第20話 15日目

 俺にも等しく眠りは来るようになった。

 疲れはない。

 それでも意識に帳が落ちるのは、習慣だからか。

 夢を見ることがあるのも、以前と変わらず。

 これまでが一切合切夢であるのかもしれないと、ときどき思考の端に上ることもある。

 どうしても非現実的に感じてしまうからだ。

 現実逃避かもしれないな。

 それほど、カラダありきというのはベースとなっている考えみたいだ。

 精神だけの存在、というのはどういう在り方をしているんだろう。

 生まれた時から、というものだ。

 きっと異質な思考形態なんだろうな。

 知に立脚した、概念とイメージと記号と情報の構造生命体。

 つまり考えだけの、機械っぽい存在。

 感情は、カラダがあるから、アタマがあるからあふれ出してきているから無いも同然。

 与えられれば、あるように振る舞うのかもしれない。

 だけど、そのようなものと対等に握手ができるのだろうか。

 仲良くなれるのか。

 実際に触れてみたものだけが、立ち会ったものだけが、その答えを出せるのだろう。

 俺は違うよな?

 まだこの境遇におかれて間もないというのに感覚が遊離しているというか、意識だけというのはなんともまだるっこしく、はっきり言ってしまうと不便だ。

 これで念力と言った能力があればいいのだが。

 さもありなん。

 何でもかんでも与えられているのは、おそらく意図があるのだろうが、すぐ隣で悪魔が微笑んでる。

 いっときのバカンスかもしれない。

 覚えている限り、そのようなものがたりはハッピーエンドを迎えようとも、所詮は掌で弄ばれているようなものだ。

 本人のためには何もならない、だろう。

 魂の螺旋は昇れない…

 楽すればその分だけ苦しんでる。

 気づいていないのは、果たしてその者にとって幸せかどうか。

 …ああ、やだやだ。

 疑いグセがついている。

 狭量にもなっている。

 どんどんつまらない人間?になっていっているようだ。

 もっと寛容にならねばならない。

 そのような者にも、きっと何か必要があってのものなのだ。

 そんなことをいちいち言う資格など、本来はない。

 これでメルスに色々と教えようとしていたんだから、笑わせる。

 メルスには、もっと、知ってほしい。

 純粋であっても欲しいのだが。

 なかなか贅沢でワガママだな。

 メルスには普通の女性としての一生を送って欲しいが、なかなか想像がつかない。

 規格外の出来事を体験してきているせいだ。

 それに、なんというか、生まれも環境も尋常じゃない。

 普通の人生は歩めるのだろうか。


 目覚めだ。

 居場所はいつものメルスの腰の布袋の中。

 メルスは目覚めとともに大切そうにむぎゅっとしてから身につける。

 昨日はジェーマと一緒に寝たのだが、ジェーマは寝る前に小石にすりすりしていることを不思議そうに見ていた。

 おまじない?

 ううん、たいせつなの。とてもだいじ。

 まるで大切な人みたい。

 …

 愛おしそうに。

 その思いを知らずに。


 今日も、身につける。


 朝食はパンとスープとサラダだ。

 メルスはおいしい、おいしいと、もりもり食べ尽くした。

 ゴードさん。

「さて、お前さん、これからどうするのかね?旅をしとるみたいだが、よく今まで一人身で大丈夫だったのう。これから先もそれでいくのかの?」

 うーんとメルス。

 どうするの、ソム。

 そうだな。2、3日逗留して、情報と必要物資を集め、それから安全な道を通って街へ行こう。そこをひとまずの拠点とする。

 これはメルスの身を案じての立案だった。実質、身体はひとつしかないわけで、しかも女とあっては、冒険や旅で生計を立てるにはキツイものがあるだろう。

 メルス、まちでどうするの。わたし、なにもできない。

 !そうだった。スキルがないとあっては、街でも外でも同じだろう。

 学ぶとしても、先立つお金が必要になるわけで。

 とんでもないバケモノを倒したり、秘境から帰還したが、財宝やカネには恵まれなかった。

 何かモノを持ち帰ったわけでもない。

 失敗ぃぃぃしたあ!

 あとあとのことを考えてなかった。

 その場その場を切り抜けることしかできなかったせいでもあるのだけれど。

 それでも。

 なんらかの褒賞はあってしかるべきじゃないのか。

 何かないか、金になること。

 周りを見回す、ぐるぐるぐるぐる。

 …おっ!

 すぐさまメルスに言葉を届ける。

 ーーーメルスがゴードさんに申し出たのは、廃棄物ついてのことだった。


「ほぉ…おぬし、どこでそれを?」

 捨ててあるいくつかの植物が、実は食べられることを指摘させたのだ。

 湯がいてアクを取る、発酵させると食べられる代物になるなど、簡単な食し方も言添えさせて。

 聞けば、村の周りにたくさん生えているという。肥料として使うしかなかったというが、これで食のバリエーションが広がっただろう。

 あとはレクチャー料をもらえればよかったの、だが。

「これは…ちょっとどころではない。大儲けできるぞ!村のみんなでこの知識を共有して、協働すれば、村の特産物になる。わしの今やっている研究より、よっぽど価値のあることじゃ!…メルスさん。折り入って相談なのじゃが」

 ゴードさん改まり。

「提供者として、しばらく手伝ってもらえんかの?大きく機能するまででいいんじゃ、そんなに足止めはさせんよ、利益の何割かも受けとって欲しいしのう、どうじゃ、どうじゃ?」

 もちろん快諾だ。

 気の済むまでこの家にいても良いとのこと。

 ジェーマがひどく喜んだ。

 抱きついきてべろんべろん顔を舐め回してきた。

 メルスもならったものだから、もうべとべとだらけ、ヨダレまみれだ。

 善は急げと、ゴードさんは村長にさっそく会いにいった。

 さて、村にいさせてもらうとしよう。

 15日目終わり。









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