりエアリスは『欲』というものがあるんだろうな。そもそも俺を元にしているわけだし当然と言えば当然か。俺の秘められた……かどうかはわからないが、欲があったから【言霊】という能力を手に入れたみたいだし。

 そのエアリスは言ってしまえば生まれたばかりだから、欲求に素直なのかもしれないと感じている。それでいて出来ることは多いから、それが不安要素でもあるけど……その欲望が暴走しなければ問題はないか。

それはそれとして、ダンジョンなんていう空想の世界の話が今そこにあるわけで。どこから考えれば良いかもわからないけど、退屈に感じていた毎日が変わった事だけは確かだろう。このまま通えば死ぬかもしれないのはわかっているし、恐怖心だってないわけじゃない。でもせっかくだ、調べてみるか。だってその方が楽しそうだろう?


 ともかく目が覚めたらいつもの日常に戻る、なんて事はなかった。気が付いた時、非日常の世界になっていたのは夢でも妄想でもない。紛れもない現実だったんだ。

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