White Christmas

成宮 拍撫

White Christmas

太陽が沈みかけ、終わった世界は灰色になる。


灯りの消えた街を見て、何を想っているのか。


君の頬を……一筋の涙が流れた。


重力に促されるままに輪郭をたどったそれは、ふっと地面へと吸い込まれて、折角積もった雪を少しだけ溶かす。


「ちょっと待っていてね」


そう伝えて、近くのコンビニに入る。店内は完全にクリスマス仕様で、赤と緑に彩られていた。缶コーヒーを手に取って店を出る。電気が消えているのだから、もちろん缶コーヒーも冷たいのが残念だ。


「コーヒー……?」


なんて言って首を傾げている君にそれを投げ渡す。「わっ……!?」なんていいながらもなんとか受け取ったようで、「ありがとう」と笑う。


「クリスマスプレゼント」


「今年はしょぼい……」


冗談のつもりだったけれど随分と残念そうだ。


そんな君が愛おしくて、離れたくなくて、僕は静かに……君を抱きしめた。


「二人きりだね」


不安だった。


「どこにもいかないで」


自分が悪いのに。


「あなたしかいないのに?」


どうすればいいのかわからない。


「うん」


本当はずっと不安だった。


「そうだね」


徐々に、徐々に。太陽は沈む。世界は暗闇に包まれる。


この世界には僕たちしかいなくて、静かで冷たい。


「ホワイトクリスマスだね」


そう呟く君の声だけが、耳に届く唯一の音。


君の体温だけが、肌に感じる唯一のぬくもり。


「大丈夫だよ。あなたがそばにいてくれる」


「…………」


僕たちは、二人きりだ。


「……どこか行こっか」


君はふわふわ微笑む。抱きしめていた僕の手を解いて、代わりに自分の手につないで。


「どこがいい?」


首を傾げて訊く君は楽しそうだ。


「君がいるならどこでもいい」


そう答えると、「困るなぁ」と頬を膨らませる。




今夜はクリスマス。二人きりのクリスマス。


僕たちはサンタさんに願ってしまったんだ。


二人きりでいられる時間を。


だから、ちゃんとお礼を言わなくちゃね。




『サンタさん。ありがとう』

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White Christmas 成宮 拍撫 @narumiya0639

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