第13話 11日目

 膝の感触だ、との錯覚に陥っていた。

 実際に膝枕されていた。いや、膝置き?

 件の少女だ。こくりこくりと眠り告っている。

「すう…すう…」

 純粋無垢な寝顔だ。

 造形が、収まるべきところに収まっているだけでなく、清冽でもあるし、無邪気さの中にも艶がある。さらには寂しさ。天涯孤独がひしひし忍び込んでくる。そんな間隙を縫って、健気に歩もうとする凛としたたくましさを見て取った。シナジーが、次から次へとなだれ込んできたのだ。テレパシーの関係だろうか。それだけ信頼してくれているのか。

 きゅるるるる…

 少女のお腹が可愛く鳴った。

 うっ。

 恥ずかしそうに起きる。

「うぉあ…おはよう」

 おはよう。よく眠れたか?

 こくこくっ。

 激しく首肯する。

「すべて、よくなったから」

 おいおい。まだまだこれからだぞ。

 ソレデモ、ダヨ。

 親愛の情のような…あたたくて、まあるい感情が溢れている。

 愛を知らない愛。

 まだ呼べ足りない、なりたそうな感情の動き。

 これが始まりだろう。

 永劫につながる出会いの。

 瞳にはいたるところまで理解されているように思えた。

「おなかすいた」きゅるるる。

 うーん、気のせいか?

 少しロマンスに浸っていた。頭からとろけかかりを振り払う。

 探せば食い物ぐらい見つかるだろう。さあ、探そうか。

 それから探しておよそ1時間、あったのは大根の葉っぱのみ。

 少女、おもいっきし床に叩きつけた。加えて足でふみふみしている。

 混ざったことを根に持っていたのか…

 結局おっさんの懐からしなしなのベーコン数切れを見つけるのに、それからきっかり10分もかかってしまった。

 よほどお腹が空いていたのだろう、がっついて貪った。たちまちのうちに無くなってしまう。

 俺とじいっと指を咥えて見つめあう。

 おいおい、俺は食えんぜ。

 しずしずと両手でひどく大切そうに持ち上げた。

 ナマエ。

 秘密めかして共有して。

 謎めいた笑みが浮かび。

 ソム。ソム・マドルク。

 ワタシ?ワタシハ…

 そうだな。

 メルス。メルスっていうのはどうだろう。古語で、本物って意味があるんだ。君は本物だからね。

「メルス…」

 噛みしめるように、覚えこませるように。

「メルス…!メルス!」

 嬉しみが空気を震わせている。夢見て瞳を閉じて胸に祈るように手を当てて、そこから茎が巻きつき駆け上る。蕾がつき、花開く。百合だ。薫る。色とりどりの蝶が舞う。いや。フェアリーたちだ。旋律が、興を添える。オーロラが揺らめき、見目麗しい鳥の群れが彼方より飛来する。虹までもがかかる。美の醸成。饗宴。

 君の、力だ。

 一端なのかもしれない。

 誇りはしなかった。むしろ慈しんで。感謝して。

「どうしたい?」

「みてみたい。あるきたい。いっしょに」

 ナイフに袋類、チョークと火打ち石、頑丈そうな小ビン、石鹸。

 簡単な身支度をして。

 いざ、外の世界へ旅立とう。

 11日目終わり。

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