第17話 月宮ゆあの正体


 東京駅はいつだって混んでいる。平日だって休日だっていつも人でごった返していやがる。人混みって疲れるんだよな。

 新幹線で来ると連絡があった月宮ゆあとの待ち合わせのために俺はわざわざホームまで来ていた。


 ちょうど新幹線が到着してくる。

 ドキドキと胸の鼓動が早くなってきた。月宮ゆあは本当にあの写真のままなのか。フォトショ詐欺している可能性だってあるしな。


 とりあえずさっさと綺麗に別れを告げたい俺は昨日どうするか念入りにシュミレーションしておいた。

 さあ、こい月宮ゆあ。俺の準備はいつだって大丈夫だ。


 新幹線の扉が開き続々と人が降りてくる。その中でもひときわ目立つゴスロリ服。写真にあったように黒のフリフリは人の視線を惹きつけてやまない。


 こっちの存在に気づいたのか。人目もはばからず大きく手を振ってくる。小走りで近づいてきた月宮ゆあは普通に可愛かった。

 いや、普通なんてもんじゃない。特別可愛いと断言できるほどのロリータっぷり。



「たっくんさんですよね! 私、月宮ゆあです。お会いできて本当に嬉しい!」



 俺を婚活アプリ上のニックネームで読みながら、感激ですと言わんばかりの態度。初対面だってのにこの子はなんで俺のことがそんなに喜ばしいのだろうか。



「ええと月宮さんだよね。遠くからお疲れ様です。荷物重いよね。

 とりあえず喫茶店で休もっか」


「はーい!」



 なぜか月宮はおっきなキャリーケースで来ていた。

 もしかして日帰りじゃなくて1泊をご予定とでも言うのかこの女は。と、おもったがとりあえず声には出さないでおく。

 観光しに来ただけかもしれんしな。慌てない慌てない。


 駅中にあるしゃれた喫茶店。こういうのが不慣れな俺は月宮に席を確保してもらいその間に飲み物を買っておく。

 トールサイズとか色々言われるがまったくもって意味不明だ。S.M.Lサイズで言ってもらわないとおっさんはわかんねえんだよなぁ。


 飲み物を2つ買い月宮のもとへ。窓際の特等席に腰をかける。



「ありがとうございます。あの、お金払いますから」


「いいよ。東京への交通費考えたら安いもんだから」


「そんな悪いです……」



 申し訳なさそうに身を縮める月宮。

 あれ?もしかしてこの子、実はいい子なんじゃないか。あの病んでるといっていいほどの連絡攻撃の面影は一切ないし。


 でもそんな考えは束の間。俺はさっそく洗礼を受けることになる。



「あの、それで挙式はいつにしますか?」


「はい?」


「やっぱりジューンブライドでしょうか。それとも真夏のハワイ?私、たっくんさんとならどこでも大丈夫ですから」



 ……はっ! やべえ、いきなりの展開すぎて意識が飛んじまったよ。やっぱり月宮ゆあは頭のネジが1本どころか10本ぶっ飛んでやがる。


 とりあえず他の女を匂わせるべく稲森との写真を出すかと思ったが。



「一応聞いておきますけど、たっくんさんは他に仲のいい女の子なんていませんよね。

 もしいたら……私、悪い子になっちゃうかもしれません」



 はい、アウトー!!

 こんなところで写真を見したら稲森にまで被害が行きそうだ。それだけはダメに決まってる。


 しっかしなんで月宮は俺に執着するのだろうか。こっちは三十路童貞でイケメンとは程遠いのに。

 そんな疑問をぶつけてみると月宮は答えてくれる。



「やっぱり覚えてないんですね。私とたっくんさんは幼い頃に一度会ったことがあるんですよ」


「いやいや、それどこの漫画やアニメだよってなるから」


「冗談じゃないです。本気です」



 月宮の目は真剣だと訴えていた。



「小学生の頃、一緒に近所の神社で遊んだのを思い出してください!


「……小学生。神社か」



 記憶を辿るべく目を閉じる。

 俺は小学生の頃から男とばっかり遊んでいた。女子と遊んでも面白くねえと思ってたから。


 そういえば近所に転校生が越して来て、面倒見ろと親に命令されていやいや相手をした思い出があったような。

 色白で線が細くてなよなよしてたオカマみてえな奴。



「あれ、まてよ? あいつは男で……嘘だろおい。もしかしてお前、田代豪太か?」


「はい。本名は田代豪太30歳です♡」



 可愛く両手でポーズを取る月宮。じゃなくて豪太。

 さっきまで可愛く思えていたのに、身の毛のよだつ恐怖を味わってしまう。


 転校する前に離れたくない、と泣きついてたのは覚えていたが。まさかこんか再会するなんて神様は悪戯好き過ぎんだろ!



「いや、まてまてまて。俺は婚ケッコン(ガチ)を同性は禁止に設定してたはずだぞ! なんでお前が表示されてたんだ。詐欺だろこれ!」


「そんなことないです! 私はちゃんと性別男で登録してましたから!

 たっくんの写真を見つけた時すごく嬉しかった。あの憧れのたっくんが私と同じ考え方を持ってる人だなんて。

 きっとこれは運命なんだって」



 目が逝っちゃってる豪太は陶酔してやがる。

 俺は慌てて婚活アプリの設定を確認すると、まさかの同性ありに登録されていた。


 ふっっっざけんなぁ! 絶対これ柚葉の悪戯だろこれ!

 やべえ、俺もBLだって思われてんじゃねえか。これじゃ婆ちゃんの勘違いが本当のことになっちまうっての。


 この場をどう切り抜けるべきか。脳みそをフルスロットルで回転させてもいい答えは出るわけがなかった。



「そ、そういえばあのリスカ痕って本物なのか?」


「あれは冗談です。たっくんに構って欲しくて」


「ふ、ふーん、そっかぁ」


「でもたっくんに冷たくされたら私、死んじゃうかも」



 目のハイライトが消え豪太は無表情になる。

 病んでるホモとか誰得やねん。



「今日はたっくんと久々に遊べると思って楽しみにしてたんです。

いっぱい遊びましょうね!」



 嬉しそうに笑う豪太はどっからどう見ても女の子。ヒゲもないし指毛もないし。ゴスロリ服がそこらへんの女よりもよく似合う。


 下手したら一歩踏み外しそうな自分がいて恐ろしいぜまったく。


 とりあえずまあ、遠くからわざわざ来てくれたんだ。男友達と一緒に遊ぶぐらいの気軽さでいいだろう。一応、幼馴染ってわけだしな。

 キャリアケースをコインロッカーに預け、俺たちは遊びに繰り出すのであった。




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