婚活アプリ編
第12話 傷心帰省
「ゲホゲホ! ゲッホォ!!」
「兄さん咳がうっさいんだけど。静かにしてくれない?」
「……それが38.7度の熱を発していた兄に対する言葉か柚葉」
「はぁ。むしろ失敗が許されない受験生に風邪菌を持ってこないでほしいんだけど」
確かにそれは正論だ。でも事情を知っているお前くらい俺に優しくしてくれっての! こちとら失恋&風邪で身も心もボロボロなんだよ!
実家に帰省しさっそく風邪をひいた俺はまったく動けず、布団の上で新年を迎えてしまった。こんな物悲しい大晦日かは人生で初めてだよこんちくしょう。
あれよあれよと時間だけが過ぎていき、体調が良くなってきた頃にはもう1月3日。貴重な休みが油水のように消えてしまったところなのだ。
で、朝起きてリビングに行けば放置されたおせちと、テレビをだらっと観てる妹がいるってわけだ。
今まで素うどんとポカリ生活だったからな。おせちが普段より3割増しで美味しく感じるぜ。
「というかセンター試験そろそろだろ。どうよ、仕上がってるか」
「もっちろーん。合格したらお願い事聞くって約束忘れてないよね?」
「へいへい。わかってるっての」
飯を食い終わればやることなんて当然ない。実家に帰省しても暇になるのはよくあるこじゃなかろうか。
体調が万全だったらお参りとか行くんだけどな。
結局、柚葉と一緒にボーっとテレビを眺めるだけ。あ~、虚しい正月休みだなぁ。
「そういえばまだ結婚は諦めてないの?」
「まあな。でも婚活パーティーはもうこりごりかな」
「じゃあお見合いだねえ」
「う、お見合いか。それはそれでハードルが高いな」
お見合いとなると色々と敷居が高い気がするのは俺だけだろうか。
そもそも女性と2人っきりでまともに話せない俺じゃあ上手くいかないだろうし。
他に何か手はないものか。そんな悩んだ顔をしているとシスターアドバイスー! と、妙に浮かれたテンションで叫ばれる。
「いいですか兄さん。今の若者はSNSや出会い系でチョメチョメするんだよ」
「チョメチョメってなんだよ」
「でもそんなチョメチョメ目的に疲れてきた人もいたんだろうね。結婚を前提にお相手を探す婚活アプリが今、勢力を広げてるらしいよ!」
「おい、無視すんなし」
こいつは受験のストレスを謎の方向に発散してやがる。しかしまあ、婚活アプリか。時代は変わったな。ネットで結婚相手探すんだもんなぁ。
まあ正月休みで暇だしやってみっか。
「検索したら色々出てきたけどどれがいいんだよ」
「うーんとね、これが評判いいみたいだね」
「……ケッコン(ガチ)って変な名前のアプリだな、おい」
でもなぜかレビューの評価は星5という謎。サクラじゃねえのかこれ。
文句を言うと柚葉がうるせえからさっさとインストールしておく。完了して起動させると登録画面が出てくる。
なになに。ニックネーム、生年月日、性別、誕生日、血液型、給料……給料!?
「なんで俺の給料を晒さないといけないんだよ」
「結婚相手を決める時に収入は指標になるからね。兄さんの安月給でもなんとかなるよきっと」
「うるへー。俺だって精一杯働いてるっての!」
ったく、しょうがない続けるか。まだまだ入力しないといけない項目がたくさんある。
次は身長、体重、趣味、家族構成、相手に望む条件などなど。やべえ、なんかもう入力するだけで熱がぶり返しそうなくらい疲れるわ。
ようやく終わると顔写真をのせるとマッチング率アップと表示される。いやいや、誰がネットの世界で顔写真のせるんだよバカか。
「今時は顔写真のせるのなんて当たり前だよ。兄さんおっくれってる~」
「おいおい。ネットリテラシーという文化は爆散でもしたのかよ。なんで俺が変みたいな扱いなんだ」
「結局、イケメンか可愛いかってのが結婚相手に求める条件になるから写真をのせることになるんだよ。世の中やっぱり顔面偏差値だね」
「顔面偏差値50の俺はどうすればいいんだ……」
「うーん、兄さんは小数点切り上げしても41くらいかな」
うざ! この妹うざ! 自分がちょっと顔が整ってるからって腹立つ奴だぜまったく。
しっかし顔写真ねえ。自撮りなんて一切しないから1個もねえっつの。自分で撮るのも馬鹿らしいしな。柚葉に頼むか。
「えぇ……そのパジャマ姿はない。TPOをちゃんとわきまえたほうがいいよ」
「がぁぁぁーーー! めんどくせえ! 着替えて来てやるっての!」
光の速さで適当に引っ張ってきた服に着替える。
どうよ。これならいいだろ。
「絶望的にセンス無いからスーツ着よっか」
「あ、はい。もうそれでいいです」
スーツ姿で撮った写真はどうも面接写真に見えてしまう。変顔してもあれだしな。結局、微笑くらいの顔写真で落ち着いた。
よし、これで完了。あとは目当ての相手を見つけるだけだな。
入力した項目のおかげで最適な相手がリストアップされる。表示された女は可愛い子ばかり。なんでこの子たちが結婚できないんだ?
「兄さん。フォトショ詐欺ってやつもあるから気を付けてね。実際であったら外見オークだったって事例もネットには溢れてるからさ」
「うおい! そんな魔境に俺を叩き込むんうじゃねえ!」
「あはは、いいストレス解消になった! それじゃ私、勉強するから~」
そうやって柚葉は自分の部屋へ戻っていった。
俺を放置してゆうゆうと消えやがって。こっからどうすればいいんだよ。適当にアプリ内をいじっていると変な項目を見つけてしまう。
「対象相手を同性も可としますか、だって? うん? どういうことよ」
考えなしに俺はとりあえず可を押してしまう。するとさきほどまで表示されていた女性は消え、全て男性が表示される。
しかも半裸とか無駄に筋肉を主張した写真が多いんですが……。
急に後ろに気配を感じた俺は振り向くとそこには婆ちゃんがいた。
「な、なんだよ婆ちゃん。いるならいるって言えよ」
「タカちゃんはやっぱりビーエルが好きなんだねえ。結婚できないわけだぁ」
「違うわ! てか、まだその誤解続いてたんかーい!」
婆ちゃんの誤解を解いているうちにいつの間にか陽が落ちていた。
こうして俺の正月休みの1日が無駄に過ぎていくのであった。
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