第19話 トライアングラー


 ふぅ、疲れた。俺は佐藤とのデートを終え帰宅していた。

 稲森協力のもと色々と際どいシーン撮影を頑張った。なんだか稲森の趣味も入ってたような気もするがまあいいだろう。


 俺の住まいであるアパートの部屋に明かりが灯っている。時間はまあまあ遅いってのに豪太はわざわざ起きていたらしい。

 こういう義理堅いことをされると、なんだかんだ嬉しいのはなんでだろうか。もし奥さんができたらこういう感じなのかもしれない。


 鍵差し込み部屋へと入る。するとすぐに豪太は現れた。

 ピンク色の可愛いパジャマでだ。



「寝ててよかったのに。わざわざ起きなくてもいいんだぞ豪太」


「豪太じゃなくてゆあです! 今の本当の名前は月宮ゆあって言いましたよね」


「俺からしたら豪太は豪太なんだよ。いくら見た目が可愛いゴスロリ女になってもな」


「えへへ、可愛いって言われちゃった♡」



 こいつは人の話を聞いてんのか。腹立つハートマークつけやがって。

 コートと上着を脱ごうとしたら自然と豪太がハンガーを持って脱がしてくれる。


 やけに手つきが手慣れてんなこいつ。一瞬でも気配りのきく妻になれるなと思ってしまった自分を殴りたい。

 


「ご飯は食べてきたんですもんね。お風呂、沸いてますよ」


「おう。さっそく入らせてもらうわ」



 豪太の提案にのり、脱衣所へ。明日も仕事だし体をゆっくりと休めよう。ってのに、なんでこいつは俺の後ろにピッタリついてくるのか。



「……おい。一緒に来るよう頼んだ覚えはないぞ」


「お背中流そうと思って」


「いらんわ! このくだり何度目だっつーの!」



 初めて豪太が俺ん家に寝泊まりしたときもこっそり背後からついてきたからな。油断も隙もねえ。

 というか男に背中を流してもらって喜ぶ奴がどこにいるんだっての。俺はまっぴらごめんだぞ。



「っち。そろそろ流れで行けると思ったんですけど」


「どういう思考回路してたらそういう考えになんだよ、まったく。

 あのな豪太。お前に紹介したい人がいるんだ。今週の金曜日の夜は予定を空けててくれよ」


「ついにご両親への挨拶でしょうか。まだ心の準備ができていないのですけど」



 両指でイジイジ、と照れる豪太。お前、どんだけポジティブやねん。



「はぁ、まあいいや。とりあえず予定はもう伝えたからな。約束だぞ」


「はーい」


「……」


 

 謎の沈黙時間。



「いや、だから早く脱衣所から出てくれます!?」


「もう、たっくんのケチ」


「そういう問題じゃねえっての!」



 豪太を無理やり追い出し扉の鍵をしっかり閉めておく。途中で乱入されたらたまったもんじゃねえからな。

 服を脱いで風呂場に行くとそこはピカピカに磨かれている。俺ん家の安アパートの浴槽なんてたかが知れてるってのに頑張って掃除してくれたらしい。

 毎日、毎日家事は凄い丁寧にやってくれるんだよな。



「こういう尽くしてくれる彼女? いや、彼氏は初めてだよな。これはこれで幸せなんかな。っていかんいかん。さっそく洗脳され始めてんな俺」

 


 風呂につかりながら今後のことを考えてしまう。

 うまく豪太を追い出せるのか、とか。俺の婚活ぜんぜん進んでねえじゃんとか。やっぱり新城さんと進展できなかったのが痛かったよな。

 もうチャンスはないのだけれど。


 そもそも俺は八代を見返したくて。婆ちゃんの言葉を受けて婚活始めたんだ。

 だけどまあこんなに結婚するのが難しいとは思わなかったぜ。



「やっぱ童貞がいきなり結婚するってのが無理な話なんかねえ」



 つぶやきは誰にも聞かれず消えていった。




 ▼ ▼ ▼




 ついに約束のご対面である金曜日。俺がよくいく居酒屋で佐藤と豪太は顔を向かい合わせていた。

 周囲は楽しそうに騒いでるってのに、ここの席だけ誰も喋らない。氷のように冷たい時間が流れちまってるよこれ。


 やべえ、これどうするよと考えている時、店員がビールを運んできてくれる。よしこれはチャンスだ。



「ビールも来たし乾杯でもすっか。ほらほらジョッキを持って。はい、かんぱ~い……」



 こいつらピクリとも動きやしねえ。

 豪太は下を向いてうつむいてるし。佐藤は嫌がってるところを無理やり連れてきたからか魂が飛んでやがるからな。

 このままじゃ話がまったく進まないんですけど!?



「佐藤さんとおっしゃいましたよね。たっくんとはどういう関係なんですか?」



 こっちもみずに豪太は底冷えするような声で話す。



「おい、佐藤。さっさと答えろ」


「えぇ無理っすよ……てか、ゆあちゃん可愛いじゃないですか。もう先輩これで妥協しましょうよ」


「アホか! 他人事だから適当言いやがって!」



 俺と佐藤は相手に聞こえないようこそこそ話。その態度が気に入らないのか「早く答えてくれます?」と、豪太は威圧してくる。

 やべえ、最近良妻賢母な態度ですっかり忘れてたけどこいつはヤンホモ属性だったわ。怒らせたら今日、俺は死ぬかもしれん。佐藤も道連れにしたるけどな。



「僕と先輩は世間一般でいうカップル的な? やつといいますか。なんといいますか」


「ではたっくんと付き合ってるんですね。じゃあ別れてください。たっくんは私と結婚しますので」


「ひえっ……はい、わかりました」


「ビビッて俺を売るんじゃねえバカ佐藤! いいか豪太。俺は佐藤と付き合ってんだ。だからお前とは結婚できない。

 ケッコン(ガチ)でマッチングしたのは色々と勘違いの結果なんだ。許してくれ」



 相手の目を見てはっきりと伝える。ここまで引き延ばしてきたけどそれはお互いの為にならねえからな。お願いだからわかってくれねえかなぁ、という淡い願いは速攻でぶち壊される。

 豪太はその可愛い顔を鉄仮面のような無表情にして反論してきた。



「たっくんは嘘をついてますね。まず一つ。佐藤さん、その左手の薬指についている指輪はなんですか?

 本当はもう結婚されてるとみましたけど」


「うぐ、これは……先輩無理っす助けてくださいよ」



 佐藤め。女との付き合い方だと頼りになるってのに男のこととなるとさっぱり駄目だな。腰が引けてやがる。

 

 女の感なみに鋭い豪太を納得させるために騙すしかねえ。



「これは俺が婚約するときにあげた指輪だ。文句あっか」


「へー、そうなんですか。大事な婚約指輪なのにたっくんはつけてないんですね」


「……こ、この前失くしちゃってな。ははは」


「いやいや苦しすぎますって先輩」


「うるせえ、お前はどっちの味方なんだよ」



 ああもう駄目だこりゃ。ぐだぐだだよ。

 だけど折れるわけにはいかねえ。俺の婚活物語がホモエンドになるのだけは阻止しないといけないんだからよ!



「たっくんは本当に強情ですね。わかりました。じゃあ最後に一つだけお願いを聞いてくれたら私も諦めることにします」


「おお、そうか。俺にできることなら何でもするぞ」


「んふふ。じゃあここでたっくんと佐藤さんがキスしてください。それで恋人という証明にしますから」



 ――はい? いや無理だって。佐藤とチュー? そんなのするなら死んだ方がましだっつーの!

 俺はあまりの無理難題に意識が遠くなるのであった。 

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